第229話 大陸オークション後半の部 前編
◆◇◆◇◆◇
一時間の休憩の後に開始された大陸オークション後半の部の一発目は
剣身から柄まで白一色の長剣タイプの魔剣であり、豪奢な装飾などもないため全体的に無垢な印象を受ける。
発せられる魔力もその印象通りの静かさと大人しさだが、自然と視線が引き寄せられるほどの存在感を漂わせていた。
派手さは無いが異質さは感じられるという、今回の大陸オークションに出品されるのが確定している三つの伝説級アイテムの最初の品としては、ある意味相応しいのかもしれない。
『当オークション所属の上級鑑定士によりますと、此方の白亜の魔剣〈
『七千万!』
『一億』
『三億』
『三億五千万!』
『四億』
入札開始価格がこれまでよりも高いのもあって、すぐに入札争いは億単位になった。
伝説級の
アーティファクトであることも考慮すれば更に高くなるかもしれないな。
『二十億』
『二十二億』
『二十五億』
『三十億』
あっという間に三十億にまで達した入札争いは、当然ながらロイヤルボックス席同士によるものだ。
三席が争っているようだが、そろそろ俺も参加させてもらうとしよう。
金色のボタンを押すと、すぐ横に付いているマイクに向かって、威厳のある感じの重みのある声に変えてから喋る。
『ーー五十億』
『おおっと! 一気に五十億にまで上がったぞ!』
入札価格が二十億も跳ね上がったことに一般席の参加者達が騒ついているようだ。
これで他の入札者が退いたら楽なんだが、そんなに甘くはないらしい。
『五十二億』
『五十五億』
『五十七億』
『ーー七十億』
細かく刻む他の入札者を蹴散らすべく、再び金色ボタンで音声入札を行う。
『七十一億』
『ーー八十億』
『八十一億』
『ーー九十億』
『九十億まで上がったぞぉ! 他に入札はありませんか?』
入札争いをしていた各ロイヤルボックス席から悔しそうな感情の波動が感じられる。
どうやら落札を諦めたらしい。
二百億オウロまでは出すつもりだったから儲けたな。
『四番席の方が魔剣アルヴドラを九十億オウロで落札です! おめでとうございます!!』
「「「きゅ、九十億……」」」
リーゼロッテ達の中には九十億という大金に驚愕している者達もいるようだが、伝説級のアイテムはあと二つあるため、この程度はまだまだ序の口だ。
続いて出品された青と白のカラーリングの
このバルディッシュは特に手に入れたいわけではなかったが、思ったよりも値段が上がらなかった。
それならばと入札し、最終的に五百万オウロで落札することができた。
次に入札したのは短剣型アーティファクト〈戦蠍王の毒瘴刃〉だ。
名前の通りの強力な毒系能力を有する短剣であり、アーティファクトなのもあって落札価格は遺物級にしては高めの一千三百万オウロにまで上がることになった。
この短剣から能力を剥奪し、その能力を【万毒】と合成すればイイものが出来そうな気がする。
戦蠍王の毒瘴刃の後は、主に非戦闘系のアイテムが次々と登場しては落札されていった。
そんな非戦闘系アイテムの中から俺が落札したのは五つ。
一つ目は、使用者の知力値次第で初見のアイテムやスキルの詳細について調べられる、遺物級アーティファクト鑑定用ルーペ〈
似たようなことは【
初見のアイテムやスキルに対しては、アイテムを解析して能力を調べたり、スキルの名称から予想したり、【星の叡智】で情報を検索したりしているのだが、これらの作業は少なからず手間が掛かる。
正直言って面倒な作業であるため、視るだけで詳細を識ることができるならばかなり楽ができるので非常に嬉しい。
各種効果によって無駄に高まっている知力値が、対象を鑑識出来るか否かの判定基準になっているというのも素晴らしい。
落札価格は七百万オウロだった。
二つ目は、凡ゆる状態異常を治し、体力と魔力を全回復させるなどの効能がある伝説級アーティファクトである霊薬〈
劣化版であるため、極一部の特殊な状態異常や霊魂が負ったダメージが治せないなど失われた効能もあるが、それら以外の効能はエリクサーと変わらないらしい。
俺には各種回復スキルがあるので回復手段としてのレッサーエリクサーの必要性は低い。
だが、本物の霊薬があれば【
ドラウプニル商会で取り扱う霊薬のラインナップが増えることによって商会の収益も増え、此度の大陸オークション後に極寒の地となるであろう俺の財布を常夏の楽園へと戻してくれることだろう。
霊薬という都合上、一回限りの消耗品であるため落札価格は一億五千万オウロだった。
これの量産品を商会で販売する場合の店頭価格については、帝国に戻り次第
いくらにするかは未定だが、このレッサーエリクサーは純然たる金のなる木になってくれることだろう。
三つ目は、鑑定士の基礎レベルと知識不足により等級含めて詳細は不明だが、かつて存在した大国を滅ぼしたと言われる〈大魔獣アルデーモスの牙〉らしき二十メートルほどの黒光りする巨大な牙だ。
【情報賢能】で調べたところ本当にアルデーモスの牙のようで、長い年月の間に牙自体が魔導具と化していた。
そのまま素材として使っても良さそうだが、ギリギリ叙事級だったので複製した後に複製品から能力をいただくとしよう。
等級不明かつ真偽不明だったからか、三千万オウロという格安の値段で落札できたのはラッキーだったな。
四つ目は、アルデーモスの牙と似た経緯から、等級など詳細が不明の謎の金属塊として出品されていた
神の金属の異名を持つオリハルコンを超える金属であり、どのような金属とも結びつくなど様々な性質を持った、星の力の結晶とも呼ばれている素材だ。
商品の紹介内容によると、出品者も何をやっても加工が出来ないかなり高位の魔法金属としか分かっていないらしい。
俺の知識によれば、純正の神器には必ず使われているほどの素材なのだが、まさかこんなところで出逢えるとは思わなかった。
神域級の素材ともなると俺のスキルを使っても生み出せないため、確実に手に入れるためにいくらでも出すつもりだったのだが、最終的に二千万オウロという信じられない値段で落札できた。
正体を知っている身としてはあり得ない価格だ。
一見すると鉄に似た謎の金属塊でしかなかったからか、好事家が入札していたぐらいで思ったよりも入札価格は伸びなかった。
星鉄の塊は、鉄塊で例えるなら一キログラムはありそうな大きさがある。
現状では使う予定はないが、一グラムでも途轍もない価値がある金属であるため、持っていればいつか役に立つだろう。
そして非戦闘系アイテム最後の五つ目は、大量の魔力を消費して発動すると、自らを害そうとする一定ランク以下の攻撃魔法や状態異常などの攻撃性事象を強制排除する伝説級の指環型アーティファクト〈否災護陣の指環〉だ。
何の変哲もない銀色の指環にしか見えないが、司会者が装着して他のスタッフからの攻撃魔法を受けてみせたところ、司会者に迫った攻撃魔法が突如として弾け飛ぶように消え去っていった。
自動発動と任意発動のどちらでも発動できるらしく、伝説級のアーティファクトなだけあって魔法に関しては上級魔法まで排除することが出来るようだ。
スキルに対しては、おそらく
とはいえ、有用なアーティファクトなのは間違いないため、入札争いに参戦して六十三億オウロで落札した。
伝説級なので【複製する黄金の腕環】で複製できないのは残念だが、この指環の力を構成する術式を解き明かすことが出来れば、量産・転用することも可能になる。
そういう意味では落札価格以上の価値が見込める研究サンプルと言えるだろう。
「……稼いでいるだろうとは思っていたけど、予想を大きく上回るレベルの資金力ね」
「レンタルスキルを扱うようになって一気に収入が増えたからな。
「冒険者としての稼ぎもありますからね」
「そういえば、そっちの稼ぎもかなりあったな」
「それでも結構減ったんじゃない?」
「このオークションに出品した物も良い値段で落札されているから、全体的にはそこまで減ってないぞ」
更に言うならば、暗闘によって得た戦利品や魔物の巣から回収した金銀財宝による稼ぎもある。
少し前に倒した
財貨以外の魔導具ではない財宝類を売却して財貨に変えたいところだが、数が数だけに売り過ぎると値崩れしてしまうかもしれない。
どこかに良い方法はないだろうか。
此度の大陸オークションには、聖鎧ヴェネレヴィッタ以外にも叙事級二つに遺物級七つを出品している。
これら十個のアイテムを二回に分けて出品登録を行なっており、それぞれの手続き時には別々の姿に変装した上で偽装系魔導具を身に付けていた。
念には念を入れた対策を施しているため、十個の出品物の売り上げ全てが俺の懐に入ることを知っている者は誰もいないはずだ。
リーゼロッテとレティーツィアの二人と話している間に俺が出品した最後のアイテムが落札された。
聖鎧ヴェネレヴィッタの五十億オウロを筆頭に、合計で八十二億八千万オウロの売り上げになるようだ。
大体伝説級のアイテム一個分ぐらいにはなっただろう。
もっと出品しておくべきだったかとも思ったが、数が増えすぎるとオークション参加者の懐事情次第では一つあたりの落札価格が低くなってしまうので、今ぐらいが良い塩梅なのかもしれないな。
『四番席の方が〈
伝説級を除いて落札予定だった最後の叙事級のアイテムを落札した。
まだ掘り出し物があるかもしれないが、ここからは浪費は控えるとしよう。
俺の直感では、最後の伝説級のアイテムは出品カタログに記載されていた紹介文と写真からかなりの品だと感じたため、落札資金には余裕を持たせておきたい。
それに加えて、サプライズ商品があるかもしれない可能性を考慮しても、これ以上の入札はやめたほうがいいだろう。
詳細を確認したいと逸る気持ちを抑えつつ、目的の品が登場するのを大人しく待ち続けた。
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