第227話 大陸オークション当日
◆◇◆◇◆◇
「ーー本当にギリギリだったな」
「どうにか間に合って良かったわ」
今日は大陸オークション当日。
日が暮れて間も無い頃に開催される大陸オークションの会場に、開始一時間前になってようやく到着することができた。
こんなにもギリギリの時間になったのは、オリヴィアが国から任されている仕事が長引いたからだ。
元々昼頃にはエドラーン幻遊国に来る予定だったのだが、終業間際になってトラブルが発生し、その解決に時間がかかったんだそうだ。
アークディア帝国からエドラーン幻遊国への移動にはオリヴィアの転移魔法を使うため、同じく昼頃まで商会の業務を行なっていたシャルロットも足止めをくらっていた。
待っている間にシャルロットは着替えを済ませられたが、オリヴィアは仕事着のままでやって来ていた。
アークディア帝国の宮廷魔導師長としてのローブ姿なので、会場のドレスコード的に問題はない。
当人もそのまま出席つもりだったようだが、オリヴィア以外の全員が着飾っている中一人だけ仕事着なのはどうかと思うため、ホテルに到着したオリヴィアを別室に連行して着替えさせた。
オリヴィアのために用意していた俺特製のドレスへと俺が一気に着替えさせると、元メイドのエリンと現役侍女のユリアーネも加わり化粧も施した。
俺達三人の見事なコンビネーションにより、十分ほどで着替えと化粧の両方を終わらせると、チャーターしておいた大型馬車に乗り込んで大陸オークション会場に向かい今に至る。
「大陸オークションと銘打つだけあって凄い人集りね」
「西の端から東の端まで様々な国から来ているみたいだな。まぁ、取り敢えず中に入ろうか」
レティーツィアが言うように大陸オークションの会場となる建物の前には多くの人が集まっていた。
入場の順番待ちをしている多国籍多種族な人々の集まりは中々壮観だが、今はさっさと会場内へと移動する。
一般用の入場口からVIP用の入場口へと移動し、入場受付をしているスタッフにVIPチケットと共に幻主アイリーンから貰った国営レジャー施設の年間フリーパス券を提示する。
アイリーンからの話では、彼女だけが発行できるこのフリーパス券も一緒に提示することでより上位のロイヤルボックス席が使えるらしい。
大陸オークション会場もレジャー施設なのかは分からないが、アイリーンのみが発行できるだけあって実際にはレジャーに限らず都内の殆どの国営施設でも使えるようだ。
「ようこそお越しくださいました。オーナーより皆様をVVIP用のお部屋にご案内するように仰せつかっております」
「そうか。では案内を頼む」
「かしこまりました。お部屋に移動される前にVVIP様用の仮面に変更することをお勧めしております」
「より高位の偽装効果を持つということか」
「左様でございます」
「そういうことなら変更しておくか」
会場に入ってすぐの場所にあった小部屋にて、入国手続き時に受け取ったVIP用の仮面を返却してからVVIP用の仮面を装着する。
軽く調べたところ、偽装能力だけでなく材質もより高位の材質へと変わっていることが分かった。
着け心地も良くなっていたので変更したのは正解だったな。
それからスタッフに案内されてVVIP専用の部屋へと移動した。
部屋の内装は何処ぞの王宮の部屋かと思うほどに豪華な造りとなっており、華やかな装いの彼女達にはピッタリだと言えるだろう。
そういった貴賓室らしい内装の中で唯一異なるのは、壁の一面がガラス張りになっている点だ。
そこからオークション会場を見下ろすことができる一方で、外側からはこの部屋の様子を伺い知ることが出来ないようになっている。
特殊な製法で作られた魔導ガラスは室内を探る透視や遠視の類いを防ぐらしく、この魔導ガラスが使われているのは全部で二十部屋しかないVVIPルームだけなんだとか。
「オークションの入札手順の説明は以上でございます。何かご用がおありでしたらスタッフが参りますので、此方のボタンを押されてください。それでは、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」
ここまで案内してくれたスタッフが退室したのを確認すると、ソファに身を預けてオークションの開始を待つ。
元々使う予定だったVIP用の部屋の利用者や一般入場者の場合、オークションでの支払い能力の確認のために持ち合わせの現金の確認などが行われる。
会場の外に人集りが出来ていたのも、その現金確認のための検査の順番待ちが一番の原因だ。
一般入場者と比べればVIPの数は少ないーーそれでも百組はいるようだーーが、VIPが扱う金額も考えればそれでも検査には多少なりとも時間は掛かっただろう。
真偽判定能力を持つスタッフによる支払い能力の確認が行われるため、持ち合わせの財貨の全ての真贋が調べられるわけではないが、面倒な検査の類いは無いに限る。
VVIPにはそのような検査の類いは無いため、オークションが始まるまでゆっくりすることができるだろう。
「ねぇ、ご主人様。ここにあるのって好きに飲んでいいのよね?」
「ああ、いいぞ。ただしカレンは酒は呑むなよ」
「分かったー」
部屋に備え付けてある冷蔵庫型
とはいえ、備え付けの冷蔵庫の中身は無料であるが故に酒の数は少ない。
オークションが始まる前に追加で注文しておくとしよう。
スタッフ呼び出しボタンを押してメニューに載っている有料の酒を全部注文すると、すぐに全部の酒瓶が運び込まれてきた。
「リオンさん、オークションが始まる前にこんなに頼んで大丈夫なの?」
「全部で一千万ぐらいだし大丈夫ですよ。気にせずオリヴィアも好きなのを飲んでください」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」
右隣に座るリーゼロッテの更に隣に座るオリヴィアに言葉を返すと、俺も適当にアルコール度数も金額も高い酒を一つとって自分のグラスに注いだ。
「私にもちょうだい」
「私にもお願いします」
左隣から差し出されたレティーツィアとユリアーネのグラスにも注いでやる。
その直後にリーゼロッテが無言で差し出してきた空のグラスにも同じように注ぐ。
俺の周りに座っている四人は酒にかなり強いが、未成年のカレンを除いたエリン、マルギット、シルヴィア、セレナは普通に酔うためアルコール度数の低い酒かジュースを飲んでいるようだった。
そういえばシャルロットはどうなんだろうと思い、ユリアーネの隣の席に座っている彼女の方に視線を向けると、彼女の前にはこの短い間で空になった酒瓶が二つ置かれていた。
上品でありながらも水を飲むかのような勢いで酒を消費していくシャルロットは幸せそうに見える。
「……シャルロットは酒が好きなんだな」
「はい、お恥ずかしながら。あ、一人で飲みすぎでしたか?」
「いや、商会の仕事を頑張ってきてくれたし、好きなだけ飲んでくれ」
「ありがとうございます、リオン様」
俺からの後押しを受けたことによって、シャルロットの酒の消費スピードが更に上がった。
商会長である俺の専属秘書なだけあってシャルロットは高給取りだが、彼女でもこれらの高級酒は買えても月に一瓶までだろう。
そんなに酒が好きなら〈
【
程なくして、大陸オークション開始の時刻になった。
VVIPルームの正面ガラスからはオークション会場がよく見渡せる。
壇上でオークション開催の挨拶と注意事項を告げている司会者の声は、魔導具によってVIPルームやVVIPルームといったロイヤルボックス席に直接届けられるため、司会者による出品物の解説が聞こえないという事態は起こらないだろう。
大陸オークションは前半と後半の二部構成で行われ、間に一時間の休憩がある。
基本的に目玉となる商品は後半の部に出てくるそうだが、会場を盛り上げるために前半の部にも目玉商品の一部が回されることがあるらしい。
どのような順番で壇上に出品物が上げられるかは秘密になっているため気を抜くことは出来ない。
脳裏に所持金の額を思い浮かべつつ、テーブル上に設置されている入札ボタンを手元に引き寄せておく。
赤色の入札ボタンには幾つか種類があり、一万、十万、五十万、百万、五百万、一千万、五千万オウロと七つの入札ボタンに加えて、VVIPルームには音声で入札額を告げる金色のボタンがある。
最新の出品カタログを見る限り、今日は金色のボタンも押すことになりそうだ。
「今年はサプライズ商品があるといいですね」
「そうだな。まぁ、でも今年は一つだけでも出品されると話題になる
大規模カジノを出禁になってからの四日間は主に都内のレジャー施設で遊んでいたのだが、その際に施設のスタッフからサプライズ商品の話を聞かせてもらった。
サプライズと言うだけあって出品カタログには載っておらず、実際に会場にて紹介されるまで詳細は分からないとのこと。
ここ十数年ほどは出ていないそうなので、そろそろ出てきてもおかしくないらしい。
ただ、サプライズというだけあって徹底的に秘匿される都合上、用途不明な品や危険な品も珍しくなく、不要品の処分を兼ねている一面もあると言う別のスタッフもいた。
良い意味ならまだしも悪い意味でのサプライズな品だった場合、壇上に近い一般席の中には死人が出ることもあるそうだが、オークション会場への入場手続きの際に一般入場者は『会場内での事故に伴う凡ゆる損失に対する責任は問わない』という同意書にサインをさせられるため、死んでも自己責任なんだとか。
その点、ロイヤルボックス席は頑丈な造りと各種防御魔法、凄腕の会場の警備員達によって守られているあたり、金が掛かっているだけの価値はあるようだ。
『それでは皆様、大変長らくお待たせしました! これより大陸オークション前半の部を始めさせていただきます!』
壁越しに響いてくる一般席からの大歓声を聞きながら、司会者がいる壇上を注視するのだった。
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