第221話 エルピス
◆◇◆◇◆◇
「ーーユニークスキルを、ですか?」
「そうだ。ユニークスキルを持たないこの身でも、かの力を使えるようにならないだろうか?」
欲望迷宮〈フォールクヴァング〉でのレベル上げを終えた皇帝ヴィルヘルムから相談があると言われた。
護衛の近衛騎士達を部屋の外に待たせて、ヴィルヘルムをダンジョンに入ってすぐのエントランスにある観戦室へと案内すると、開口一番にそんなことを告げられた。
俺達二人以外に室内にいたレティーツィアとユリアーネも驚き……いや、驚いているのはユリアーネだけか。
察するに、ヴィルヘルムの実妹であるレティーツィアは、事前に似たような内容のことを相談されたことがあるのだろう。
「それは、唐突ですね」
【無限宝庫】から取り出した金属製タンブラーに冷えた果実水を注ぎ、ヴィルヘルムへと差し出す。
ヴィルヘルムは受け取った果実水を半分ほど飲み干すと、再び口を開いて言葉を重ねてきた。
「リオンと近衛騎士達のおかげでレベル六十にまで達したが、同時に今の自分の力不足も痛感してな。戦までの残り少ない期間で実力を上げるとなると、余が思い付くのはユニークスキルぐらいだ」
確かに、開戦までまだ一ヶ月以上あるとはいえ、ヴィルヘルムには皇帝としての公務が山のようにある。
そう考えると、自らの実力を上げるのに使える時間は殆ど無さそうだな。
「このダンジョンもだが、レンタルスキルというモノを生み出したリオンならば、ユニークスキルすらもあるいは……と、考えたのだ。だから、唐突ではあるが理由もなく言ったわけではないさ」
「なるほど。そう連想されても不思議ではありませんね」
つまり、他の者もヴィルヘルムと同じように考える可能性があるわけだ。
そんな予測が立つだけの判断材料を世に出したのだから、こればかりは仕方がないのだろう……しかも事実だしな。
「時にお尋ね致しますが、そのユニークスキルというのは自らの力のことですか? それともレンタルスキルとしてでしょうか?」
「それは勿論、レンタルスキルとして尋ねたのだが……今の言い方だと、自分自身のユニークスキルを手に入れられるように聞こえるな?」
前のめりになって聞いてくるヴィルヘルムの姿に、思わず苦笑しそうになるのを堪えつつ、【高速思考】で思考を加速させると、何と答えるべきかを考える。
俺のユニークスキルの力を使えば、他者の中に潜在しているユニークスキルを目覚めさせることができる。
レンタルスキルを発表して間も無い頃にも検討したことがあったが、ユニークスキルを目覚めさせたらレンタルスキルの利用率が下がる可能性が高い。
目覚めたユニークスキルの内包スキル次第では更に上がるかもしれないが、基本的には下がると見ていいだろう。
一度も試したことはないが、目覚めさせる対象であるユニークスキルの詳細に関しては、実際に目覚めさせる時になれば判明することが分かっている。
なので、内容次第ではユニークスキルを目覚めさせる分の利益だけでなく、更なるレンタルスキルの利用による利益すらも得られることだろう。
一方でレンタルスキルとしてのユニークスキルだが、これもまた実現可能だ。
現在、擬似ユニークスキルとでも言うべき内容のレンタルスキルの開発に取り組んでいる。
複数のスキルを内包したユニークスキルは、ただのスキルの詰め合わせとは違う。
それぞれのスキルの名称が同じでも出力や格などに差があるため、仮に同名スキル同士の力をぶつけ合わせた場合、勝つのはほぼ確実にユニークスキルに内包されたスキルの方になる。
故に、レンタルスキル仕様のユニークスキルとは、ただ複数のスキルを詰め合わせれば済む話ではないため、今はそのあたりの既存のレンタルスキルとの差や利用者のキャパシティへ干渉しないようにするなどの調整を行なっている最中だ。
まだレンタルスキルのサービスは始まって間も無いので、レンタルスキル仕様のユニークスキルを実装するのは時期尚早だと言える。
そのため正規サービスではないが、テスターとしてヴィルヘルムに使ってもらうのは一考の価値はある。
だが、こちらは実践テストであるため、得られる利益ははっきり言って小さい。
テスター候補自体は先日のクラン試験で大量に確保できている上に、皇帝であり超希少種族である冠魔族という点は贅沢かもしれないが、逆に言えばそれだけだ。
レンタルスキル仕様のユニークスキルはまだ調整が必要な段階であることを考えても、どちらを採用するかの結論は出たな。
「あると言えばありますが、ユニークスキルの潜在能力が無ければ意味がありませんよ」
「おお! それはどうやったら確かめられる?」
「身体に直接触れて、能力を調べさせていただければ分かります」
「好きに調べてくれ」
俺の言葉を聞き、ヴィルヘルムが躊躇うことなく手を差し出してきた。
自らの能力を他人に調べさせるリスクを知らないわけではないだろうに。
好奇心旺盛な少年の心があるからと言うべきか、俺がそれだけ信用されていると見るべきか……たぶん、両方かな。
「では失礼します」
「そんなに簡単に調べられるの?」
「まぁ、魔力と精神力を消費するが、調べるだけならそこまで大したことはないな」
同席しているレティーツィアからの問いに答えると、ヴィルヘルムの手に触れて【
同腹の妹であるレティーツィアにはユニークスキルの才があり、今は
同じ父母の血を引いているので、兄のヴィルヘルムもレティーツィアと同じようにユニークスキルの才がある可能性は高い。
「……やはり陛下にもユニークスキルが眠っていますね」
「本当か!」
「はい。ただ、少し特殊ですね」
「どういう意味だ?」
「形が決められた一つの枠に綺麗に入る物が二つあるイメージと言いますか……まぁ、端的に言えば覚醒できるユニークスキルの選択肢が二つあります。そして選ばれなかった方は今後も目覚めることはありません」
中々レアな形態なユニークスキルだが、ヴィルヘルムの従兄弟にあたるシルヴィアも試練系ユニークスキルなんてレアなモノを持っていたことを考えると、別に意外でもないのかもしれない。
「二つの内のどちらか一方のみか。覚醒には他に何か条件があるのか?」
「私が大量の魔力を消費する以外には特にありませんね……敢えていうなら私の気分次第でしょうか」
ユニークスキルを目覚めさせる対価についてまだ話していないことを遠回しに告げると、ヴィルヘルムも気付いたようで、少し気まずげに咳払いをしていた。
「ゴホン……勿論対価は支払うとも。レンタルスキルと違って自分自身のスキルならば、消えずにずっと保有できるのだろう?」
「そうですね。その認識であっています」
「うむ。ユニークスキル自体の価値についても重々承知している。そんな今後も目覚めるか分からないユニークスキルを目覚めさせてもらうのだ。それに相応しい対価を支払うことを余の名前で誓おう」
「ここのダンジョンに続いての取引ですが、本当によろしいのですか? 周りの方々から色々と言われるのでは?」
「私的な理由からの頼みではあったが、この皇帝の身の安全と戦力が上がるとなれば、個人としてだけでなく皇帝としても対価を支払うのは何もおかしなことではない。だから大丈夫だ」
なんとなく理論武装な気もするが、まぁ間違ってはいない。
実際に困るのは力を求めたヴィルヘルムだけだから、そのあたりは気にしないでおこう。
それから対価について話し合ったが、直近で欲しいモノは無かったので、取り敢えずツケておくことにした。
勿論、口約束ではなく最高位の
今後、何かしら俺が求めるモノができた場合、その対価として今回の件を持ち出し、双方の同意が得られれば対価が支払われ、契約が果たされたことになる。
実際のところ、ユニークスキル覚醒の対価ってどのくらいがちょうど良いんだろうな?
「では、どちらのユニークスキルを選ぶかをご確認の上でお決めください」
「うむ……」
【
ここまで引っ張り上げれば、ヴィルヘルム自身でそれぞれのユニークスキルの詳細を確認することが出来る。
今のヴィルヘルムの基礎レベルならば、問題なくユニークスキルの能力を把握することができるだろう。
あとは自らの意思で選択することでユニークスキルを取得することができる。
暫しの間、ヴィルヘルムの口から漏れ出る悩むような唸り声を聞いていると、ふと脳内に【情報賢能】による
[対象人物:ヴィルヘルム・リル・ルーメン・アークディアがユニークスキル【
[対象人物:ヴィルヘルム・リル・ルーメン・アークディアがユニークスキル【豊穣なる嵐の戦主】を取得しました]
[最上位権能による干渉が確認されました]
[最上位権能の干渉によって選択されなかった因子が蒐集されます]
[ユニークスキル【
おっと、これは予想外だ。
どうやら【
まさに棚から牡丹餅だな。
「無事に取得できたようですね」
「うむ。かなり悩んだが、こちらの汎用性の高い方を選ばせてもらった」
「問題なく使えそうですか?」
「ああ、こんな感じだ」
ヴィルヘルムの手の上で風が吹いたかと思えば、一点へと風が収束し球体になり、すぐに霧散した。
おそらく、今のは内包スキル【天嵐招来】だろう。
属性操作能力として招来系はかなり上の能力になる。
他にも【慈雨招来】という水系の属性操作能力もあり、残る別系統の二つの内包スキルと合わせて判断すると、
「惜しむらくは、今日はもう城へ戻らなければならないことか」
「ダンジョンでなくても使えるスキルなので、空いた時間があれば城内の修練場でも試せますよ」
「それもそうだな。ただ、実戦でも確かめたいので予約を入れておいてくれ」
「かしこまりました」
ヴィルヘルム一行が後日フォールクヴァングを使用できるように予約を入れておく。
ヴィルヘルムが覚醒させた【豊穣なる嵐の戦主】と雷光聖剣ソルトニスの相性は良いので、俺のサポート無しでもそれなりに奥のエリアの魔物を倒すことができるだろう。
「ねぇ、リオン」
「うん? どうした、レティ」
賢塔国セジウムの魔塔主の一人になったりレンタルスキルを発表したことによって俺の名声が上がって以降、ヴィルヘルムとレティーツィア本人からも言われて、レティーツィアとは他人の目があっても普通に話すようになっている。
周りの目を気にしなくていいのは楽で良いが、段々と外堀を埋められてる感が出てきたな……まぁ、今更なんだが。
「私とユーリにもユニークスキルはあるかしら?」
「どうだろうな。見てみるか」
レティーツィアとユリアーネの手に触れて確認してみる。
「うーむ……レティは今ある一つだけだな。ユーリは全く無いみたいだ」
「残念ね」
「残念です」
「持ってないのが普通なんだから、そんなものさ」
十七個目のユニークスキルを手に入れたばかりの俺が言ってしまうと、どうしても嫌味にしか聞こえないな……。
まぁ、俺がユニークスキルを幾つ持っているかは、リーゼロッテですら正確な数は知らないので嫌味だと思われることはないのだが。
別に後ろめたさを感じたからではないが、現在開発中のレンタルスキル仕様の擬似ユニークスキル群〈
弓使いであるユリアーネには【
レティーツィアに合いそうなのが複数あって悩ましいところだが、まだまだ先の話なのでスキルの選定は慎重に決めるとしよう。
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