第191話 スキルレンタル業
◆◇◆◇◆◇
「ーーやれやれ。お前というやつは、本当に話題に事欠かないな」
「自分でもそう思います」
新年の式典の翌日。
造船所から国営飛行場への新型飛空艇の移動を兼ねたお披露目を終えてすぐに、ヴィルヘルムからの使者がやってきた。
なんだかデジャヴを感じながら皇城に向かうと、そこでは呆れ顔のヴィルヘルムと宰相が待っていた。
ヴィルヘルムの会って早々のこの発言には、俺自身も深く同意せざるを得ない。
「やはり、ご用件は昨日のことですか?」
「ああ。余と宰相は城にいたから直接は見聞きしておらんのだ。スキルレンタル業とやらの詳細を開発者本人から聞きたくて呼び出した。あとは、前回は話せなかった次の戦についてもこの機会に話しておくとしよう」
どうやら、スキルレンタル業だけでなく、次の戦争についても話すようだ。
飛行場では勿論のこと、皇城の皇宮近くにある応接間に移動するまでにも、多くの貴族や騎士達などからスキルレンタル業について尋ねられた。
賢者にして剣聖、商会長にしてSランク冒険者である俺のスキルに由来する力を、金さえあれば借り受けることが出来るのだから、彼らが無関心でいられるわけがない。
スキルレンタル業の内容については、ドラウプニル商会傘下であるミーミル社が発行する明日以降の新聞に記載する、と伝えておいた。
なので、明日からの同社の新聞の売り上げが実に楽しみである。
「ここに来るまでにも、多くの方々から似たようなことを尋ねられましたね……」
「昨日の式典で戦の兆しを示したばかりだからな。戦功をあげる一助となる可能性が高い情報の真偽を確認するのは当然だろう」
「狙ったわけではなかったのですが、結果的に宣伝のタイミングとしては最適だったようです。さて、スキルレンタル業についての説明でしたね?」
「うむ。リオンが保有しているスキルの下位互換スキルを、金銭でレンタル出来るそうだが、その利用方法などについて説明してくれ」
「かしこまりました。用意してきました資料をもとにご説明させていただきます。まず最初にお伝えしておかなければならないのはーー」
ヴィルヘルムと宰相にスキルレンタル業について説明していく。
やはり第一に伝えておかなければならないのは、金銭でスキルをレンタルするというのは正確では無いという点だ。
金銭を使うのは合っているが、正しくはドラウプニル商会にて商品を個人で購入・売却した際に、それぞれの取引金額に応じたスキルレンタル専用ポイントが商会の会員証に付与されるようになっている。
このポイント付与は会員証を発行した時から行っており、昨日のスキルレンタル業を発表するまでは、今後行う新規事業で使用できるポイントとだけ説明していた。
商会の会員証には俺手製の個人認証技術が複数使われているため、他人が専用ポイントを使うことは不可能だ。
そんな地味に最先端技術が使われている会員証だが、このカード型会員証をスキルレンタル業の根幹たる魔導装置〈
「起動すると、エッダの水晶板に会員証に登録されている会員名と保有ポイント、会員証のランクでレンタル可能なスキルの一覧表が表示されます。スキル名の横には、レンタルするのに必要なポイント数と使用可能期間も表示されていますが、スキルごとにそれらは異なりますのでご注意ください」
「ふむ……商品の売買によってのみポイントが付与されるとあるが、金銭を直接ポイントに変換することは出来ないのか?」
「構想に組み込んではありますが、現状の仕組みの中にはありませんね」
「どのような構想なのだ?」
「金融事業です」
「金融事業……なるほど。ポイントに直接変換するために支払われた莫大な資金を使って、貸金を行うというわけか」
「ご推察の通りです。現在でも当商会に資金援助を求める個人や団体がおりますが、現在の商会の財政状況では手を差し伸べることができる範囲には限りがあります。その範囲を広げるための資金調達にスキルレンタル業はちょうど良いのですが、今以上の規模で貸金を行うとなると国からの許可が必要なので保留にしていたわけです」
「余は構わないぞ」
「陛下……」
「宰相よ、お前の懸念は分かるが今更だろう?」
懸念というのは、俺の影響力が今以上に強まることかな?
金が集まることによる莫大な資金を、貸金によって債務者へ対する強い発言力まで俺が得てしまうため、国家としては無視出来ない状況なのだろう。
規模が今より拡大すると国からの許可が必要なのもあって、これまで提案を保留していたのだが……どうなるかな?
「それについては同意します。ですが、もっとよく検討を重ねたうえでーー」
「冬が明けたら正式に宣戦布告を行うことになる。そのための準備は早い方がいい。そして、スキルレンタル業という初めてのシステムを国民が受け入れるための期間は長ければ長いほど良い。そのシステムを利用するのに必要な専用のポイントだが、現行の仕組みでは一つのスキルをレンタルするのに時間がかかりすぎる。金銭を直接ポイントに変換できるようになれば、その問題が解決できるだけでなく、そうして集まった金銭を更に他の者に貸すことによって、戦の準備を万全に整えることができるようになる者も増えるだろう」
「それは、そうなのですが……」
ヴィルヘルムからの指摘に宰相が思い悩んでいる。
これはあと一押し、いや二押しぐらいかな?
「金利や返済期間につきましては、その個人の社会的信用を担保に出来る限り考慮致します」
「う、うむ……」
「また、集まった資金なども用いて、此度の戦に必要な物資などを商会のほうから最大限支援させていただきますよ」
「……はぁ、分かりました。ドラウプニル商会の貸金業への参入を国から正式に許可を致しましょう。私のほうで必要書類などを用意致しますので、陛下とエクスヴェル卿は後日、書類の確認と捺印をお願い致します」
「ああ」
「承知致しました」
どうやら上手くいったようだ。
まぁ、商会からの物資の支援については、魔力さえあればいくらでも増やせるから実質的にタダなんだけどな。
「これでポイントの獲得は容易になったか」
「ええ。まぁ、会員証のランクを上げない限りレンタルできるスキルの数は増えないので、長期的にみると金銭をポイントに変換するだけだと損でしょうね」
「ふむ、確かにな。うん? どのランクでも
スキルレンタル業の説明のために渡した資料には、会員証のランクごとにレンタルできる予定のスキルの一覧が載っている。
スキルの分類ごとにスキルが載っているのだが、マジックスキルとジョブスキル、ユニークスキルの三種はどのランクでも一覧表には記載されていない。
「ジョブスキルは基本的に各種
実際のところ、現時点でもマジックスキルとユニークスキルの実装は可能だが、最初から全てを実装してしまったら以降の発展性が無くなってしまう。
アップデート間隔はどうするか……。
開発中の既存のスキル種には存在しない新しいカタチのスキルも実装予定だし、マジックスキルとユニークスキルは当分の間は実装しなくてもいいだろう。
「そうか。ユニークスキルがあるなら使ってみたかったのだが……」
そういえば、ヴィルヘルムはユニークスキルを持っていなかったっけ。
同腹の妹であるレティーツィアがユニークスキル持ちだから、発現する可能性は十分にありそうだ。
「ユニークスキルは総じて通常スキルよりも強力なので、レンタル可能になったら人気が出そうですね。レンタルできるスキルはエクスヴェル卿が保有するスキルの下位互換ということですが、マジックスキルとユニークスキルも同様なのでしょうか?」
「実装する時は、マジックスキルについてはランクアップしていない下位のマジックスキルで統一する予定です。ユニークスキルに関してですが、大半のユニークスキルは個々人に適したモノが発現しますので、私のユニークスキルの下位互換をそのまま実装しても扱えない者が殆どでしょう。なので、誰もがが扱えるように調整したユニークスキルを実装する予定です」
「……そこまでスキルに自由自在に干渉できるとは。まるで神の御業のようです。そんな神の手を持つエクスヴェル卿が保有するスキルの中には、とんでもないスキルがありそうですね?」
「はははっ、もしかしたらあるかもしれませんね」
宰相の物言いに苦笑しつつ、彼の探るような問い掛けを適当に受け流す。
それからスキルレンタル業のサービス開始日や、今度の戦争での俺の立ち回りについて話していった。
「魔塔主になったこともだが、スキルレンタル業にリオンの能力が深く関わっていることを考えると、リオンに前線への参戦要請を出すことは国の内外に大きな反感を招く。だから、此度の戦争においては、リオンには後方支援を頼みたい」
ふむ。大体は予想通りだな。
中立国家である賢塔国セジウムの権力者である魔塔主の一人に選ばれた時から、積極的な参戦が出来なくなることは予想できていた。
本国籍はアークディア帝国とはいえ、二重国籍になったからにはもう一方の都合も考えなければならない。
勿論、他国に侵攻された際の防衛戦や、前回のイスヴァル戦役のような国際的な大義名分があるならば別だ。
しかし、今回のような過去に奪われた国土の奪還戦、そこから繋げての侵攻戦は、非常に微妙なラインだと言える。
黒寄りのグレーと言ったラインなので、国際的にはセジウム側に配慮したという形に持っていくつもりなのだろう。
「後方支援とのことですが、私はアルヴァアインにいても構わないということでしょうか?」
「前線との距離は帝都よりもアルヴァアインのほうが近いが、情報が集まるのは帝都だ。今のリオンには転移魔法があるとはいえ、出来れば帝都に滞在して貰いたいところだ」
「期間が決まっているならばそれでも構いませんが、次の戦はいつまで掛かるかが不明です。神迷宮都市の冒険者としましては、いつまでもダンジョンから離れるわけにはいきません」
「別途報酬も付けるぞ?」
「申し訳ありません。商会の帝都支店とはすぐに連絡がつくようにしておきますので、ご容赦ください」
特にすぐに欲しい報酬も無いので帝都での待機は断らせてもらう。
情報云々を言っていたが、本命は帝都への逆侵攻などを警戒しての帝都の防衛だろうな。
順調に戦況が推移していった場合、追い詰められた敵国が一発逆転を狙って直接帝都に攻め入る可能性は十分にあり得る。
どの国家の首都でも、王城といった重要拠点には転移阻害の結界が常に張られているのが普通であるため、直接そこまでは転移してこれないだろうが、それら以外の城下町などには被害が出てしまう。
今度の戦が長丁場であるのもあって、首都たる帝都の防衛戦力を充実させるために俺を置いておきたいようだ。
「帝都に何かあったら、すぐに駆けつけられるか?」
「勿論です」
「そうか。ならばそれで頼む」
皇帝であるヴィルヘルムがあっさり引いたところから、あわよくば帝都の護りに置きたい程度でしかなかったのだと思われる。
そもそも、帝都には帝国の冒険者ギルド本部のギルドマスターにして上級Sランクであるヴォルフガングと、ヴィルヘルムの実妹にしてSランク冒険者であるレティーツィアがいる。
俺ほどの手札は無いが、二人がいる時点で帝都の護りは十分すぎるのは明らかだ。
「先ほどのお話とは少し矛盾致しますが、エクスヴェル卿には後方支援として前線での設営作業の手伝いをしていただきたいとも考えております」
「それは、大丈夫なのですか?」
「戦闘行為ではありませんし、設営は兵站という後方支援に含まれますので国際的にも何の問題はありません」
しれっとした顔で狡い提案を行なってくるあたり、宰相の面の皮は中々厚いらしい。
「まぁ、国際世論での私の評判が落ちないように国のほうで動いてくださるのと、ちゃんと報酬がいただけるのでしたら構いませんよ」
「お任せください。ただし、前線での作業中に人や魔物から襲撃を受けた際には防衛にご協力いただけますか?」
あ、さては、俺の滞在情報を上手く操作して、敵側がこちらの軍営に攻め入り難くするつもりだな?
或いは、襲撃されるにしても、俺が作業しているタイミングでやってくるように情報を操作することによって、実質的に防衛戦力に組み込むつもりなのかもしれない。
そう簡単に俺という戦力を使わせるわけにはいかないな。
「人や魔物を問わず私が防衛に参加した時は、その都度活躍に応じて別途報酬を追加していただけるならば全力で協力致しましょう」
「……いいでしょう。その条件で構わないので、万が一にも襲撃を受けた際にはご協力をお願い致します」
「承知致しました、宰相閣下」
その後も引き続き宰相と交渉している間、ヴィルヘルムは交渉を宰相に一任してスキルレンタル業の資料に目を通していた。
余程気になるらしく、電卓みたいな計算系
チラッと見た感じだと、やはり戦を想定した戦闘関連のスキルのレンタルが多かった。
ヴィルヘルムがユニークスキルを持っていたら、このレンタルスキルの構成も違ったのだろう。
おそらくだが、俺のスキルを使えばヴィルヘルムに眠っていると思われるユニークスキルを目覚めさせることは可能だろう。
だが、この手札をもっと有効的に使える機会があるかもしれないため、提案するのを躊躇っている。
絶対に欲しい報酬があるなら別だが、今のところは無いし、ヴィルヘルムもユニークスキルが無くて困っているわけではない。
ユニークスキルの発現の代わりに得られる報酬と考えたら、かなりのモノを要求できるだろうから、この切り札は慎重に扱う必要がある。
ユニークスキルを得たことで、ヴィルヘルムのレンタルスキルの利用が減ってしまうのも損だ。
ま、暫くは様子見かな。
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