第182話 精霊賢主 中編
◆◇◆◇◆◇
エスプリと六大精霊達からの猛攻を捌きながら、こちらも相手の力を削っていると、エスプリが新たな手札を切ってきた。
「っ! チッ」
手甲・足甲形態で四肢を守っている星剣アルカティムの片方の手甲を盾形態へと変化させる。
直後、真横に突如として出現した球状の魔力体が大爆発を引き起こした。
その破壊力は凄まじく、盾形態のアルカティムで直撃を防いだにも関わらず、身を守っていた【星鱗煌く強欲神の積層災鎧】の星鱗障壁が十層も破られてしまった。
爆発の余波だけでこれならば、直撃したら倍の二十層は軽く超える被害がでるだろう。
「
エスプリが身に付けている数多の
それぞれの発動までの隙の無さから、事前に先読み出来ていなかったら星鱗障壁の数を大きく減らされていたはずだ。
引き起こされた事象から判断して、エスプリが使用したのは
空間魔法特有の魔力と術式の動きが視えなかったことと、即座に発動したことから魔法ではなくユニークスキルのほうだと判断した。
【移動と破壊の統魔権】の
この奇襲力と破壊力は厄介だな、と思いながら刹那の間に状況を分析しつつ、爆煙に巻かれながら【隠神権能】を発動させて姿を隠す。
【隠神権能】の隠身能力ならば、姿を隠しても纏わりついた爆煙によって位置がバレるといった間抜けなことが起こることはない。
【狩猟神技】に【
姿が消えたことがバレるまでの僅かな間にエスプリの背後に回り込むと、その細首に向かってデュランダルを振り抜いた。
だが、何かが割れる音と共に、首に触れる直前だったデュランダルの刃が大きく弾かれた。
「なっ!? っと!」
一瞬の隙を晒した後に全力で後退すると、たった今俺がいた場所に破壊の魔力で紡がれた数十の魔力槍が突き出されてきた。
僅かに星鱗障壁を掠ったからか、【隠神権能】が強制的に解除されてしまい、振り返ってきたエスプリと視線が交わる。
「隠密能力まであるとは……すっごく貴重なアーティファクトを消費しちゃったじゃない」
二度目の奇襲に対処するためか、エスプリが破壊の魔力を鎧のように身体に纏わり付かせるのを眺めていると、エスプリが忌々しそうに懐から取り出したアーティファクトの残骸を投げ捨てた。
どうやら消費型の防御系アーティファクトによって攻撃を阻まれたようだ。
強化されたデュランダルの斬撃を防ぐほどだから、
後で拾って確かめよう。
六大精霊達が再びエスプリの守りを固めるために接近してくるのを感知しつつ、加速させた思考の中で現状の問題点について考える。
やはり問題なのは、一対多という数の不利だ。
これの解決策は既に手札にある。
自らの修練のために一人で倒したかったが、流石にSSランク相当一人に上級Sランク相当が六体、AからCランク相当が千体以上を、全て一人で相手取るにはまだまだ基本の身体能力が低い。
一時的ならば一人でも圧倒できるだろうが、大精霊も含めた精霊達は、魔力が供給される限りは不死身といってもいい継戦能力がある。
賢塔国セジウムから魔塔主の証としてエスプリに与えられている、過去に存在したとある賢者が生み出した遺産にして国宝たる〈賢者の石〉によって、彼女の魔力関連能力と演算能力は格段に強化されている。
それに加えて、アーティファクト〈精霊の箱庭〉の主としての特別な強化も受けているため、戦術級魔法や戦略級魔法を多用しても未だに疲弊する様子がない。
捨て駒として使われている上級精霊や中級、下級精霊達がいくらやられようと平気で復活できていることからも、魔力切れは期待出来ないだろう。
六大精霊達を短時間に何度も倒すことが出来れば違うのだろうが、コイツらは思っていた以上に強い。
精霊の箱庭からの強化が無ければ、ただの Sランク相当でしかないのだが、今の六大精霊達はただ厄介な存在だ。
星鱗障壁を割れるほどの攻撃力を持っているため、チマチマと削られた結果、残る星鱗障壁は半分を切っていた。
俺の魔力を消費して少しずつ再構築しているものの、戦いの激しさを考えると楽観視することはできない。
まぁ、【
数の不利を覆しさえすれば勝機が見える。
エクスカリバーなどの真の切り札を抜きにした、
そのためにも、これまでは切ることが無かった手札を晒すとしよう。
「【英霊顕現】」
ユニークスキル【
このスキルには二つの能力があり、その一つが今発動させた【英霊顕現】だ。
その効果は、『最大でこれまでに生命を奪った人類種の数だけ英霊騎士を同時に顕現させる』というもので、英霊騎士達は術者の能力値の七割の力を持っている。
ユニークスキルなどの一部の能力は使えなかったり、使えても劣化していたりしているものの、術者の能力も使えるという点は、【
能力値が最大値に設定された分身体と比べると弱いのが短所だが、分身体よりも低コストな上に俺の命令通りに自律行動をとる点が大きな長所だ。
発動した【英霊顕現】によって、翼の生えた騎士甲冑姿の白と黒の色彩の英霊騎士達が俺の周りに出現する。
空間に展開された数多の術式陣から生成された英霊騎士達の数はキリがいい千体。
今の俺のステータスから生成される英霊騎士達の性能は、大体はSランク手前であるAランク上位相当といったところか。
保有スキルも含めると、一対一ならば上級精霊に確実に勝てるほどの強さがあるはずだ。
「こ、これは……」
「そろそろ数の不利を無くさせてもらおうか。オマエも参戦しろ、【
「GRRRUAAAAAーーッ!!」
エスプリ達の頭上の空間が裂けると、咆哮を上げながら悪食龍蛇ニーズヘッグが姿を現した。
ユニークスキル【
そのまま地上に着地したニーズヘッグは、その巨体を活かして地上のゴーレムとキメラの軍勢を蹂躙していく。
強化されたデュランダルの刃でも致命的な傷を与えられないほどに頑丈な土の大精霊と、味方全体の俊敏性の強化と大気の操作などを行ってくる厄介な風の大精霊の無力化に成功した。
倒してはいないが、ニーズヘッグの体内は暴食のオーラに満ちているため、滅びないためには常に障壁を張り続ける必要がある。
大精霊が張る障壁の強度と暴食のオーラの破壊力は大体釣り合っているはずなので、暫くは脱出のための攻撃行動をとることは出来ないはずだ。
更なる増援としてオオカミタイプの戦闘系眷属ゴーレムである〈ゲリフレキ〉と〈ヒルドルヴ〉達もニーズヘッグの影を経由して地上の戦いへ参戦させる。
それらの動きを見届けると、ジョブスキル【
「【
ユニークスキル【
今の英霊騎士達は Sランク冒険者に迫るほどの強さを持っている。
そんな千体もの英霊騎士達に命令を下す。
「弓、構え」
全ての英霊騎士達が弓を具現化させると、青白い魔力の矢を番える。
俺も【七星変化】で弓形態に変化させた星剣アルカティムを構えると、虹色の光の矢を番えた。
「ーー放て」
「ッ、防ぎなさい!!」
立て続けに発動させる俺の能力と出現する戦力の把握に努めていたエスプリが、焦ったように精霊達に指示を出す。
直後、【
風の大精霊がニーズヘッグに喰われたことにより、対遠距離攻撃に有効な風の防護壁が上級精霊達が主体になって構築された。
その防護壁の背後には、契約者であるエスプリを守るべく、残る大精霊達が障壁を展開させていた。
だが、勢いを減じられても Sランクに迫る存在による矢が千発も放たれている。
そして、その矢は一撃で終わるはずがなく、立て続けに二射、三射と放たれたことによって、大精霊達が張った障壁には徐々に罅が入っていく。
攻撃の手を減らすために風属性以外の精霊達が英霊騎士達へ向かってくるのを確認すると、こちらも英霊騎士達の一部を迎撃に向かわせる。
弓から剣や槍に武器を持ち替えた英霊騎士達が精霊達を返り討ちにすると、そのまま敵陣へと特攻させた。
先ほど奇襲が失敗した時点で、精霊達の数は千を優に超えていた。
全ての英霊騎士を向かわせたならまだしも、半分の更に半分ほどの数しか特攻させていないため、一体あたりの強さは英霊騎士の方が上でも、数の利は向こう側にある。
接敵した今こそ、英霊騎士達が一方的に精霊達を狩っているが、やがて数の暴力に擦り潰されることだろう。
「だから、今のうちに決定打を打ち込もう」
乱戦に紛れて接近した数体の英霊騎士達が、大精霊達が張った障壁に攻撃を仕掛ける。
だが、 障壁を揺るがすことはあっても破壊するほどの攻撃力は無く、エスプリは一度チラッと視線を向けただけで魔法の構築を続行した。
「油断大敵ってな。今だ」
エスプリが視線を外した直後、障壁に張り付いていた英霊騎士達が眩い光を発して大爆発を引き起こした。
英霊騎士を構成するのは俺の魔力であるため、【紅蓮爆葬】の爆発条件を満たしており、その身体を構成する魔力量はかなりのものだ。
英霊騎士数体の同時爆発によって障壁は破壊された。
展開されていた風の防護壁も吹き飛び、放たれ続けていた矢の雨が精霊達に降り注ぐ。
それは油断していたエスプリも同様であり、咄嗟に魔法障壁を張って爆発と矢の雨に対処していた。
弓形態のアルカティムから放った虹色の光の矢を、【弓神瀑撃】で数十、数百発と増殖させて大精霊達を撃ち抜いていく。
そしてエスプリにはーー。
「ーー【
以前奪ったーー正確にはコピーしたと言うべきかーーSSランクである神弓使いが持つ神器たる神弓の黄金の一矢をエスプリへと放った。
能力により形成された妖しく輝く黄金の矢は、大精霊達が慌てて張り直した即興の障壁を容易く貫いていく。
エスプリも即座に魔法障壁を張り直すが、密かに接近していた英霊騎士達が展開した【
身を守る全ての魔法が消えたことに驚愕するエスプリの身体を、身に纏う破壊の魔力ごと黄金色の閃光が貫いていった。
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