第180話 側近達との戦い
◆◇◆◇◆◇
カルマダの本拠地である拠点系
その人数は全部で十三人いるのだが、他の大半の構成員である冒険者達とは異なり、カルマダのボスが直接連れてきた者達という話だ。
ボス同様に正体は不明だが、アルヴァアインの外から連れてきたとか、ボスとは師弟関係とか、カルマダ内でも色々と噂が立つほどに正体不明な者達であるらしい。
そんな正体不明な側近の一人が、ゴーレムとキメラ達を引き連れて迎撃に現れていた。
「支援系魔法使いか?」
突撃してくるゴーレムやキメラに付与されている大量の強化魔法を見て、群勢の後方にいるローブ姿の魔法使いが支援魔法の使い手だと判断する。
この数のゴーレムとキメラ全てに複数の強化魔法を付与できる腕前から、冒険者等級に換算するとAランク相当だろう。
【
そのため、この最初に接敵した側近との戦いは相手側の戦力を測るにおいて重要な機会だと言える。
「まぁ、もう大体分かったんだが」
向かってくるずんぐりとした体型のゴーレムや、様々な魔物の素材から作られたキメラ達の戦闘力は、平均してCランク魔物程度。
数十体のBランク魔物の群勢と考えると一般的には脅威なんだろうが、俺にとっては欠伸が出そうなレベルでしかない。
「ふぁ……ホントに欠伸でたな」
周囲に浮かぶ黄金色の光珠から同色の光線が放たれ、ゴーレムとキメラ達の頑丈な身体を一切の抵抗なく貫いていく。
【光煌の君主】の能力の一つである【光煌王装】は、元になった【極光武葬】よりも強力だ。
黄金の光線は岩石や金属で構成されるゴーレムの身体を蒸発させ、キメラ達を構成する多種多様な魔物の肉体を焼滅するほどの熱量を発している。
この光線の前では、BランクであろうとCランクであろうと違いは無い。
俺の元に到達することも出来ずに焼き切られ、バラバラにされるゴーレムやキメラ達を見て、側近は慌てて炎熱耐性と聖光耐性を強化する魔法を付与し始めた。
あの慌てぶりから実戦経験に乏しいことが窺える。
「ま、正体を知れば不思議ではないか……」
多少攻撃に耐えられるようになった群勢に対して、光線の発射台である光珠を増やして対処する。
接敵後も進む足を止めることなく戦闘を行なっているため、その場に留まって魔法を行使している側近との距離は縮まっていくばかりだ。
「……もう手札は無さそうだな。終わらせるか」
全ての光珠を二つに纏めて巨大化させると、これまで以上に直径の大きい光線を放つ。
回廊の殆どを占めるサイズの二つの光線は、側近への直撃は避けてゴーレムとキメラ達を蒸発させた。
直撃していないとはいえ、群勢を蒸発させるほどの熱量を持つ光線がすぐそばを通った余波は、当然ながら側近にまで及んでいる。
「ふむ。生きてはいるが、悲鳴を上げる暇もなく黒焦げになったな」
足元で炭化して倒れている側近の身体から、各種
一つ一つが半壊している上に皮膚とくっ付いてしまっていたが、まだ直せば使えるので無理矢理剥ぎ取っていく。
「……っ!?」
「お、目覚めたか。まだ生きてるし、捕虜はオマエでいいか」
クロウルス伯爵から生きたまま捕縛できる者は捕縛して欲しいと頼まれていたので、この側近は生かしてやることにした。
回収した戦利品ごと側近の身体の状態を【復元自在】で復元する。
白銀色の魔力光が纏わり付いた次の瞬間には、黒焦げの部分も火傷の痕も全く無い側近の身体がそこにあった。
「……そういや女だったな」
「うっ!」
【万毒】で指先に生み出した睡眠毒の針を直接身体に打ち込んで強制的に眠らせる。
敵とはいえ、流石にうら若き乙女を全裸の状態で引き渡すのはどうかと思うので、ほぼ灰になってしまっている下着やらの魔導具以外の衣類も【復元自在】で復元させておく。
「薄着だが、裸よりかはマシだろう」
装備的にも状態的にも無力化が済んだので、戦利品として【魔権の欠片】を貰っておくことにした。
[保有スキルの
[スキル【魔権の欠片】がスキル【魔権の断片】にランクアップしました]
「断片ねぇ……」
どうやら〈欠片〉の熟練度が上がると〈断片〉になるようだ。
【星の叡智】によると、今はただの魔力増幅効果を持つスキルでしかないが、最終的にはとある系統のユニークスキルになるらしい。
前世の漫画や小説にゲームではお馴染みのアレらの名前を冠するようなので、是非とも手に入れたいところだ。
側近達の中にはその系統のユニークスキルを所持している者達がいるので、今日中に獲得するのは確定している。
それらとは別に自力での覚醒も目指したいところだ。
「それにしても、側近にしては意外と綺麗な魂の色をしているな。もしかして、こっちに来て日が浅いのか?」
あるいはカルマダのボスや他の側近達に半ば強制的に参加させられたのかもしれない。
となると、あまりカルマダの情報を持ってなさそうだな。
まぁ、元より二、三人は生きたまま捕まえる予定だったのでやることは変わらないんだが。
呑気にスヤスヤ眠る側近の身体の真下から、オオカミ型眷属ゴーレム〈ゲリフレキ〉が姿を現す。
背中に乗せた側近が振り落とされないように、ゲリフレキの影の身体を変化させて固定させると、精霊の箱庭の出入り口まで運送させる。
出入り口に捨て置かれている捕虜も脱出の際には一緒に外に連れていくよう、【意思伝達】でリーゼロッテ達に伝えておいた。
やることを手早く済ませると、更に先へと進んだ。
◆◇◆◇◆◇
「死ね死ね死ねぇっ!!」
「当たれ!」
「死んで、ください!」
広場で待ち構えていた三人の側近達による頭上からの攻撃魔法の絨毯爆撃を躱しながら、追従する光珠から光線を放って反撃する。
この三人はそれなりに戦い慣れているようで、上級の攻撃魔法の連続発動と飛行魔法の維持を両立させながらも、こちらの光線をギリギリではあるが避け続けていた。
ここでも変わらず襲い掛かってくるゴーレムとキメラの群勢に対しては、光珠と同じように【光煌王装】で生み出した光の大剣を振るって殲滅していく。
大気には猛毒の紫色の気体も散布されていたが、【猛毒無効】がある俺には効かないので無視して戦い続ける。
「くそっ、埒が開かない! 戦術級を使う。発動まで二人は全力で攻撃を防げ!」
三人の中では一番年嵩らしき側近が戦術級攻撃魔法発動の準備に入り、他の二人の側近が発動までの時間稼ぎのために魔法障壁を幾重にも展開する。
どうやら戦術級魔法を瞬時に発動できるだけの力は無いようだ。
「ーーグボっ!?」
「狙いは悪くないが、相手が悪かったな」
上空で発動寸前にまで至っている戦術級魔法に注目を集めている隙に、これまで姿を消して潜んでいた別の側近が背後から接近してきたので、逆手に持った光の大剣で振り向かずに串刺しにする。
[ユニークスキル【
初の魔権系ユニークスキルを獲得に喜ぶ間も無く、上空で戦術級魔法『
降り注ぐ朱色の業火の牙を迎え撃つのと、周りを取り囲む群勢の処理も兼ねて【
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」
かつて使用した、【
俺を包囲していたゴーレムとキメラ達が一瞬で粉微塵になって滅び、不可視の衝撃波を受けた広場の床や壁が砂塵となって崩壊した。
精霊殿全体が悲鳴を上げるように震えたが、まぁアーティファクトだからきっと大丈夫だろう。
白色の床や壁の一部が塵になったことで出来た白い砂丘に、上空から落ちてきた三人の側近達の死体が突き刺さっているのが見える。
『朱牙炎墜』の朱炎の牙が【破滅へ至る神災咆哮】によって破裂した直後に側近達は即死した。
戦術級魔法を即座に発動出来ないようなレベルの魔法使いが発動させた二十や三十程度の数の魔法障壁など、このスキルの前では有って無いようなものだ。
[スキル【催眠の魔眼】を獲得しました]
[スキル【絶対音感】を獲得しました]
[ユニークスキル【
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[スキル【魔権の断片】がスキル【魔権覚醒の兆し】にランクアップしました]
[スキルを合成します]
[【竜種の眼光】+【停止の魔眼】=【強欲竜の眼光】]
[【重力異場】+【獣王の制圧】+【強者の圧力】=【君主の星圧】]
[【幻惑の魔眼】+【極死の魔眼】+【催眠の魔眼】=【死幻王の瞳】]
ここまでで俺が遭遇した側近は全部で九人。
うち三人は生きたまま捕縛し、今遭遇した四人と、この広場に来るより前に戦った二人はそのまま討伐した。
少し前にリーゼロッテ達が接敵した二人の側近は、最終的に一人はフェインの魔槍で首を刎ねられ、残る一人はリーゼロッテによって氷漬けにされた上で砕かれて死亡している。
「ふむ……捕まってた人達は出入り口に向けて護送中だし、そろそろペースを上げるか」
側近は後二人いるので、この二人を狩ってからカルマダのボスがいるところに直行することにする。
今倒した四人の前に倒した二人からは記憶情報も奪ったのでもう十分な気もするが、側近は残り二人しかいないので、情報の精度を上げるためにも記憶情報を貰っておいたほうが良いかもしれない。
「これ以上時間をかけるのもなんだし、魔眼でさっさと倒すか」
その後、魔法的なトラップを仕掛けて待ち構えていた側近二人を【死幻王の瞳】で無力化してから、【
これで残るカルマダの戦力はボスだけになった。
ここまではスキルの試運転も兼ねた戦闘が殆どだったが、カルマダのボスを相手にする際には剣も使う必要があるだろう。
相手が相手なので、どんな手札があるかは分からないので、最大限に警戒してから挑む必要がある。
実力と戦利品が如何程のものか今から非常に楽しみだ。
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