第155話 魔蟻のエリアボス 前編
◆◇◆◇◆◇
神迷宮都市アルヴァアインに巣食う害虫の駆除の手順について考えていると、魔蟻達の支配領域とも言える第三十八エリア帯の外縁部に到着した。
「本当に土の壁だな」
この第三十八エリア帯は少し特殊な環境フィールドになっており、エリア帯全域が蟻の巣のような地形で構成されている。
そのため、この〈蟻の巣〉フィールドの通路の壁は基本的に土製であり、突然真横から壁を破壊して魔蟻が襲ってくることがある……今この瞬間のように。
「キィエエエエ!!」
「喧しい」
真横の土壁を突き破って襲い掛かってきた魔蟻の頭部を、虫を払うように繰り出した裏拳で破壊する。
「ギルドの資料によれば、アリ達が横穴を掘るたびに通路が増えるから厄介、だったかな。過去のマップが役に立たないのは大変だろうな……普通なら」
だが、俺には関係の無い障害だ。
脳内に表示されるユニークスキル【
リアルタイムで通路が増えているのが確認出来たのと、エリア帯全体のマップも更新され続けているので、俺がここで迷うことは無さそうだ。
エリアボスがいるエリアと周囲の小エリアの全ての地形が蟻の巣フィールドである所為で、他のエリア帯にはあるような偽りの空も無く、閉塞感の強いこのエリア帯での視界は非常に悪い。
魔蟻が目に頼らない生態である所為で、他のエリア帯にある発光する結晶体のような光源が置かれていないのが理由だ。
複雑に入り組んだ迷路状の地形も相まって、光源を持参しても照らされる範囲が狭くなるので、難易度の高さは中層でも屈指のレベルらしい。
まぁ、俺には暗視能力もある【星王の瞳】があるから問題無いのだが。
「お、大群だな」
土の回廊を暫く進むと大広間に出た。
そこには百体を超える数の魔蟻達が敷き詰められており、俺が大広間に足を踏み入れた途端、魔蟻達が一斉に振り向いてきた。
見える限りでは高位の魔蟻はいないようだ。
「ふむ。試すにはちょうど良い数かな」
迫り来る群勢を前に【
外見上の変化こそないが、この攻撃系スキルによって俺の全ての物理系攻撃の威力が劇的に強化されたはずだ。
立ち止まった状態からの攻撃でも強化されるが、前進ーー移動さえしていれば前方じゃなくても良さそうだーーすればするほど更に強化されるため、効果を最大限発揮したいなら前進するべきだろう。
「完全に過剰攻撃だからなぁ……まぁ、いいか」
地面を蹴って前方の魔蟻達へと軽く突進する。
リーチを伸ばすために、【魔装術】で実際の腕に重ねるようにして魔力製の半透明の巨腕を生み出すと、その巨腕を正面の魔蟻達へと繰り出した。
実際の腕よりもリーチが長くサイズも大きい巨腕の拳撃は、直ちに群勢の先頭にいた魔蟻へと直撃する。
その瞬間、轟音と強烈な光が大広間を満たし、正面にいた魔蟻達が消滅した。
被害は正面だけに留まらず、左右に展開していた魔蟻達の内、正面の魔蟻達の近くにいた個体も拳撃の余波によって消滅、或いは破裂していっていた。
それ以外の個体も、発生した暴風に押されて大広間の端の方へと吹き飛ばされている。
つまり、ただの一撃で百体余りの魔蟻の群れが壊滅したというわけだ。
「……これは、過剰攻撃どころの話じゃないな」
地響きとともに天井や壁が崩れようとするのを、【発掘自在】による地形干渉能力で修復しつつ、嘆息しながら辺りを見渡す。
拳撃の風で吹き飛ばされた魔蟻も、地面を転がったり壁に叩き付けられたりしたため無傷ではない。
当たり前だが、このスキルのこれ以上の検証は出来ないだろう。
「うん、このスキルはまたの機会だな」
目の前の惨状の確認と残敵の排除を済ませてから、【欲深き強欲神の神撃殲葬】と魔力巨腕を解除した。
破壊力もそうだが、ここのような閉鎖空間で使ったら天井といった地形が崩壊して生き埋めになりかねないことも分かったので良しとする。
例え生き埋めになったとしても、俺には【発掘自在】と【酸素不要】があるので大丈夫だろうが、万が一にもこのエリア帯が二度と使えなくなる事態になったら拙いので自重するとしよう。
それからも、最短ルート上の広間にいる魔蟻達などの道中の敵のみを蹴散らしながら、マップを頼りに進み続けた。
やがて、これまで最も広い空間であるエリアボスの領域に辿り着く。
ここのエリアボス〈
その周りには護衛である〈
一番後ろの二本の脚で立っており、それ以外の脚は手として扱っているらしく、四本の手には能力で具現化した生物感溢れる様々な武具が握られている。
それらの剣や槍、盾などを構えて此方を警戒する動きに人間臭さを感じつつ、【星罰の煌剣】を発動させた。
神聖さを漂わせた蒼刃の煌びやかな剣を周囲に十本具現化させると、煌剣達に指示を出す。
「斬り刻め」
俺からの指示を受けて全ての煌剣が一人でに宙を駆ける。
自律行動をとる遠隔操作式無人武器であるため、俺の意思一つで煌剣達は敵を斬り刻む。
全身を輝かせながら突撃した煌剣の蒼刃が、ロイヤルガードアントの剣と接触する。
金属同士が互いを削りあう異音が一瞬聞こえた後に、キンッという甲高い音を立ててロイヤルガードアントの剣が折れた。
敵の剣を折った煌剣は、そのままロイヤルガードアントの腕を二本切断したが、攻撃はそれだけでは終わらない。
腕を斬られて怯んだロイヤルガードアントは、立て続けに飛来した二本の煌剣によって、反対側の腕二本、頭部の順に部位を刈り取られていった。
縦横無尽に高速で飛来する十本の煌剣は、瞬く間に魔蟻達を解体していく。
女王蟻ベルレギナの護衛であるロイヤルガードアントは、Aランクに近い
準ボス級ですらない魔物が具現化させた武具程度で防ぎ切れるような代物ではない。
とはいえ、思ったよりも攻撃力がある気がするが……なるほど。どうやら飛翔物による攻撃だからか、【天導覇射】の補正効果がプラスされていたようだ。
魔法だったら効果は無いが、【星罰の煌剣】は魔法じゃないから効果があったらしい。
「一方的過ぎる蹂躙の理由はコレか。思ったよりも良いスキルができたみたいだな」
戦闘開始から十秒足らずでロイヤルガードアントの数が残り四体になった。
このまま煌剣に任せて殲滅してもいいが、残りのロイヤルガードアント達には別のスキルを使いたいので、煌剣達にはエリアボスであるベルレギナを襲わせる。
「まずは、これだ」
一体のロイヤルガードアントを直視すると、右眼で魔眼系スキル【解奪の魔眼】を発動させた。
ほどなくして魔眼の標的になったロイヤルガードアントが悲鳴を上げると、その身体に宿る生命力に魔力が奪われるだけでなく、身体を構成する物質が粒子状になって崩壊を始める。
頑強そうな甲殻が穴だらけになり、その部分を構成していた分のエネルギーへと変換されていく。
やがて、悲鳴を上げて五秒が過ぎた頃にロイヤルガードアントが地面に倒れ込むと、一気に残っていた肉体全てが粒子状になって俺へと吸収された。
「対象の力を分解し、吸収・強奪する魔眼……ってところか。我ながら強欲らしい魔眼だな」
この魔眼で奪えるのは生命力と魔力だけでなく、対象の能力値の一部と保有スキルも強奪することが出来る。
能力値とスキルまで奪うには、対象の肉体を崩壊させるほどに魔眼の出力を上げる必要があり、それなりに
奪った能力値の全てを自らの能力値に還元できないが、一部だけでも能力値が増えるのはかなり規格外の魔眼だと思う。
まぁ、流石に基礎レベルの近い相手や格上から奪えるほどでは無いようで、生命力と魔力だけなら人・魔物問わずAランク以下まで、能力値とスキルも含めるならBランク以下にしか通じなさそうだ。
[スキル【煌殻護甲】を強奪しました]
[スキル【蟻針手甲】を強奪しました]
[スキル【意思伝達】を強奪しました]
三体のロイヤルガードアントの力の全てを奪うと、残る一体に対しては【掌握の魔眼】を行使した。
この魔眼は視界に映る空間に干渉する魔眼であり、端的に言えば【強欲王の支配手】の魔眼版と言ったところか。
あちらとの違いは、視界の範囲であるため射程距離が長いことと、干渉範囲を絞れば干渉力が上がること、対象を一体に絞ってやっと【強欲王の支配手】に並ぶ程度の干渉力であることぐらいか。
一体に限定すれば、耐久性に優れた種族であるロイヤルガードアントを甲殻ごと圧殺できるほどの干渉力を持つならば、間違いなく使える魔眼だと言っても過言ではない。
ロイヤルガードアントと比べれば肉体的な耐久性に乏しい人間にとっては、射程距離の長さも相まって脅威的な魔眼だと言える。
バキバキという音を鳴らして甲殻を圧壊させてから、ロイヤルガードアントの頭部を潰した。
これで新しい魔眼の実践と護衛の排除は完了だ。
あとは女王蟻の討伐なのだが……。
「あれは……卵か?」
「GIYEEEEEEE!!」
飛び回る煌剣に全身を切り刻まれていたベルレギナが巨大な卵を産み落とすと、最後の力を振り絞るようにして咆哮と魔力の波動を周囲に解き放った。
その波動に押されて煌剣がベルレギナから距離を取る。
再び煌剣が距離を詰めようとした矢先、ベルレギナの巨体が地面に倒れ込んだ。
[スキル【生錬鎧殻】を獲得しました]
[スキル【生命錬化】を獲得しました]
[スキル【存在継承】を獲得しました]
【
「ギルドの資料には無かった現象だが、獲得したスキル的にも第二ラウンドってことだよな」
視線の先ではベルレギナが死の直前に産み落とした卵が割れ、中からロイヤルガードアントと同様の人型の魔蟻が姿を現した。
その魔蟻が放つ気配は、女王蟻ベルレギナを大きく上回っていた。
女王蟻の時よりは楽しめそうかな?
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