第105話 魔竜王鎧レヴィアーダ
◆◇◆◇◆◇
ドラウプニル商会の支店と本店を見て回った日の夜。
週に一度のペースで通っている隠れ魔導具店〈斜陽の月〉にやって来た。
初来店時を除いて、特に目新しい品が無かったので、今では要らない品を売って大金を得る場として利用している。
ちなみに今回は、昼間に帝都支店の建物購入で出費した分を補填するために来たので、今週二度目の来店になる。
適当な品を売って得た金貨の山を収納系
「いつも当店をご利用いただき誠にありがとうございます。本日はお客様に特別な品をご紹介させていただきたく存じます」
「特別な品だと?」
姿形と声を【千変万化】で変化させ、立ち振る舞いと口調も意識して変えながら魔人種の店主に聞き返す。
どうやらやっと特別な客扱いしてもらえるようだ。
「あまり表沙汰には出来ない品々ですが、その効果と希少性は当店の名にかけて保証致します」
隠れた名店とかならまだしも、闇商店の類いの店の名にかけて保証されてもな……まぁ、確かに品揃えは良いからギリギリ納得できるかな?
店主は護衛兼助手の大男が奥から持ってきたサイズの異なる三つのケースを受け取ると、その一つをカウンターの上へと置いた。
ケースを渡すと大男はそのまま俺が入ってきた扉から外に出て、新たな客が入って来ないように門番のようにその場で仁王立ちになった。
「資格の無い他のお客様の目には入れるわけにはいきませんので」
「なるほど」
「それでは、こちらが一つ目の商品になります」
そう言って開けられたケースの中には、一つの古びた長槍が入っていた。
元は銀色だったようだが、古びたと言う表現通りに全体的に煤けており、生物で例えるならば活力を失っていると言った雰囲気を漂わせている。結構年季が入っている槍だ。
「こちらの槍はとある国の国宝でして、戦場にて元の所有者が亡くなった際に第三者により拾われ、暫くの間使用された後に売り払われた品でございます。噂によれば今なおかの国はこの槍の所在を探しているほどに貴重な品になります」
「まぁ、
「ご慧眼の通り、この槍の等級は叙事級になります。その能力も希少性に相応しい物ではありますが、その希少性故に表の世界で使用するには些か問題がある品でもあります」
「だろうな」
「この品含めてあとの二つも同様の背景の物になりますが、引き続きご紹介してもよろしいでしょうか?」
「構わない」
基本的には能力剥奪用か素材用だし、使うにしても元の形が分からないように作り変えればいいだけだ。
「かしこまりました。それでは、お次の品はこちらになります」
古びた槍が入ったケースを横に動かして二つ目のケースを目の前に置く。
蓋を開けると、そこには一振りの長剣とその鞘が納められていた。
紅い剣身には金色で紋様が彫り込まれており、金色の鍔と柄頭に黒色の柄といった全体像は、見るからに宝剣という言葉を彷彿とさせる。
「こちらは先ほどのとはまた別の国の国宝になります。なんでも元の所有者は魔物との戦いに敗れて亡くなったそうで、その遺体から剥ぎ取った品だとか。ご覧のように先ほどの槍以上に目立つ姿なため、使用されずにそのまま売り払われたようです。また、それ以上に使い手を選ぶ剣だとか」
そりゃあ、聖剣なら使い手を選ぶだろうよ。なんか俺って聖剣に縁があるな……〈星剣の主〉なんて称号があるからかもしれない。
なんとなく目の前の紅の聖剣から此方に訴えかけてくるような気配を感じる。使うにしてもそのままの形では使えないぞ?
「使い手を選ぶか。興味深い剣だな。それほどの剣ならば、その某国とやらは血眼になって探しているのではないか?」
「国の象徴である宝物の一つなので、金に糸目をつけずに探しているようです」
「中々危険な品だな」
「当店が紹介するお客様を選ぶ理由の一つでございます。では、最後の品をご紹介させていただきます」
そう言うと店主は、何やら魔導具の手袋を装着した。防護系の能力があるらしく、どうやら最後の品は危険な品のようだ。
最後に開かれたケースの中には、蒼黒い色をした革鎧があった。
竜の鱗のような柄と質感をしており、アイテムから放たれてくるオーラが他の二つよりも強い。
オーラを支配する者ーー使用者がいない所為で、ケースを開けた瞬間から暴力的なオーラが放たれてきた。
まるで蛇が鎌首をもたげるようにして起き上がった蒼黒いオーラは、ケースが開かれた先にいる俺に向かって襲いかかってきた。
店主がオーラを止めようとするが、それを遮るように横合いからオーラを掴み取り、そのまま握り潰した。
「なんとなくだが、この品は他二つとは経緯が違う気がするな?」
「……ご推察の通りです。此方の品は、とある国が滅びた際に外部に流出した物になります。他の二つよりも等級は上ですが、一度着用すると生きてる限りは脱ぐことが出来なくなる上に生命力を吸い取るため、これまでに使用した者達は皆が三日と経たずに亡くなっている曰く付きの品です……ですが、お客様であれば問題無く扱えるような気が致します」
「かもしれないな。それで? これら全てで幾らになる?」
一目見た瞬間から購入すると決めていたので店主に三つのアイテムの価格を聞く。
叙事級二つに
そのアイテムを求めて国同士が争うほどの価値がある最上級魔導具である伝説級まであるのだ。
〈強欲〉を持つ俺がそれほどまでに貴重で強力なアイテムを手に入れないわけがない。
「そうですね……十億オウロで構いません」
「ほう? 随分と安いな。それでは叙事級一つ分ぐらいにしかならないのではないか?」
「これらの品は持っているだけでも危険なので、店側からすると売れる機会に売っておきたいのが正直なところでございます。それに、良いモノを見させていただきましたので」
さっきのオーラを握り潰した光景のことかな? 確かに店主の驚いた顔は初めて見たな。
ま、安く手に入るならなんでも良いか。
懐から
カウンターに出してから気付いたが、最も価値の高い硬貨である紅金貨は闇商店では取り扱えないかもしれないな。
「まぁ良い。これが代金だ。それとも金貨や蒼銀貨の方がいいか?」
「では、申し訳ありませんが蒼銀貨に変えていただいてもよろしいでしょうか? 紅金貨でも取り扱えないわけではありませんが、流石に十枚ともなりますと……」
「そうか。では、代わりに蒼銀貨百枚だ」
紅金貨を再び懐に回収し、代わりに
「……はい、確かに。それでは此方が商品になります。中身だけお持ち帰りになりますか?」
「そうしよう」
購入した三つのアイテムを収納系魔導具に入れていく。
収納する際、蒼黒色の革鎧が妙に大人しくて少し不気味だった。
「またのお越しをお待ちしております」
店主の声を背後に聞きながら店を後にする。
そのまま地上に出ると、人気の無いところでシェーンヴァルト家の別邸の自室へと転移した。
[アイテム〈
[スキル【光槍顕現】を獲得しました]
[スキル【浮遊装操】を獲得しました]
[スキル【閃光の蓮華】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【紅焔聖刃】を獲得しました]
[スキル【溶断紅衝】を獲得しました]
[スキル【延焼攻撃強化】を獲得しました]
[スキル【炎熱属性超強化】を獲得しました]
今日購入したアイテムの複製品からは五つの新規スキルが手に入った。
続けて、少し前のアンデッド退治で得た戦利品からも能力を剥奪する。
[アイテム〈
[スキル【結界作成】を獲得しました]
[スキル【
[アイテム〈冥府神の祝聖衣〉から能力が剥奪されます]
[スキル【暗黒属性超強化】を獲得しました]
[スキル【岩土属性超強化】を獲得しました]
[アイテム〈生命神秘のネックレス〉から能力が剥奪されます]
[スキル【生命喚起】を獲得しました]
[スキル【
[アイテム〈魔力宝環〉から能力が剥奪されます]
[スキル【魔力貯蔵】を獲得しました]
[アイテム〈戦神信仰のペンダント〉から能力が剥奪されます]
[スキル【戦神の祝福】を獲得しました]
[アイテム〈大地神信仰のペンダント〉から能力が剥奪されます]
[スキル【大地神の祝福】を獲得しました]
[アイテム〈魔導神信仰のペンダント〉から能力が剥奪されます]
[スキル【魔導神の祝福】を獲得しました]
[アイテム〈狩猟神信仰のペンダント〉から能力が剥奪されます]
[スキル【狩猟神の祝福】を獲得しました]
[アイテム〈造形神信仰のペンダント〉から能力が剥奪されます]
[スキル【造形神の祝福】を獲得しました]
ま、大体はこんなところか。
神官の遺品らしき信仰のペンダント系は他にもあったが、俺に所縁があったりご利益がありそうな神のペンダントからのみ祝福系スキルを貰っておく。他の神の分は気が向いたらだな。
[◼️◼️◼️◼️との接触に成功しました]
[◼️◼️◼️◼️より恩寵が与えられます]
[称号〈大地神の加護〉を獲得しました]
[◼️◼️◼️◼️との接触に成功しました]
[◼️◼️◼️◼️より恩寵が与えられます]
[称号〈造形神の加護〉を獲得しました]
[各種加護の効果により、以後、一部スキルの取得経験値が増大されます]
[各種加護の効果により、一部スキルの必要経験値が変更されました]
[保有スキルの
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[経験値が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
ふむ……祝福系スキルを介して繋がりを得たから、ということかな?
取り敢えず、〈大地神の加護〉は大地系のスキルや魔法などに補正が、〈造形神の加護〉は製作作業や生産系・具現化系スキルなどに補正がかかるようなので良しとする。
神の加護が五つもあるのが神塔星教にバレたら面倒なことになりそうだ。
「それはそれとして、次はメインイベントだな」
収納アイテムから蒼黒色の革鎧を取り出す。
作業を始める前に、手に入れたばかりの【結界作成】を使って魔力が室外から感知されないように、魔力の気配を遮断する結界を生み出す。
準備を終えてから革鎧に触れると、全体に十二分に行き渡るように膨大な魔力を注ぎ込んでいく。
溢れんばかりの魔力が革鎧を包み込み、その猛獣のようなオーラを染め上げていく。
「ーー従え」
トドメとばかりに俺の意志を混ぜたより濃密な魔力を注ぎ込んだ。
ガタガタと一人でに震えていた革鎧は、その装いを黒みを帯びた蒼から、蒼みを帯びた黒へと色彩を反転させていく。
最終的に、色合いを殆ど黒に近い
「装着」
支配が完了して正当な所有者になった俺の言葉に従うと、革鎧は蒼紫色の魔力粒子状になって俺の身体へ纏わりつき、その形を再構成させる。
その装いは革鎧ではなく、金属製の全身鎧となっており、デザインは竜や蛇を彷彿とさせる物だった。
「次はローブだ」
俺の命に従って硬い金属製の全身鎧から柔らかくて軽いローブへと形を変えた。
試しに触ってみるが、元が革や金属だとは思えないシルクのような手触りの良さだった。
細部には高級かつ上品そうな金縁が施されており、デザインは思っていたよりも自由が効くらしい。
「ふむ。【変幻王鎧】は使えるな」
どうやら身に付ける衣服などの防具の類いならば何にでもなれるようだ。
防御力は変化した防具次第で多少上下するようだが、等級は伝説級最上位であるため聖剣デュランダルなどの伝説級の武器でもなければ傷付けることすら難しいだろう。
「〈
これまでに集めた書物の中にあった情報によれば、昔とある王国には国に所属している強大な力を持つ勇者がいた。異界人か現地人かは書物には書かれていなかったので不明。
国王に命じられて近隣に発生した魔王の討伐に赴いた勇者は、多大な犠牲を出しながらもその〈嫉妬の魔王〉を討つことに成功した。
以前倒した擬似魔王種のオークキングなどの紛い物とは違い、本物の魔王のみが使用し展開出来る魔王の領域である〈魔王迷宮〉内で魔王を討伐すると、通常の迷宮同様に
つまり、この鎧はその魔王を討伐した際に出現したアイテムというわけだ。
その鎧も含めた財宝を王国に持ち帰った勇者は……その財宝を欲し、勇者の力と名声を危険視した国王や貴族達、そして国からの発表を信じた国民達によって捕らえられ、そして処刑された。
だが、強大な力を持つ勇者は死してなお復讐のために立ち上がり、自分を裏切った王国の者達全てを殺害したそうだ。
その王国跡地は、今では〈亡国〉と呼ばれる危険な魔物の支配領域である“魔領”と化している。
この世界にある『勇者(強者)を裏切ると亡国のようになるぞ』という格言は、過去にあったこの出来事から生まれたもので、後世の為政者や権力者達への戒めとなっている。
実際、少し前にレティーツィアがヴィルヘルムに対して似たようなことを言っていたが、おそらくこれが元ネタだろう。
情報源である書物の著者は王国の王城にて働いていた一文官だったようで、様々な幸運が重なり生きて国外に脱出することが出来たそうだ。
その書物には〈嫉妬の魔王〉と〈嫉妬の鎧〉という存在の情報があったので、ほぼ間違いなくこの鎧のことだろう。
長い年月の間に巡り巡って、【
また、俺の魔力を取り込んだ際に〈強欲〉だけでなく〈暴食〉に〈怠惰〉といった〈嫉妬〉と同じ他の大罪系の力の影響を受けたようで、俺が持つ知識の中にある情報を参考にした新しい能力を発現させていた。
他の能力とはタイプが違うが強力な能力には変わりないので、今後役立ってくれそうだ。
「亡国の奥地には今なお件の元勇者が彷徨っていると言うし、宝探しがてら何時かは行ってみたいな……」
魔竜王鎧レヴィアーダをインナーウェアに変化させ、着心地を確かめてからベッドに横になった。
明日はオリヴィアとの約束があるし、合成を行ってから寝るとしよう。
[スキルを合成します]
[【
[【紫炎雷閃刃】+【閃光魔刃】+【紅焔聖刃】=【金炎雷聖刃】]
[【
[【
[【影葬牙衝】+【殲麗花嵐】+【冥導崩斬】+【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます