第96話 似た者同士



 ◆◇◆◇◆◇



 皇帝ヴィルヘルムとの謁見から十日が経った。

 御用商人の地位を得るために献上する魔導馬車も昨日の夜完成し、日課である朝の鍛練を除けば今日一日は休みフリーだ。

 ここ最近は商会やら謁見やらの準備で忙しかった。

 その後も皇帝専用魔導馬車の製作に取り組んでいたので、時間が無くてスキルの剥奪と合成を後回しにし続けていた。

 だから先ずはそれらから行うとしよう。



[アイテム〈魔導馬車スパティウム〉から能力が剥奪されます]

[スキル【領域拡張】を獲得しました]

[スキル【空間安定】を獲得しました]


[アイテム〈血製強化魔法薬:竜ブーステッド・ブラッドポーション・ドラゴン〉から能力が剥奪されます]

[スキル【血製秘薬】を獲得しました]

[スキル【竜血強身ドラゴン・ブースト】を獲得しました]


[アイテム〈血製強化魔法薬:鉱喰竜ブーステッド・ブラッドポーション・トゥルードラゴン〉から能力が剥奪されます]

[スキル【金属完全耐性】を獲得しました]

[スキル【貪喰の竜血グラトナス・ドラゴンブラッド】を獲得しました]


[アイテム〈血製強化魔法薬:堕落豚王ブーステッド・ブラッドポーション・オークキング〉から能力が剥奪されます]

[スキル【睡眠耐性】を獲得しました]

[スキル【生命力貯蓄エネルギー・ストック】を獲得しました]


[アイテム〈血製強化魔法薬:金剛鬼帝ブーステッド・ブラッドポーション・オーガエンペラー〉から能力が剥奪されます]

[スキル【鬼帝の豪血体エンペラー・ストレングス】を獲得しました]



[スキルを合成します]

[【岩土生成】+【岩石親和】=【岩土精製】]

[【金属生成】+【金属親和】=【金属精製】]

[【身代わりの宝珠】+【三度の奇跡】+【生命力貯蓄エネルギー・ストック】=【三つの命魂】]

[【退廃の心得】+【籠絡】+【亡者の誘い】+【精神狂命】+【生命惑わす囁き】+【悪魔の囁き】=【欲望王の誘惑】]

[【尋問】+【恐喝】+【精神重圧】+【精神誘導】=【誘導尋問】]

[【性技】+【淫靡な手練】+【愛欲の獣性】=【淫蕩の艶戯】]

[【呪瘴の傷】+【再生阻害】+【無慈悲なる刃】+【呪炎の刃】=【生命蝕む呪炎の傷】]



 ふむ。殆どが今すぐ試すには何かしらの問題があるスキルばかりだ。

 何だか、【合成】から【強化合成】になってからというもの、こういったスキルが多い気がする。

 まだ試行回数が少ないから“気がする”止まりだが、強化はされているからどちらにせよ文句は無い。



「……やることも無いし、久しぶりにギルドで依頼でも受けるかな?」


「デートですね」



 自室でアイテムから能力を剥奪した後、居間のソファでダラけながらスキルを合成し終えたタイミングでリーゼロッテに声を掛けられた。

 天地が逆さまになった視界に映る魅惑の巨峰……から視線を下に移し、リーゼロッテと目を合わせる。



ギルドの依頼クエストだぞ?」


逢瀬デートです」



 関係性的にも状況的にも語弊がありまくりだと思うんだが……。



「まぁいいか。エリンとカレンはどうする?」


「勿論行むぐっ」


「今日はカレンの勉強をみる予定ですので、申し訳ありませんが遠慮致します」



 何かを言おうとしたカレンの口を塞いだエリン曰く、今日は二人揃って予定があるそうだ。

 小声でカレンに「空気を読みなさい」と言っていることについては聞かなかったことにする。

 


「そうか? じゃあ俺達だけで行ってくるよ」


「分かりました。お食事は如何致しますか?」


「うーん。せっかくだし外で食べてくるよ。この屋敷の食糧庫に中身あったっけ?」


「あったはずかと。今から確認してきます」


「いや、後でいいぞ。適当に食材入れておくからこっちをメインで使って好きに食べてくれ」



 【無限宝庫】から食材を適当に選び、中身が空いている収納系魔導具マジックアイテムに移してからエリンに渡す。



「まぁ、ギルドで良い依頼が無かったらすぐに帰ってくるかもしれないけど、一応予定では夕方までだ。それより遅くなるなら連絡する」


「分かりました」



 こめかみを指先でトントンと叩いて、『念話テレパス』で連絡することを示す。

 それから今のラフな格好から冒険者装備に着替える。

 エントランスで掃除をしていた離れを管理している使用人の一人に外出すると伝えてから、リーゼロッテと共に冒険者ギルドへと向かった。



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー本当に奇遇よね。こういうのを運命って言うのかしら?」


「今日ギルドに来たのは偶々なので何とも……」


「……」


「リオン様、リーゼロッテ様。こちらをどうぞ」


「あ、どうも」


「……ありがとうございます」



 店員の代わりにユリアーネが持ってきてくれたカップを受け取る。

 冒険者ギルド本部内に併設されているレストランの一角にて、俺とリーゼロッテ、そして冒険者レイティシアであるレティーツィアと冒険者ユーリであるユリアーネの四人が集まっていた。

 現在帝都にいる冒険者の中でも指折りの美女が三人も同じテーブルに集まっているが、他の冒険者達は遠巻きにチラ見するだけで誰一人として近付いてこない。

 帝都本部在籍であるSランク冒険者であるレティーツィアとAランク冒険者のユリアーネの認知度が高いのもあるんだろうが、冒険者の対応に慣れているはずのレストランの店員達まで近付かないのには訳がある。



「美味いですね」


「寒い日に飲むと一段と暖まるわね」



 レストランのメニューにあったコーンスープを一口飲んでの俺とレティーツィアの感想だ。

 帝都は大体秋になったぐらいの季節なのだが、今俺達がいるテーブルの周辺の室温は明らかに冬の気温レベルにまで低下していた。

 そのためコーンスープの温かさが身体の芯までよく伝わる。


 この突発的な寒波の原因は当然ながらリーゼロッテだ。

 ギルド内に入るまでは機嫌が良かったのに、今ではこの有り様である。

 ギルドで偶然レティーツィア達と遭遇し、依頼を受ける前にレティーツィアに誘われてレストランに移動して顔合わせをしたのだが、まさかこんなことになるとはな……。

 予めリーゼロッテの情報は知っていたのか、リーゼロッテから溢れ出ている冷気に遭遇してもレティーツィアは余裕の表情だ。

 ユリアーネは若干寒そうにしているが、レティーツィアは本当に余裕がある。流石はSランク冒険者と言うべきか。



「リーゼ。そろそろ機嫌直せって」


「直すも何も普通ですが?」


「今の状態がか?」


「私、人見知りなので」


「初めて知ったよ」


「そうでしたか。ではもっと知ってもらうために今日は依頼は止めて屋敷に戻りましょう」


「あら。もう帰っちゃうの?」


「ええ。このままだとリオンの身に危険が及びそうなので」


「まあ、リオンが危機に陥るほどの危険が此処にあるのね。なら、その危険とやらはきっと雪山に暮らしているはずよ。だってこんなに冷気を振り撒いているんだもの」


「何を言ってるのでしょうか。私が言っている危険というのは、リオンのことを舐め回すように見ているどこぞの顔隠し女のことですよ」


「それって誰のことかしらねぇ?」


「さぁ? 私の口からお教えするのは憚られる身分の御方なようなので。もしや心当たりがおありですか?」


「……」


「……」



 この二人は今日が初対面なのに何でこんなに険悪なんだろうか?

 リーゼロッテの近くのテーブルや椅子が凍り付き始める一方で、向かい側のレティーツィアの周りのテーブルや椅子は軋みだしている。

 二人から漏れ出る魔力によって被害を被ろうとするレストランの備品を眺めながらコーンスープの入ったカップを傾ける。

 これ以上放置しているとギルドのロビーにまで侵蝕しそうだな。



「二人ともその辺で。これ以上は自分達で言っていた通り危険だ」



 蒼い魔力と紅い魔力のオーラが嵐のように荒ぶる前に、全身から放った黄金色の魔力を投網のように広げて二人の魔力を捕まえると、そのまま【強奪権限グリーディア】で取り込んだ。

 進化した〈暴食〉の力がそうさせるのか、吸収した二人の魔力は大変美味に感じた。

 最高位の〈強欲〉としては、貴重で強力かつ上質な魔力を取り込めて大変嬉しいという気持ちだったが。



「結構強引なのね……悪くないわ」


「どうせ奪うなら直接触れれば良いのに……」



 両者の妄言をスルーして【森羅万象ワールド・ルーラー】で空間内の温度などを元に戻す。

 今の妄言を聞いて思ったんだが、この二人ってもしかして似た者同士なのかもしれないな……つまり同族嫌悪か?



「……死ぬかと思いました」


「大丈夫か?」


「はい。リオン様の温もりを感じます」



 四人の中で最もレベルが低いユリアーネが本格的に震えていたので、そのまま【森羅万象】を使って暖めてやったら、こちらも妄言を吐き出してきた。

 侍女の時とは違い、谷間など肌の露出のあるセクシーな狩人風な衣装を着ているから寒かったのではと思ったが、また妄言が飛び出してきそうなので口を噤んだ。



「私も寒いから暖めてくれない?」


「全く寒そうに見えませんが?」


「貴女みたいにご立派なモノじゃないから寒いのよ」


「大して変わらないサイズなのに何を言ってるんですか。そもそもSランクがあの程度で寒がるわけないでしょうに」


「繰り返すが二人ともその辺にしてくれ。あと、どうやら俺達にお客さんみたいだぞ」



 視線をレストランとギルドのロビーの境界に向けると、そこには好々爺とした雰囲気の老人がいた。



「ほっ。気付いておったのか。抜け目が無いのう」


「あら、ヴォル爺じゃない。ギルドマスターが何用かしら?」


「……はぁ、これだけの騒ぎを起こしておいて何を言っておるんじゃ。アレを見てみよ」



 ヴォル爺ことアークディア帝国冒険者ギルド本部のギルドマスターから促されてギルドのロビーの方を見てみると、ロビーにいた冒険者達やギルド職員達が死屍累々といった有り様でダウンしていた。



「Sランク級二人の魔力の衝突の余波を受けたらああなるよのう……」


「「……」」



 冷や汗でもかくかのように黙り込む二人の絶世の美女。

 近くにいたユリアーネには配慮していたーー俺には配慮してないーーようだが、視界に入らないところにまでは気を配っていなかったらしい。

 【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】で調べてみたが、幸いにも死者は出ていなかった。

 まぁ、流石に至近距離に一般人がいたら二人もヒートアップしなかったと思うが……しなかったよな?



「……もっと早く止めるべきでしたね」


「そうじゃな。実に見事な魔力制御力と支配力じゃったが、それをマトモに見れたのが嬢ちゃん達と儂を除けば数人だけというのが残念なところよのう」



 もっと早く止めてれば皆が見れたんじゃがなぁ、とどこかズレた理由でギルドマスターは残念がっていた。



「さて、今起こした騒動の罰……というわけではないが、お主達に頼みたいことがあっての。今から時間はあるかのう?」


「大丈夫ですよ」


「私達も大丈夫よ」


「それは良かった。ではついて来てくれ」



 ギルドマスターはそう言うと、ギルドの上階へ上がる階段に向かってさっさと歩き出した。

 俺達も立ち上がると、レストランを立ち去る前に迷惑料込みで代金を支払ってから後に続く。

 アークディア帝国にある全ての冒険者ギルドのトップであるグランドギルドマスターにして、帝都本部に在籍する二人のSランク冒険者の残る一人でもあるヴォルフガング・ブルースムルは何を依頼するのだろうか?


 

 

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