第70話 道中の襲撃
◆◇◆◇◆◇
ゴルドラッヘン商会の一人娘、アリスティア・ゴルドラッヘンから指名依頼を受けてから七日が経った頃。
次の町へと向かう最中、遂に想定していた事態がやってきた。
「ーー来たか」
暇潰しに作ったチェスに似たオリジナルのボードゲームでアリスティアと対戦をしていると、【
【
「何が来たのですか?」
指先を
「それは勿論、アリスティアの身柄を狙っている敵がですよ」
「ッ!」
「数はどのくらいです?」
「ちょうど三十だな。まぁ、こないだのよりは全体的に弱いけど」
敵が来たと知って身体が僅かに揺れた拍子に、触れていたメイジの駒が音を立てて倒れた。
アリスティアの秘書兼護衛であるダークエルフのラーナが警戒体勢に入ったのを視界に入れつつ、リーゼロッテからの問いに感じられる強さの情報を含めて答える。
「背後からですか?」
「ああ。たぶん、さっきまで滞在していた町から追いかけて来たんだろう」
朝方に経った町を除いて、指名依頼を受けて以降に立ち寄った町は五つ。
揃えた数や情報伝達の速度や町間の距離などを考えると、三つ目ぐらいの町に滞在していた時に相手方の商会に襲撃失敗の報が届いたのだろう。
マップ上で、先行している御者の男性が帝都に着いたのがそれぐらいだったから、あちら側の商会の本店も帝都にあるので、伝わったのも同じぐらいのタイミングだろうという予測だ。
仮に人馬ではなく、鳥を飛ばしたり、魔法や
その再度の襲撃指示が出たとしたら、接敵するのはそろそろだろうと警戒していると、ちょうど昨日の夕方頃に滞在していた町に敵が集まってきた。
最初の襲撃時とは異なり、今回は同じ商会の裏仕事の者達以外にも冒険者がいた。
冒険者達の所属は件の商会ではないが、その商会所属の者達と共に行動しているので、今回の襲撃のために雇われたのは間違いないだろう。
目には目を、ではないが、冒険者には冒険者をなのかもしれない。
マップ上に表示される詳細ステータスを見るに、冒険者達のランクはBだったが、基礎レベル自体はAランク下位相当だった。
何かしら問題のある者達で昇級試験が受けられないのか、こういう裏の仕事を受けるために敢えて目立ち難いBランクのままでいるか、と言ったところだろうか。
下位とはいえ、そんなAランク相当が五人。
町にいる間に諜報ゴーレムのラタトスク達を派遣したので、冒険者達の姿や装備などの情報もそれなりに集まった。
スキルやアイテムなどの戦利品に期待している。
しかも冒険者の一人は、希少な【
Aランク相当の基礎レベルならば、収納空間の容量はかなりのモノになる。
どのくらいの
戦闘も楽しめると良いんだが、どうだろうな?
アリスティアに敵方にAランク相当がいることを伝えて、無駄に不安を煽る必要は無いだろう。
町中で襲って来るかと思っていたが、セキュリティがしっかりとしている高級宿屋に泊まっていたからか、宿の外から監視するだけで襲って来ることはなかった。
まぁ、町の外で襲撃した方がリスクは低いから、ある意味当然か。
「その程度ならリオンだけで行ってきますか?」
「そうだな。その方が効率的か。探知する限りでは進行方向に敵はいないから大丈夫だと思うが、魔物が街道に寄って来ないとも限らないから警戒だけはしておいてくれ」
「分かりました」
「それでは、アリスティア。敵を潰して参りますので、続きは後で。駒を勝手に動かさないでくださいね?」
「……もう。そんなことしませんよ。お気をつけて」
「ええ。ありがとうございます」
強張っていた顔を弛緩させて苦笑するアリスティアに見送られて、魔導馬車の扉から外に出ると、御者席に座っているエリンとカレンに一言告げてから後方へと飛び立つ。
「さて、何で遊ぶ、もとい、戦おうかな?」
【
【高速思考】で加速させた思考の中で戦法を決めると、意識を現実へと戻す。
「よし。斧と槍を上げるか」
収納空間から金で飾られた昏い緑色のハルバード〈
振り抜かれた斧部分から魔力の刃が放たれ、接近していた襲撃者の中にいた魔法使いが、騎乗していた馬ごと真っ二つになった。
「な、なんだ⁉︎」
「レレンダ⁉︎ くそっ、敵襲だ!」
【認識遮断】と【狩猟神技】による不可視からの奇襲によって、Aランク相当の冒険者の一人が脱落させた。
これで敵方の冒険者達の要だった
攻撃行動をとったことで不可視状態が強制解除され、襲撃者達が俺の存在に気付き、迎撃のために下馬する。
【狩猟神技】によって空中を蹴って加速し、一瞬で地上へと降り立つ。
着地する寸前にキングスロウスを振るい、まだ騎乗していた襲撃者二人の頸部を斬り裂いた。
「ウォオオオオオ‼︎」
手持ちのスキルで自らを強化した剣士が斬り掛かってくる。
袈裟懸けに振り下ろされてきた魔剣が最大速度に達する前に、剣身の根元に近い部分に向かって片手でキングスロウスを突き出し、斧部分と穂先の間に引っ掛けた。
そこから引っ掛けた剣を手首の動きだけでキングスロウスに絡ませて強引に奪い取ると、背後へと放り捨てた。
「……は? ぐぇっ」
目の前で起こったことが理解できずに放心していた剣士の首を刎ねる。
スキルで肉体を強化していたようだが、キングスロウスの刃に触れた凡ゆるモノは【衰蝕破断】によって弱体化されるため、強化系スキルは本領を発揮することは出来ない。
まぁ、キングスロウス自体が
キングスロウスの性能に思考を巡らせていると、パーティーメンバーがあっさりとやられても然程動揺することなく、盾持ちの戦士が盾を前面に出して突進してきた。
その背後から矢を番えて弦を引き絞る弓士と、魔槍を後ろに引きながら突っ込んでくる槍士。
そんな冒険者達よりは弱いが、二十以上にも及ぶ数の暴力を示さんと、各々の武器を構えて向かってくる商会所属の者達もいる。
「フッ」
迫るそれらの姿を鼻で嗤ってからキングスロウスの穂先を弓士へと向けた。
盾持ちの戦士を先頭に、斜め後ろに槍士が、彼らの後方に弓士がいるという陣形だ。
つまり、弓士に焦点を合わせると、彼らはほぼ一直線上にいるということになる。
だからーー【
ハルバードであるキングスロウスの穂先から目も眩むような雷光が放たれる。
襲い掛かろうとしていた商会の者達が間近で発生した強烈な光と轟音に思わず動きを止めた。
そんな襲撃者達を横目に眼前の冒険者達の姿を確認する。
【聖光無効】の副次的効果によって強烈な光に目がやられることは無いので、問題無く今の攻撃の結果を視認できた。
近くにいた盾持ちの戦士と槍士は、雷光の迸った射線上側の半身が黒焦げになっており、腕と胴体の一部がボロボロの消し炭になっている。
至近距離で発生した高熱に晒されて眼球は破裂しており、頭部も含めた体内がどうなっているかは火を見るより明らかだ。
こんな状態で生きているわけはなく、それは射線の先にいた弓士も同様で、胸から上が焼失していた。
身に付けている武具は魔導具だからか一応は原形を保っていたが、一部が破損しているので修復しなければ使用することは出来ないだろう。
「おぉ、凄い威力だな」
流石にこれ以上の隙を見逃す理由は無く、愚鈍な彼らの間を駆け回り、【
十字状に振るったキングスロウスの刃の軌跡に沿って発生した聖光属性の光の斬撃が敵を四分割させる。
ただでさえ通常の【
まともに直撃すると格下の肉体やスキルに装備では、とても耐えられないほどの威力になっているようだ。
「ひ、ひぃぃ⁉︎」
ある程度間引いてからは、残りの敵を使って【虚奪の魔眼】の性能を確かめた。
魔眼によって弱体化させられ、体力と魔力も根刮ぎ奪い取られてなお、悲鳴を上げながら必死に地を這って逃げようとする残りの襲撃者達を【捕食者の喰手】で捕らえる。
「はぁ。やっぱりこの程度の相手じゃ、肩慣らしにもならないか。戦利品のアイテムは……ほう。まぁ、中々だな?」
生き残っていた襲撃者達を喰手で包み込んで記憶を奪いながら、開幕で真っ二つになった魔法使いの死体から【発掘自在】で【異空間収納庫】の収納空間を開き、中身のアイテムを回収する。
収納空間内の要る物と要らない物を選別しつつ、散らばっている死体に別の喰手達を伸ばして喰わせていく。
それらの作業を全て終わらせると、周囲で怯えて動けないでいた、襲撃者達が乗ってきた馬達の生き残りを集めた。
戦闘の余波で死んでしまった馬達の肉は食料に使って供養するとして、それ以外の生きている馬達はどうするかな。
「……ま、生き残ったのを殺すのも忍び無いし、次の町まで連れて行って売却するか」
今日中には着く予定だから問題無いだろう。
このまま野に放っても生き残れないだろうしな。
戦場の後始末を済ませて、【調教】【籠絡】【慰撫】のスキルを使って馬達を従えると、一番立派な馬に騎乗して全頭を連れてアリスティア達の元へと戻った。
[経験値が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
感覚では【
どうやら【魔獣使役師】は魔法やスキルを持たない普通の動物も対象らしい。
おそらくだが、魔法やスキルを使う獣種の魔物である魔獣だけが対象という意味ではなく、魔物と獣の両方が対象という意味だったようだ。
スキルの使い方は本能的に分かっても、それ以外の部分に関しては実際に使ってみないと分からないこともあるんだと知った。
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