第20話 魔導馬車で銀鉱山へ
◆◇◆◇◆◇
燦々と降り注ぐ日の光が非常に眩しく、そして鬱陶しくもある、そんな雲一つ無い快晴の日の朝。
俺は銀鉱山解放作戦に参加するためにアルグラートの外側の西門前に来ていた。
周りにはヴァイルグ侯爵家家門の各家の当主や次期当主などのお偉方が集まっている。
そんな堅苦しい場所に俺がいてお偉方の注目を集めている理由は、数少ない冒険者側の主要人物であるからというのと、【
「ーー面倒ですね」
「我慢しろ。当初の予定だと一人だけだったんだからそれよりはマシだろ?」
「まぁ、そうですけど」
横にいる冒険者ギルドから出向してきた元Aランク冒険者で現ギルド職員のガリアスに思わず愚痴ってしまう。
チラリと周りを見ると近くにはヴァイルグ侯爵家の関係者がいて、少し離れたところにヴァイルグ侯爵領の兵士達と侯爵家直下の騎士団に侯爵家と繋がりがある貴族の家々の兵士と騎士団といった戦力がいる。
それらから少し離れた場所にBランクとCランクの中級冒険者達が集まっている。
ちなみに他の冒険者まで参加しているのは、俺がヴァイルグ侯と面談した翌日に、ギルドマスターであるカスターがヴァイルグ侯に営業をして持ち帰ってきた依頼によるものらしい。
身分も装備もレベルもバラバラな者達に共通しているのは、俺をチラチラと観察していることだ。前世から気配や視線には敏感なので、正直言えば鬱陶しい。
「……やっぱり一人だった方が冒険者からの視線は減るので楽だったかもしれませんね」
「そう言ってくれるな。俺達にもアルグラートの冒険者としての矜持ってもんがある。だからリオン一人に任せきりにするわけにはいかないんだ。それに、リオンの取り分が減ったわけじゃないだろ? 個人的にはこういった大規模な依頼、しかも拠点にしている場所の領主からの依頼に参加できる貴重な機会は後輩達に与えてやりたいしな」
ガリアスは俺を除いた冒険者達を指揮するために来ている。Bランクではあるが、冒険者登録して半月ほどの新人が同ランクも含めた冒険者達を指揮するのは難しいだろうとギルド側が判断したからだ。
まぁ、俺も指揮なんてしたくないし、依頼された本来の目的が果たせなくなるからこの人選は当たり前っちゃ当たり前なんだがな。
「……一度はAランクが失敗した、危険度が未知数の依頼ですけどね」
「危険なのは分かっているさ。だから参加できるのは中級冒険者に限定しているし、当然ながら強制じゃない。冒険者ってのは全てが自己責任だ。アレぐらいのランク帯になれば皆嫌でもその辺の現実は実感できてるさ」
「にしては多いですね?」
玉石混淆だが全部で三十人ほどの中級冒険者がいる。これはアルグラートにいる中級冒険者の三分の一以上が参加していることになる数だ。Bランクは十二人いる。
「領主様からの報酬もだが、皆噂の新人の実力が観たいのさ。リオンはソロで大規模盗賊団を壊滅させ、大森林初日で大量納品できるほどの実力なのは知られているが、実際に戦っている姿を見た奴はいない。俺との模擬戦も試験だから観覧は禁止されてたからな」
「物好きな人達ですね。まぁ、実力を見せつける良い機会だと考えるとします」
「そうしてくれ。お、次期当主様だ」
ガリアスの視線の先には此方に近付いてくる騎士がいた。
ヴァイルグ侯の嫡子であるルターム・フォン・ヴァイルグ。
父親譲りの肉体に母親譲りの青髪の三十歳の優男で二児の父でもある。
「ガリアス殿、リオン殿。そろそろ出発式を執り行うから此方へ来てくれ」
「分かりました。前には出なくていいんですよね?」
「ああ。父上が代表して演説後にすぐに出発だ。君達冒険者側の代表は私と共に父上の背後で貴族側と冒険者側に分かれて並んでくれればいい」
次期当主が直々に呼びに来るという事態に更に注目度が増したが、まぁ、おそらく俺との顔合わせの機会を増やすのが目的だろう。ヴァイルグ侯との面談後に軽く挨拶しただけだったからな。
俺達が集まって間も無く、簡易な演説台から討伐隊の士気を高めるために激励を飛ばすヴァイルグ侯。
今回はヴァイルグ侯だけでなく、嫡子であるルタームと家門の家々の当主や次期当主達も参加している。
そのため、動員されている貴族側の戦力は過去最大規模とのこと。冒険者側も数だけなら過去最多だ。
初めの小規模の討伐隊も含めれば今回で四度目であり、周囲の非友好的な貴族からの横槍を考えるとこれ以上の失敗は許されないからこその更なる戦力の増員らしい。
演説の内容から読み解けるそのあたりの事情を認識していると演説が終わった。
全員が出発準備に動く中、俺は【
前回、ギルドの馬車に乗った際に揺れとか広さとかが気になったので今回の移動のためだけに自作した、馬車であり
「これが購入した馬車か?」
「いえ、自作した馬車です」
「……まさか馬車を作れるとはな」
「物作りは趣味ですから」
「趣味のレベルかよ、コレが。……んで、それが噂の馬型ゴーレムか」
「ゴーレムって疲れ知らずだから便利ですよね」
【異空間収納庫】から取り出した岩や金属の山に向かって自作のゴーレムコアを四つ放り投げ、四体のホースゴーレムを創造すると魔導馬車に取り付けていく。
準備をしているとちょうど御者がやって来た。冒険者ギルドに自前の馬車を使って移動すると言ったら、冒険者ギルドから御者を派遣してくれるというのでお願いしておいたのだ。
ホースゴーレムだけでも自走できるはずだけど、やっぱり咄嗟の判断とかが不安だからね。今後馬車を使うにしても御者は必要かもしれないな。
御者に挨拶し、ホースゴーレムは馬と扱いは変わらないなどの説明を終えると、タイミング良く周りも順番に出発し始めた。
「そろそろ出発するみたいですよ」
「おっとヤベェ。それじゃあ後でな」
「はい」
駆け足で冒険者ギルドの馬車へと向かうガリアスを見送ってから魔導馬車に乗り込む。
今日に至るまでに手に入れた十二種類の魔法スキルのおかげで多くの魔法が使用可能になった。
前の異世界で物作りの際に使用していた
魔導馬車の内部空間は、ワンルームの居室ほどの広さを空間系術式によって三倍にまで拡張している。魔導馬車を構築する素材的にはまだまだ空間拡張が可能だが、現状特に必要ではないので取り敢えず三倍に留めておいた。
そんな拡張した空間には風呂とトイレを完備している。そう、風呂とトイレをだ!
一人で入る分には十分な広さの湯船を作ったので、これからは馬車さえ出せればいつでも入ることできるというわけだ。
風呂は勿論だが、トイレも前世の地球レベルの物を魔導具として実現しているので大変快適な仕様になっている。
諸々の排水やゴミ関係は一箇所に集めてから水冷系術式と風塵系術式で乾燥させて、空間系術式で圧縮してから火炎系術式で焼滅させて処理している。
宿のトイレは水洗式ではあるのだが、予め手動でタンクに水を溜めて置く必要があるうえ、前世の家庭用トイレと比べると綺麗に流れ辛く、個人的にはあまり衛生的ではない。
それは宿側も分かっているので、半月に一度浄化魔法が使える魔法使いを雇って綺麗にしてもらっていると、宿の主人であり料理人のエディルが教えてくれた。高級宿屋だったらトイレも性能が良い物を設置しているから浄化も最小限で済むらしい。
近くに河川がある大都市や近年出来た都市なんかは自動で水を貯めて流せるように水道設備が整っているとか。アルグラートは古い都市だから未だ手動なんだろう。
そういった知識と経験を基に製作した魔導馬車に設置されている魔導トイレは、流れる水の動きが制御されているため水が外に撥ねたりせず、流れ終わると自動で創作魔法『
他にも風塵系術式で防音にしたり、ウォッシュレットにしたり、魔導馬車に設置されている排水処理機能の簡易版を取り付けて何処にでも設置できるようにするとかアイディアはあるが、それはいずれで構わないだろう。
最小限にまで減らした揺れを、【空間魔法】による空間系術式などを使ってほぼ無くしているため、魔導馬車が動き出してもとても静かだ。
外の音は何かが起こった際に気付けないのは困るので防音にはしていない。一応段階的に音を遮断する機能は付けているが、今は当然オフにしている。
馬車の中は自作の空調系魔導具によって温度を調節できるため非常に快適だ。先程まで陽に照らされていて暑かったが、今はとても涼しい。
他の馬車や外にいる兵士達には悪いが、ちょっとした旅行気分を満喫している。
「んー、我ながら堕落しそうなほどに快適だな」
設置されているソファに座ったまま【無限宝庫】からエクスカリバーを取り出す。
今のエクスカリバーは俺が大量の魔力を注いだことによって、外装の岩肌が全て剥がれ落ちて本来の姿を取り戻している。
黄金色の浮き彫りで飾られた漆黒の鞘に納められたエクスカリバーは、漆黒色の柄以外は鞘に覆われて見えない剣身を含めて黄金色というカラーリングをしており、その姿は非常に既視感があるものだった。
「……ちょっと派手さが増してる気がするけど、たぶん俺が使ってたエクスカリバーと同じ物だよな。プローヴァが送り込んだのか?」
前の異世界のアイテムはルール的に渡せないと言ってたはずだが……俺がこの世界に来る前からあったみたいだし、過去に送り込んだうえに直接渡さないことによってルールの穴を突いたとかそんな感じだろうか?
理由や方法が何にせよ、グングニル以外にも切り札が増えるのは良いことだ。
「まぁ、条件を満たしていないのか、まだ使えないのは残念だけどな」
どうにかして使えないものかと、再度鞘から抜けないのを確認してからエクスカリバーを収納する。
よくよく考えてみると、周りの目があるからどちらにせよ今回の作戦では使えなかったかと思い直した。
特にすることが無いので【
「集合が朝早かったからな。……やることもないし仮眠しとくか」
【休眠】を発動させれば寝たい時にすぐに寝ることができるのはとても便利だ。休める時にしっかりと休ませて貰うとしよう。
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