第13話 マモニズム
救助した二人にそのまま休んでいるように言ってからオークの死体を回収していく。
一応確認してみたが、オークの素材の取り分は全て俺の物で構わないとのこと。
時間をかけてオークを【
特殊試験後に冒険者の先輩であり元Aランクであるギルド職員のガリアスに尋ねたところ、冒険者界隈では同業者に助けられた冒険者が、救援対価を支払うのは当たり前のことらしい。
双方の関係性次第では感謝の言葉のみで対価は無い場合もあるが、基本的には救援後に交渉して対価を決めるようだ。
助けられたのに感謝の言葉も対価も無いような礼を失する者や吝嗇家の情報は、生命を懸けて戦い報酬を得ている冒険者達の間ですぐに拡散する。
そして誰も寄り付かず助けず自然と淘汰されるんだ、とガリアスはしみじみと語っていた。
存在感か物理的にかは知らないが、きっとそうやって消えていった者を知っているんだろう。
この二人が俺から受けたのは、オーク撃破による救助に、出血多量による瀕死状態からの脱却の為に高価な増血薬の投与、切断された腕の接合処置、そして怪我の治療の四つだ。
これらに釣り合う対価を支払う意思があるかどうかはさておき、Dランクである下級冒険者が支払えるレベルなのかと言われたら、おそらく難しいと答えるしかない。
だがそれはあくまでも金銭的にはというだけで、それ以外を対価にすればいいだけだ。
いくら俺がタダ働きが大嫌いだとはいえ、正当な対価だとしても子供から全財産を巻き上げるほど落ちぶれてはいない。
幸いにもこの二人は普通の身の上の子供ではないし、平凡な下級冒険者というわけではないのを【
「身体の調子はどうだ?」
気分的にも落ち着いたであろう頃合いを見計らって二人の元へと戻る。
こうして見る限り、少年の顔色もだいぶ良くなっているようだ。増血薬や回復魔法を使ったとはいえ、短時間でここまで回復できたのはレベルやスキルがある世界故だろう。
「はい、大丈夫です。救援だけでなく、治療や腕まで繋げていただきありがとうございます」
「ありがとうございます」
少年に続いて少女も感謝の言葉とともに頭を下げてきた。
ちゃんとお礼が言える子達で良かったよ、色々とね。
「偶々通りかかっただけだが、助けられて良かったよ。俺の名前はリオン。先日アルグラートに来て冒険者になったばかりだ。ランクはBだな」
簡単に自己紹介をしつつ
「え、なったばかりでBって……ああ、特殊試験制度ですね。ということはガリアスさんに勝ったんですか! そういえば他の冒険者が話していたような。あ、すいません。俺はカイルです。ランクはDになったばかりです」
「カイルが失礼しました。私の名前はミリーです。ランクはDでカイルとパーティーを組んでいます」
「カイルとミリーだな。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
「さて、自己紹介が済んだところで早速だが……」
「……救援のお礼ですね」
なんでこんなところにいたのかを聞こうと一呼吸入れたのを勘違いしたようで、ミリーが言葉を繋いで自ら救援対価について触れてきた。
「あー、それもあるが、その前にだ。二人はなんでこんな森の奥にいたんだ? この辺りの魔物はDランクだと危険だぞ」
「そ、それは……」
「父さん達を治すために必要な素材を採りに来たんです」
言い淀むミリーに代わってカイルが理由を答えた。
話を聞くところによると、カイルとミリーのそれぞれの両親は現役の冒険者なんだそうだ。
しかも、アルグラートでも数少ないAランクの冒険者であり、四人は同じパーティーを組んでいる。
つまり、一月前に領主軍と共に西の銀鉱山の戦いに赴き、多数の上位種の出現によって敗退したパーティーの一つというわけだ。
「ーー俺の父さんは大盾使いで、パーティーの盾役だから皆を護るために状態異常のブレスを沢山食らってしまったんです。それでも母さんやミリーの両親も無傷というわけにはいかなくて……」
「カイルのお父さんは徐々に快調に向かっているみたいなんですけど、複数の状態異常が重なっているからか未だに意識不明です。カイルのお母さんと私の両親は手足の一部が石化していたり、焼け爛れていたりといった状態です」
暗い表情で自分達の両親の状態を語るカイルとミリーの姿は痛ましい。
【
「アルグラートにある治療薬や回復魔法の使い手では治せなかったのか? こう言ってはなんだが、Aランクだから治療に使えるぐらいの資金はあるだろ?」
「勿論、アルグラート内で手配できる治療方法は試しました。そのおかげで最初の頃よりはマシにはなりましたが、効力が足りないのか完治にまでは至りませんでした」
「だから必要なんだ。森の奥地の何処かにある治療薬の効果を高めてくれる魔水が!」
そう。これがカイルとミリーの二人がこんな場所にいた理由だ。
このリュベータ大森林の奥地の何処かには自然界の魔力を多量に含んだ特殊な水である魔水が湧く小さな池が存在するらしく、その魔水を素材に使えば薬草の薬効成分の力を高めてくれるそうだ。
双方の両親の知り合いであり、アルグラートでも腕利きの薬師から魔水を使った治療薬ならば治る可能性が高いことを聞いた二人は、居ても立っても居られずリュベータ大森林の奥地まで来てしまったらしい。
「まぁ、完全に自殺行為だよな」
実際に死に掛けた二人は気まずげに視線を地面に落とす。
若さ故の過ちというか無鉄砲さというか。それで自分達の子供が死んだら、親は悔やんでも悔やみ切れないよな。
「ま、此処にいた理由は分かった。取り敢えず話を変えて救援の対価について話そうか」
「「は、はい」」
緊張からゴクリと咽喉を鳴らす二人。
親が冒険者なら救援対価やその辺りの色々な話を聞いていてもおかしくはない。
まぁ、少なくとも今回は金銭は掛からないとも。金銭はね。
「先ず一応確認しておくけど、二人は対価を支払う意思はあるのかい?」
「は、はい。俺が払える範囲内でですが」
「私も自分の意思で決められる範囲内でしたら支払わせて貰います」
これで意思確認はオッケーだな。
「対価として俺が求めるのは金銭じゃなくてね。というか、回復魔法だけでも相場からして金銭だと払えないと思うし」
「……では何を?」
少し警戒の色を見せるミリーに内心苦笑しつ言葉を続ける。
俺の好みとは違うが、間違いなく美少女の類いだし、色々とそういった厄介事の経験があるのかもしれないな。
「実は俺は特殊なスキルを持っていてね。今みたいな状況にはピッタリなんだ」
「特殊なスキルですか?」
「ああ。簡単に言えば、俺が相手が求める何かをしてあげて、その対価として相手のスキルをコピーさせて貰うっていうスキルなんだ」
「そ、それは破格ですね」
「へぇ、そんなスキルがあるんだ」
こちらの説明に息を呑む二人。
これは、ユニークスキル【
今説明した以外にも逆のパターンもできるし、実際にはスキル以外も可能という個人的には【強欲】らしい能力だと思っている。
しかもある程度の裁量を決めるのは保有者である俺という素敵な仕様。
「強力な分、相手の同意がなければ能力行使は出来ないから今まで使ったことが無くてね。コピーした能力のオリジナルが消えるとかはないから安心して欲しい。どのスキルをコピーするかは同意後にしか確認できないし決められないけど、どうかな?」
相手の同意が必要なのは事実。確認云々も事実だが、【情報賢能】の鑑定能力によって事前に確認できるから問題は無いけどね。
「……リスクはありませんか?」
「無いよ。このスキルは一種の契約スキルの側面も持っていてね。俺が誰々から何を貰ったとかの取引の詳細は、お互いに他人に教えることができないようになっているから情報が漏れることもないよ」
「分かりました。俺はそれで大丈夫です」
「私も構いません」
「それじゃ取引成立ということで。最初はカイルのスキルからでいいかい?」
「はい。お願いします」
同意を得た瞬間カイルが所有しているスキル一覧が脳裏に表示される。
まぁ、予め決めていたから判断は早い。
【
「へぇ、まさかユニークスキルを持っていたとは。これもコピーできるのかな。それじゃあ、ユニークスキルをコピーさせて貰うよ」
「分かりました」
カイルに動揺の色は見られないため、能力の説明を聞いた時から此方が何を選ぶか分かっていたんだろう。
[対象の同意が確認されました]
[ユニークスキル【強欲神皇】の【拝金蒐戯】が発動します]
[対象のユニークスキル【万夫不当】を複写獲得しました]
よし! 成功だ。
「うん。問題なく成功したな。じゃあ、次はミリーだな」
「はい。お願いします」
「ふむ……まさかミリーまでユニークスキルを持っているとは。じゃあ、ミリーもユニークスキルで」
「分かりました。どうぞお受け取りください」
[対象の同意が確認されました]
[ユニークスキル【強欲神皇】の【拝金蒐戯】が発動します]
[対象のユニークスキル【
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【契約】を習得しました]
[スキル【取引】を習得しました]
こちらも無事に成功した。しかも経験を積んだことによって【契約】と【取引】まで手に入った。
それにしてもユニークスキルが手に入れられるとはな。森に入った時点ではこんなことになるとは思わなかったよ。
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