第7話
この国に来て
侍女達からの嫌がらせはどんどん加速している。
まず、私達の身の回りの世話をしなくなった。
そして、物がわずかながらも減っている。つまりは、窃盗だ。
そんな事もあるかもしれないと、盗まれてまずい物は周りにはおいていない。
かと言って、手元にある物も盗まれていい物でもない。
ミラには盗まれた物と、犯人のリストを作ってもらっている。
「私の身の回りの事はミラがいれば充分なんだけど・・・余りにも酷いわよね」
職場放棄もいいところだ。
それに関し国王に訴えるにしても、アルフに何かと理由を付けられ会う事叶わず、ならばと元凶のアルフに訴えれば綺麗に整っている部屋を見ながら「どこがですか?」と言われる。
なるほどねぇ~・・・、思っていた以上に悪知恵が誰よりも働く事に、少々甘く見ていた事を反省。
誰もやらなければ私の連れてきた侍女が働く。常に綺麗にしていれば誰が掃除したのかなんて、第三者から見ればわからないのだから。
そして窃盗に関しても、今訴えた所で揉み消される事が目に見えている。
ならば、言い逃れできない証拠を揃えて、最後に断罪したほうが心を折る事が出来るのではないか。
盗まれた物に関しては、アイザックの部下が動いてくれているので、安心はしている。
やられっぱなしも癪に障るが、ただ黙っているわけではないのよ。
表だって私が動くと目立つから、アイザックとミラにはコキ使って申し訳ないが、フルで動いてもらっている。
クルス兄妹に情報収集して貰ってはいるが、感心するほどにメイド達の情報網のほうが早い時もある。
中身は多少主観や思い込みが入っている事もあるが、それらを削いでいけば意外と本質は真実だったりするのだから、感心しかない。
「それにしてもメイド達は凄いわ。まぁ、使用人の中でメイドが一番多いから、誰かが何らかの情報をもってくるんでしょうね」
「えぇ、その通りですわ。そしてその噂の中で今一番旬なのが、トリス様の事ですの!」
「私?まぁ、押しかけ女房で夫から見向きもされない女だから、何を言われてもおかしくないと思ってはいるけど」
「あぁ、その事は誰も信じてませんよ。今では侍女達も信じてませんから」
「そうなの?」
「えぇ。カレンが言う事は側付き以外は、誰一人として信じていませんし」
私とカレンの接点はほぼなくて、サシで会話した事もないのに、いかにも私がカレンを苛めてますって噂流してくれてるのよね。
「どうして?」
「どうやら、カレンの仮病説が侍女達にまで広がっているようなのです」
「まぁ」
今頃?とも思う。もっと早くに広がると思っていたけど。
「それは、メイド達もカレンの事は迂闊に広めれなかったみたいです。なんせバックには宰相閣下が控えているので。それに・・・」
部屋には二人しか居ないのに、ミラは少し声を潜めた。
「カレン付きの侍女が次々辞めているらしく、良い噂が聞こえてこなかったからですわ」
辞めている、ではなく正しくは、自ら辞めるよう仕向けた、なのだろう。
「今の所メイド達にはカレン絡みで辞めた者はいませんが、いつ目を付けられるか分からない為、噂も下級使用人内でとどまっていた様なのです」
「なるほどね。じゃあ、なんで今回は侍女にまで噂が広がったの?」
「はい。実は見てしまったようなのです」
「あ~・・・はいはい・・・又、走ってたのかしら?」
「そのようです。で、目撃した人物が全く関係の無い、たまたま品物を納入しに来た商人だったのですよ」
「うわっ・・・それは、終わったわね・・・」
これはきっと、城外に広まるのも時間の問題だわ。
国王の妃の座を狙う貴族達にとってカレンは、国王の周りを飛ぶ煩いハエの様に思われている。
だから、今回の仮病騒動は彼等にとっては、サットン兄妹を蹴落とすまたとない機会としか言いようがない。
まぁ、私と言う妃がいる事は周知だろうけど、側室にでもなって世継ぎをもうける事が出来れば僥倖だから。
ましてや私達は一年間、結婚発表をしない。恐らく城外では国王が嫁を貰った事すら知らない人が多い事だろう。
面白い事に、噂と言うものは本人や身近な者達の耳にはなかなか届かないものだ。
よって、国王やアルフ、当事者のカレン、そして彼等を世話する者達は自分達がどのような目で見られているのか分かっておらず、相変わらず好き放題やっているのだ。
それがまた彼等の評判を落としているとも知らずに。
「中枢の人間は誰も真実を知らないの?」
いくら噂と言うものが本人の耳に届きにくいとはいえ、誰も何も進言しないのかと不思議でならない。
「そこは何処の国にもある、政権争いが絡んでいるのですよ」
国王であるダリウスには弟がいる。私もこの国に来て翌日には挨拶をさせてもらっていた。とても感じの良い賢そうな方だった。
既に結婚されていて子供も二人いらっしゃる。
王都に近い領地を持っているが王都にも屋敷を持っていて、王都と領地を行ったり来たりしている。
その王弟殿下は貴族平民の差別なく、人材を登用し領地を栄えさせていた。
恐らくそう言う意識がアルフは気に入らなかったのかもしれない。
貴族らしくないという理由で家族から冷遇されてなお、強く選民意識を育てているのだから、権力とは怖いものだと常々思ってしまう。
選民意識が強い国とはいえ、全ての貴族がそう思っているわけではない。
他国では・・・特に私の祖国では身分の差を鼻にかける貴族はいない。
我が国では、血筋などにあまり重きを置いていないからだ。
王族とて血統の源流を辿れば、何て事の無い農夫だったのかもしれないのだし。
王冠と共に生まれ落ちたわけではない。
王弟殿下はそこら辺の意識がしっかりしていて、このままではいずれ国そのものの存続が危うくなるのではと危惧していたのだ。
国を支えているのは平民だ。魔法の様に衣食住に必要な物が際限なく湧いてくる訳ではない。
泥臭い仕事から生まれてくるのだという事を、この国のボンクラ貴族達は考える事すらしないらしい。
そんな国の在り方に、危機感を感じた貴族達は国王に進言してきたのだが、宰相の妨害により官職から追われてしまっていた。
そして、官職を追われた彼等を、王弟が側近として領地に迎え入れていたのだ。
正反対な政策を掲げる兄弟ではあるが、第三者の目から見ても弟の周りに集まる人材の方が優秀だと言わざるおえないのは明白だった。
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