ゴリライブ

フィガレット

ゴリライブ

 今日も一日、我ながら頑張った。

 私は疲れて電車に乗る。

 最寄りの駅に着きもうすぐ家だと安堵する。


 するとどこからか曲が流れてくる。

 ストリートミュージシャンだ。

 少し人集りが出来ている。


 美しいメロディ、心地よいサウンド。

 風に乗って流れてくる、その響きに誘われるように人集りの方へと足を進める。


 コーラスが特に良い。


ウーーホーーーー♪


 絶妙なハモリ、最早ある種の楽器のよう。


 時折激しく流れる曲調には


ポコポコポコポコ!


 謎の打撃音。

 何故かどこか心地よい。

 

 私は確信する。これを演奏するグループは必ず成功する!


・・・


『でもゴリラだ』



 ギター兼ヴォーカルが一人。ドラムが一人。

 そしてベース兼ゴリラがコーラスも担う。


 スリーピースバンドのようだ。


 ヴォーカルの歌声も素晴らしい!

 透き通る美しい女性の歌声に心が奪われてそうになる。


『でもゴリラが気になる』


 ドラムのテクニックも半端ない。

 超絶技巧に加えて正確なリズム。激しい音の中に繊細さも感じる!


『でもゴリラのドラミングが気になる』


 3人の息がぴったり合っている。

 まるで一つの生き物のようだ。


『でもゴリラが混じっている』


 目と目を合わせるだけでお互いの気持ちが分かるかのようだ。

 それぞれが完璧な役割を全うする。

 共鳴する音。響かせるサウンド!!


『でもゴリラがいる』


 一瞬で心を奪われた。

 私はこの時既に、このバンドのファンになっていたのだろう。

 高まる鼓動が鳴り止まない。

 

『ゴリラなのに』


 演奏が鳴り止む。

 私はゴリラと目が合う。そして目の前までやって来る。

 スッと手を差し出される。そうか。他の皆は既に顔見知りなのだろう。

 そして新しく現れた私の事を歓迎してくれたのだ。

 何と言う神対応!!


『ゴリラだけど』


 私は差し出された手を取り握手する。

 暖かい。

 着ぐるみなんかではない。


『まごう事なきゴリラだ』


 つぶらな瞳には強い意志を感じる。

 その力強い眼差しの奥には微かに激しい野生を感じた。


『ゴリラだから』


 軽くお辞儀をして戻っていく。

 凄く背筋がピンとしてらっしゃる・・・。

 紳士だ・・・。


『ゴリラとは?』


 スマホを取り出し画面を確認している。

 チューニングをスマホで行なっているようだ。

 耳にスマホを当てて肩で挟みながらベースのチューニングをする。


『ゴリラだっけ?』


 小腹が空いたのか鞄からバナナを取り出す。

 器用に皮を剥き食べる。

 その姿はまさに・・・


『ゴリラだった』


 その時だった。

 鳴り響くサイレン。群がる特殊警備隊。

 あっという間に捕獲されるゴリラ。

 強い風が吹く。

 置かれた看板が倒れる。

 彼が一体何をしたと言うのだ?

 理由は一つだった・・・


『ゴリラだから・・・』


 残されたバンドのメンバーが言う。


「あのゴリラは一体なんだったんだ?」


「さぁ?今日初めて見たけど気づいたらいてベース持ってたわね」


後にして知った事だが

彼の正式名称はゴリラゴリラゴリラ。

ゴリラゴリラディエリではなく、ゴリラゴリラゲリンベイでもない。

ましてゴリラゴリラグラウエリでもなかった。

ゴリラゴリラの中でもニシゴリラの1亜種。

「ニシローランドゴリラ」と呼ばれゴリラ4種の中で

最も個体数が多い存在だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る