新婚旅行 二日目






隼瀬達夫婦は函館の朝市で海鮮丼を堪能し、また上機嫌に長いドライブをスタートさせる。特にハンドルを握る隼瀬はすこぶる機嫌がいい。



「きたーのーだいちを走りぬきー♪」



「はあたん、楽しそうね」



「だって楽しいもん」



「てかそれ誰の歌や」



「分からんけどなんか出てきた、へへ」



「ほーん」



「冬未も一緒に歌おうよ、長万部で蟹飯食べる前にお腹空かせときたいし」



「えー」



とか言いつつ、冬未も隼瀬に合わせて大きい声で歌いながら、長万部町の蟹飯が有名な老舗に着く頃には二人とも腹ぺこになっていた。



長万部町 かにめし本舗



意外と店内は混んでおらず、注文したかにめしを持ってきてくれた店員のおじさんと少し話す隼瀬達。



「ここのかにめしって僕達知らなかったんですけど、結構有名なんですよね?」



「そうですよ、戦後の食糧難の時代に長万部駅で煮かにを駅弁代わりに売り出してそこからですね」



「へー、失礼ですけど実際食べてみてどんなもんかと思ってましたが、美味しいですね本当」



「うん、本当うまいうまい」



ガツガツとかにめしを綺麗に平らげる若夫婦を我が子のように微笑ましく見つめるおじさん。



「二人とも足りた?」



「「はい!ごちそうさまでした!」」



「本当に美味しそうに食べてくれておじさんも嬉しいよ、そういや二人とも本当若いけど何歳?」



「「19です!」」



「若いねえ、あ、そんな敬語とかなくていいよ、どこから来たの?」



「大阪からだよ、地元は熊本だけど主人が就職してから大阪で暮らしてて」



「そうなんだ、お店入ってきた時聞きなれない言葉で話してたもんね、よくテレビで聞く大阪弁じゃないしあれ熊本の方言?可愛いよね」



「「可愛いかなあ」」



「可愛いよ!いやー北海道も方言はあるけど、普段僕らもあまり使わないから羨ましいな」



「そうかなあ、僕達普段からこうだけんあんま分からんけど」



「はは、そっか」



そこからしばらく話し込んですっかり打ち解けて、店を後にする隼瀬達。




1時間後 洞爺湖温泉



長万部の方から37号線を上がってきて、一旦ここで休憩する事にした隼瀬達。隼瀬は大浴場より家族風呂にしようと言っていたが、この日は週末という事もあってか空きがなく、しぶしぶ大浴場に入り、早めに上がって来た冬未がロビーにあった洞爺湖周辺の観光案内のパンフレットを見ていると、上がって来た隼瀬がシャンプーの香りを漂わせながら、冬未が見ているパンフレットを覗き込む。



「なになに何かある?」



「隼瀬、近すぎ」



「よかたい夫婦なんだし」



「あんたこっち来てからなんかおかしゃあね」



「そうね?あ、冬未、遊覧船乗ろうよ」



「船かあ・・・船は酔いやすいけんなあ」



「なん、ちっとだけんそぎゃん酔わんどだい」



「ばってん前に雲仙行った時もちょっとのフェリーで酔うたし、てかあん時隼瀬も酔うとったたい」



「あれ多分何も食べとらんかったけんたい、今日はそぎゃんなかけん大丈夫て、行こ」



冬未が答える前に強引に手を引っ張って行く隼瀬である。



洞爺湖遊覧船



ちょうど都合良く隼瀬達はすぐに乗船する事ができ、遊覧船からの眺めを楽しむ。



「やばい、酔う暇もにゃあくらい楽しい」



「でしょ?」



「でしょ?て、隼瀬も初めてだろも」



「へへへ、あ、あれ有珠山じゃない?すぎゃー」



「やっぱ阿蘇とか雲仙とはいっちょん違うねえ」



「うん」



遊覧船で存分にはしゃいだ後、地上に戻った夫婦はそのまま札幌へと向かった。



「なんかしょぼくない?」



札幌に着いて街を歩いていて時計台を見つけた時の冬未の第一声がそれであった。



「うん、なんか思ったよりちっちゃい・・・」



これはその時計台、旧札幌農学校があった頃より周りが都市化していったので相対的に小さく見えるようになってしまっただけなのであるが、そんな事は全く知らず、期待してきた隼瀬達のがっかり感は大きい。



「まあ一応写真だけ撮って、街でご飯食べよ」



「そうね」



というわけで一応時計台の前で二人並んだ写真だけ撮って貰って、札幌市街で店を探してジンギスカン屋に入る隼瀬達。



「なるほど、この縁に油落として臭み減らすつたいね。これ普通に家で焼肉する時も使えそう」



すっかり主夫目線でジンギスカン鍋をまじまじと見る隼瀬。



「なんか聞いたら北海道じゃ一家に一台はあるごたんね、てかそぎゃん見よらんで食べんね」



「いやーついつい、てかラム肉初めてばってん本当にクセもなんもなかね」



「うん、なんか野菜もいつも食べるのより美味いわ」



「北海道て本当に野菜も肉も魚も米もなんでん美味かよね」



そんな美味しいご飯に舌鼓を打ち、この日は二人とも宿に帰ってすぐに眠りについたのであった。























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る