第15話 探偵は目を閉じて虎穴に入る


「なあ、あれじゃないか?不良の先輩たちが働いてる廃棄物分別所ってのは」


 街外れを車で流していた僕と僧正は、少し先に見えるトタン塀の中が廃棄物分別所であることを一瞬で悟った。なぜならそれらしい臭いが僕らのいる場所まで漂っていたからだ。


「そのようだな。……よし、ひとつ腹を括って見学と行くか」


「今日のロケハンは少々剣呑だぞ僧正。何しろ相手は役者じゃなく本物の元不良だからな」


「その辺はお前に任せる。こっちはお前のピンチを見ながらスリリングな曲をイメージするから、仕上がりを楽しみにしててくれ」


「聞き込み中、こっちの質問が向こうの逆鱗に触れたらお前にバトンタッチするからな。……おっ、ここだ」


 僕らは車から降りると、威圧感のある巨大なプレハブを目指して歩き始めた。


 アルミの引き戸を開け、受付で興信所とも警察ともつかない怪しい名称を告げると奥から頭にタオルを巻いた男が「なに?お客さん?」と威嚇するように姿を現した。


「すみません、実はこちらにいらっしゃる坂森さんと言うか大曲さんと言う方にお話を伺いたくて来たのですが……」


「坂森は俺だよ。大曲は今、昼飯を買いに行ってる。俺が話を聞くってことで、いいか?」


 僕らはひるみそうになる気持ちを奮い立たせ、「お願いします」と殊勝に頭を下げた。


                ※


「探偵?ふうん、兄さん達そんな風には見えないけどな」


 坂森は僕らが聞き込みのために訪れたことを知ると、剣を帯びた目でこちらを見た。


「本物なんてそんな物です。ええと……早速ですが『詩人』と呼ばれる人たちの事をご存じですか?」


「知ってるよ。……知ってたらどうだって言うんだい」


 坂森は僕の問いかけに、凄みを聞かせた声で応じた。


「ごく簡単な確認ですが、最近、『詩人』の人たちともめ事を起こしたことはありませんか?」


「なんだって?」


 坂森は眼を剥くと、どういう意味だと言わんばかりに身を乗り出した。


「そんなこと、あるわけないだろう」


 間髪を入れず否定する坂森を見て僕はもうだめだ、これ以上は突っ込めないと思った。


「……まあ、どこかの悪意を持った奴が流したデマだろうな。働きが悪くて馘首になった野郎がたくさんいるからよ」


「はあ……」


「悪いな兄さん、無駄足運ばせちまって。あいにくだがよそを当たってくれ」


 僕らは顔を見あわせ、これ以上は無理だと頷き合うとプレハブの建物を後にした。


「さあて、どうしようか」


「もうちょっと敷地内を探ってから戻ろうぜ。ああは言われたが、手ぶらで帰るのも癪だ」


 諦めの悪い僕らが敷地内をさもしい根性でうろつき回っていた、その時だった。


「おい。……あれ、何だ?」


 突然、雨宮が僕の脇腹を小突くと、塀の近くを目で示した。目線の先を追った僕は、敷地の隅に置かれている大小二つの物体に思わず目を瞠った。


「……トラックだ。もう一つは……」


 打ち棄てられるように塀の傍に置かれていたのはタイヤを外された大型トラックと、めちゃめちゃに壊れたバイクの車体だった。


「……どうやらビンゴだったみたいだな」


 僕らは塀の近くまで移動すると、周囲の気配をうかがいつつ二つの車体を写真に収めた。


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