第31話

「ユーヤが王族でしかも次期国王で、そのユーヤをミリアが好きで、無理にキスしたから? だから、どうしてミリアを退学させるんですか? 教授?」


「そのことについては殿下にもご説明していないのです。貴方に説明すると思いますか?」


「そんな王族の横暴が通るものか! ミリアを学園に戻せ!」


「王族の横暴と映ろうと、わたしは正しいことをしています。貴方に責められる謂れはありません」


 ミントの冷酷ともいえる反応に、ケントは握り締めた拳を震わせる。


 そのまま優哉を睨んだ。


「全部お前が元凶だ」


「そうみえるかもしれないね。現実にぼくもそう思ってるし」


「俺がコケにされたのも、ミリアが不幸になったのも、全部お前のせいだ!」


 ケントが感情的に拳を振り上げる。


 優哉は殴られる覚悟をして目を閉じた。


 だが。


「っ」


 呻き声が聞こえて目を開ける。


 目の前でケントがミントに片腕を捻られ、押さえつけられていた。


 捻った肩を捻り上げられて嫌な音を立てる。


 ケントの顔色が一瞬で真っ青になった。


「殿下に無礼な真似は許しません。次期国王への反逆とも受け取れますよ?」


「処罰するならしろ! 誰がお前たちに屈するか!」


「自惚れるのも大概にしなさい!」


 ミントが捻じり上げる腕に力を込める。


 ケントはもう声も出ないのか、ただ息を詰めていた。


「悲劇の主人公ぶっていれば満足ですか? 貴方を傷付ける形になって、殿下が少しも苦しまなかったと、そう思えるのですか? 貴方はその程度にしか殿下を見ていなかったのですか?」


 ケントはなにも言わなかったが、苦痛に歪むその顔に迷いのようなものが浮かんでいた。


「ミリアージュ・ヘイゼルのことで恨むなら、わたしを恨みなさい。殿下はなにもご存知ではなかったのです。すべてわたしの一存でやったこと。真実をなにも知らない貴方に責められたところで、わたしはなにも感じません」


「自惚れてるのはどっちだ? 人の人生に狂わせておいて、なにも感じない、だって?」


 脂汗を掻きながらもケントはそう言った。


「その言葉そっくり返しましょう。ミリアージュ・ヘイゼルは一国を左右する罪を犯している。人生を狂わされたのは彼女ではありません。この国です」


 この言葉には優哉も息を呑んだ。


 ミリアがこの国を左右する存在?


「今度殿下に狼藉を働こうとしたら、貴方を反逆罪で投獄します」


 それだけを言ってミントはケントを部屋から追い出した。


 突き飛ばして腕を解放して。


 振り向いたケントは苦々しい顔で、優哉とミントを睨んで、結局なにも言わずに立ち去った。


 痛そうに腕を押さえながら。


「ミント教授」


「なんでしょうか?」


「ほんとにミリアはこの国を左右する罪を犯してるの?」


 この問いに迷ったように頷かれ、優哉はもうなにも言えなくなった。


 放課後になったら彼女に逢いに行こう。


 そう心に決めて。

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