第21話
あれから一週間が過ぎて、このところ優哉は毎日飛ぶように家へと戻っていた。
ジェイクは未だに優哉の家にいて、そこで静養している。
ミントに押し切られたので、主治医にだけは打ち明けたが、他の臣下たちは未だにジェイクの死亡を信じていた。
打ち明けるべき時期を探っているらしいと優哉は読んでいる。
優哉は自分ではほとんど動けない兄のため、毎日学園が終わると飛ぶように家に帰っていた。
勿論お妃となる女性を見つけ出さなければいけないことは承知していた。
その期限が刻一刻とた近づいてきていることもわかっている。
でも、今は自分の体さえ自由にならない兄を優先したかった。
それに優哉はそろそろ腹を括り始めている。
最悪の場合、臣下に押し付けられたどこぞの姫君だとか、重臣たちの令嬢でも仕方がないなと。
花嫁すら見つけ出せなかった優哉が悪いのだ。
兄は最大限の選択の自由は与えてくれていたのだし。
それを無にした優哉が悪い。
そう考えて最終的には諦めるつもりである。
だから、兄を優先することにも迷いがなかった。
現状で優哉以外が即位することはあり得ないし、またそうなってはいけないとも思っている。
兄を厄介者扱いさせないためには、優哉が王となり兄を庇うしかないのだ。
それにこのままでは結婚できないのは兄の方だ。
兄が死んだと思われたことで、婚約者だった姫君との縁談は破談になっているし、今生還したと告げても、縁談は断られるだろう。
兄の下半身不随は相当酷いらしく、性的機能にまで及んでいる可能性が高いと父が言っていた。
つまり兄はこのままでは世継ぎが望めないのだ。
国王には欠かせない最大の義務とも言うべき、世継ぎが望めない。
だから、一時的に優哉が継いで、将来兄の子供に王位を譲るという真似もできないだろう。
兄には子供ができない可能性が高いのだから。
そんな身体だと知っていて、嫁いで来てくれる女性なんて、そうそういないはずだ。
だったらお仕着せの婚約者でも、結婚できるだけ優哉は恵まれている。
そう思えるようになっていた。
「今日はアイスでも買って帰ろうかな」
やはり世継ぎとして産まれてきて育ってきた身というべきだろうか。
兄は庶民的なことは、ほとんどなにも知らない。
だから、優哉の知識で知っていることを教えると、兄は大抵喜んでくれる。
庶民的な食べ物でも口に合わないとは言わない。
そんな兄を楽しませるために、最近は買い物をして帰るようになっていた。
「ねえ、ユーヤセンパイ」
突然声を掛けられて振り向けばミリアだった。
随分久し振りな気がする。
優哉がふたりの邪魔をしないため、距離を取っていたというのもあるが、ジェイクが見つかったことで、兄を優先していたため、自然と疎遠になっていたのだ。
「最近どうかしたの?」
「なにが?」
「ちっとも遊んでくれないし、それにこの一週間ほど見てると、毎日飛ぶように家に帰ってる。もしかしておばさんに何かあった?」
「なにもないよ。どうして?」
「だって毎日買い物して帰ってるみたいだったから、おばさんになにかあったのかなって」
「よく知ってるね? どこで見ていたの?」
そう問いかけてもミリアは、なにも言わなかった。
そんなに目につく行動を起こしていただろうか?
今ジェイクが見つかる事態は避けたいのだが。
「今日は久しぶりにあたしに付き合って?」
「ごめん。ミリア。ぼくは今日も用事が」
「用事ってなに? そんなに大事なこと? 幼馴染よりも?」
「ミリア」
嗜めるように名を呼んでも、ミリアは納得しない。
「もしかして家に誰かいるの?」
きつい口調の問いかけには、ふるふると首を振る。
ジェイクの滞在は明かせないので。
「だったら家に行ってもいい? 久しぶりにおばさんにも逢いたいし、お料理だって教えて貰いたいし」
「母さんも忙しいんだよ、ミリア。暇ができたら呼ぶから今日は我慢してくれないかな」
大体すっかり食が細くなり、体調的にも食べ物に気を配らなければならないジェイクがいるのだ。
母は毎日病人食の勉学に追われていて、とてもミリアの相手ができる状態じゃない。
しかしそう言って断ると、ミリアが膨れて優哉を睨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます