第11話 先輩、私に任せてください!
「本日もよろしくお願いします」
恵理の言葉に合わせて三人でペコリと頭を下げる。
「では、本日は私が中心に進める、ということでよろしいですね」
「あぁ。俺は横で詰まった時に口を出す感じで良いな?」
「はい」
放課後の教室。なんかもう、通い慣れた。このクラスの人も俺が来る光景に慣れたみたいで、特にざわつくことが無くなった。
「さて、始めるか」
「はい、では、昨日は数学なので、今日は英語で。本日も先輩に用意していただいた問題の方を使用します。先輩。いつもありがとうございます」
「ありがとうございます」
二人に頭を下げられ。思わず頬を掻く。必要だから用意したものにここまでしっかりとお礼を言われると、単純に照れる。なんかくすぐったい。
「では、恵理さん。早速ですが、この長文読解、いってみましょう」
「はい」
なるほど、いきなり解説を始めるのではなく、まず解かせるのか。
「……えーっと」
「そうですね。問題への最初のアプローチの仕方はそれで良いです」
「おぉ。ところでさ、問題をパッと見た時、何をすれば好いかわからない時ってどうしてるの?」
「そうですね……私は色んな問題に普段から触れるようにしているので、似たようなパターンの問題があったら、それを参考に。先輩は?」
「求めなければいけない答えから逆算だな。例えばそうだな、その問題だと、その英文が評論のどこに入るのが相応しいかを考える問題だな」
まぁとりあえず、あらゆる問題に言えることは。
「それをするにはどうしたら良いか。必要な要素をまず導き出して、足りないものを炙り出す。そうして問題を整理して行けば、足りないものを求めるにはどうしたら良いか導き出せるだろ。そうすれば解答に必要な要素は自ずと揃っていく」
「……先輩の悪いところ、出てますよ」
「えっ?」
「先輩、誰でもそうできたら苦労しないんです。先輩のように、基礎的な部分さえ理解すれば、勝手に応用していける人。私のように色んな問題に触れて、それの解き方を教わることで、先輩の言うことができるようになる人。様々です」
双葉さんの言いたいことが、見えてきた気がした。
「解き方を教わるとしても、一気に説明されて理解できる人、実際にやってみないと身に付かない人がいます。『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』という格言もあります」
ちなみにその続きは、『話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。』良い言葉だ。山本五十六の言葉だっただろうか……そうか、俺はこの言葉を知っていても、感動していても、実行できていなかったんだな。
「そうだな、双葉さんが正しい。俺が間違っていた」
「あっ、そ、そんな。謝ってほしいわけでなく。その……先輩が私に頭を下げるのが意外過ぎて、どうしたらいいかわかりません」
「なんだと。俺だって悪いと思ったら謝る」
「それは、わかってますけど……その。変な気分です」
まぁ、年上の先輩に頭を下げられることに慣れている奴の方が少ないだろう。多分。
「すいません。恵理さん。続きを始めましょう」
「う、うん」
「とりあえず訳せれば国語の問題になりますから。この手の問題はちゃんとこの英文読めてますか? という問題です」
それから双葉さんはヒントを出しつつ、解き終われば一連の流れを振り返りながら解説をする。さらに、解説を踏まえて教科書から似たような問題を引っ張って来て復習。
丁寧だな。今後の新人教育は双葉さんに任せたくなる。
「と、いう感じで。先輩の方から何か補足は?」
「無いよ。完璧だ」
「ありがとうございます。恵理さんの方から何か質問は?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「これなら、目標点にも届きそうだ」
「はい!」
「うん。良いぞ。良い感じだな、もう少し早く解ければ言うことはない」
「あ、ありがとうございます」
今日は俺と恵理の二人。双葉さんはバイトに行った。来週からはテスト一週間前ということで、バイトの休みをもらう。今までは別に必要無いと思っていたが、今回は違う。二人で集中的に恵理の成績向上に努められる。そこまでにしっかりと下地を固めておきたい。一週間前にできることなんてひたすら実戦形式の練習だからな。そのためには知識を身に着けてもらわなければ。
「課題と自主勉もちゃんとやっているようだな」
「はい、ここまでしてもらって、ぐーたら寝てるなんて、できませんから」
なんて言ってニッと笑う恵理に、見せてもらったノートを返す。だけど。
「なんですか先輩、そんな人の顔じーっと見て」
「いや、君、ちゃんと寝てるか?」
「寝てますよ。いつもより短いだけで」
「……睡眠はちゃんと取れ、睡眠不足は自分に足枷を付けた後に手錠を追加するようなものだ」
「セルフSMですか。ハードですね」
「……意外と凄い事言うな、君は」
だが、まぁ。徹夜で勉強してテストとか、舐めプだなとは思う。
「美容にも悪いしな」
「もー、そんな人の顔見ないでください。圧、圧が凄いです」
「あぁ」
「ご忠告、ありがとうございます。ですが先輩、私が削れる時間はこれくらいですから。でも、警告に従って、ちゃんと寝ようと思います」
「あぁ、そうしろ。じゃあ、続きだ、ここまでやったんだ、君にはきっちりと、目標点数、取ってもらうぞ」
「はい!」
今日の課題は少なめにしておくか。その分、質の良い、全体を網羅したような問題を選ばないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます