第17話─過去に捧げる未来への決意

街郊外の山の尾根に、そびえ立つ寺

『安霊寺』

 

 大きく佇む門を潜り、そのまま境内を真っ直ぐ進む。夕日の先が地平へ沈む時間であるため、閑散とした空気に満ちている。

 

 100m程進めばさほど広くない境内の一角、目的地へ続く石畳の階段の前にたどり着いた。

 

 この先に存在するのは何の変哲もない墓地。しかし約二百段もある段差は、さながら現世と冥界を分ける境界のようだ。

 

「……」

 

 ここに来るのも、もう何度目だろうか。

 

 一段、また一段と足を進めていくにつれて、機を熟して落ちていった紅葉で覆われていく。

 

 登りきった先すぐ目の前で、俺の弟は眠りについている。

 

「そろそろ7年が経つな、春馬」

 

 花を取り替え、線香をいくつか御前に並べる。辺りに安らかな香りが漂う中、俺は墓石の前に屈み込み俺は手を合わせた。

 

「ゴメンな、あの時もっと早く駆けつけていたら」

 

 死ぬほど繰り返して刻み込まれたあの一瞬が、脳裏に浮かぶ。

 

 いつもの通りの街並みに、捻るように差し込む日光。本当にいつも通りの日々だった。

 

「危ない!」

 

 そう思った時には春馬はもう駆け出していた。あのとき掴めなかった数センチの差、焦げ臭いような燃える匂い、に変わるその瞬間。

 

 あの時の差は、小さいようでとてつもなく大きかった。

 

「もしかしたら、そっちに行くのが早くなるかもしれん。近々、大きな仕事がやってくる」

 

 今の俺の役目は、『彩羽楓を守る』こと。椛が襲われた今、次に狙われるのは楓。

 

 まさか椛が負ける・・・とは思ってもいなかったが、こうなった以上楓は命を賭しても守り抜かねばならない。決して『器』は壊させはしない。

 

 〜♪

 

 和風な携帯の着信音が厳かな墓場に鳴り響いた。電話の相手は我らの長、『松原瑞代』だ。

 

「もしもし」

 

「もしもし、冬夜くん。遅い時間に悪いわね。要件を手短に伝える」

 

「はい、何でしょう」

 

「明日、きっと標的ターゲットがこっちに来るわ。目的は、楓の抹殺よ。明日あなたは楓の見張りと、無力化を頼むわ。おびき寄せて一気に終わらせる」

 

「はい、分かりました」

 

「何か質問はあるかしら」

 

「では一つだけ。可能性は限りなく低いですが、もし楓がこちら側・・・・に来うる素質だとしたら、彼女を受け入れますか?」

 

「……それは状況によるわ。だが、考えておく」

 

「分かりました。ではまた、学校で」

 

 ふと空を見てみると、まばら雲と夕日のグラデーションが目に止まった。またたく間に流れる雲は、もう時間があまりない事を指していた。

 

「そろそろ、奴らが動き出すかもな。春馬、また今度な」

 

 最後に春馬の好きだった みたらしだんご を御前に添えて、後にした。

 

「行くぞ、ヒサメ」

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