第7話(閑話)─勝負の狼煙を上げろ!

「山には神が宿る。そして神は気まぐれである。山に絶対は無い」

 

 とある有名な登山家が残した言葉らしい。その男はありとあらゆる日本の山を登っていた。その男は一人だったが、その膨大な知識量と経験からいつしか登山家の中で崇められる存在となった。しかし、ある時を境に山に登ることを止め、そのまま消息を断ってしまった。

 

 奇しくもその男が唯一登らなかった山があった。

 

    "士たちが夢の跡 富士の霊峰"

 

 今となってはその男が見たものも、有り余る経験と知識も、彼の思惑も、泡沫となって消えてしまった。いや、当然だ。どの道彼はもういないから。

 

 私は顔も分からない人からこの言葉を聞いた。それが私の一番始めの記憶である。誰かも風景も何時かも分からないが、この言葉だけが記憶として存在している。この言葉の真意は分からない。けれど

 

 

 私は今、山に居る。

 

 

 愛する妹との勝負のため。でもそれは私たちの日常でもある。私たちが生きるためでもある。

 

 いつの日か、この言葉の意味を知る時が来るのだろうか。そんなことを思いつつも、今は目の前の勝負に集中するまでだ。

 

 さあ、今日も始めよう。

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