依リキ依リバナ神ノソノ ~Substitution Archiver~

瑕疵宮

プロローグ

プロローグ─落葉する思い

澄み切った空気の中に私はいた。聞こえてくるは風の音、鳥の聲、樹々の歌。人工物が排斥された空間のみ奏でられる協奏曲。行楽目的で来ようものなら、とても心地の良いものであっただろう。しかし、森の中を無意識に進む私にとって、それは不安の種を蒔くものでしかなかった。

 

 この森で消えた妹は無事なのか。なぜ昨日の雨の痕跡がないのか。ここ数日はずっと雨だったのに。

 

 あらゆる謎が私の脳内を駆け巡る間にも、足は森の奥へと誘われていく。無意識に、本能のままに。

 

「ねえ、どこにいるの? いたら返事して!」

 

 疲弊しきった足腰が動くことを拒否してくるが、それに鞭打つように私は叫んだ。

 

「はあっ…… はあっ…… うっ!」

 

 道端の石に躓きかけ、体勢を崩す。ギリギリ転ぶことは無かったが、この調子だとまともに探せなくなるので近くで休憩を取ることにした。

 

 ふと時間を確認しようと携帯を開くが、画面は圏外を示す。だいぶ深くまで立ち入ってしまったようだが、妹のことで頭がいっぱいな私は、帰りのことなど考えていなかった。

 

「早く見つけて帰らなくちゃ…… っ〜!」

 

 立ち上がり一歩二歩、またもや岩に躓いた。それもそのはず、今の私の体は限界を迎える直前。立ち上がることもままならず、その場に蹲る。

 

「ううっ……くっ……」

 

 気づいたときには私の頬を涙が伝っていた。悲しいから涙が出るのか、涙が出るから悲しいのか。不安、恐怖、孤独。逸脱した状況の中、感情の選別など出来なかった。そこから永遠と思える時間、涙の奔流を止めることは無かった。

 

 

 

 ひとしきり泣いたところで、辺りは暗くなっていた。流石に引き返さなければならないだろう。

 

 つかの間の停滞は、私の体を落ち着かせてくれた。感情の整理がついたところだが、如何せん私は道に迷っている。


 周囲から蛙の声が聞こえたような気がしたが、とにかく今は灯りを探した。明かりがあれば人がいるかもしれない。長い休憩で少しは動くようになった足を頼りに、私は動き出すことを決めた。


「はぁ、行……くか……」

 

 この瞬間、地面に飲まれていくように体は倒れ、そのまま意識は途切れてしまった。 

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