第189話 会議の結果

「それで? 結局、俺達は何をすることになったんだ?」


「私は傷病兵の治療。カイムさんは……いつもと同じく申し訳ないですけど、戦場で敵と戦っていただきたいのです」


 ミリーシアが申し訳なさそうに眉尻を下げる。


 会議が終わり、カイム達は部屋に戻った。

 領主邸に与えられた一室。四つのベッドが並んだ大部屋である。

 本来であれば、嫁入り前の淑女を男と同じ部屋にするだなんて有り得ない。

 しかし、ミリーシアの兄であるランスは物分かりが良過ぎる男。妹が良ければと、あっさりと男との同室を認めた。


 黒竜騎士団の裏切りに揺れた会議であったが、その後は今後の方針についてキチンと話し合っている。

 ミリーシアはほとんど発言することはなく、楚々として椅子に座っていた。


「アーサーお兄様は必要とあれば、謀略を厭わない御方です。しかし、いざ戦となれば真っ向勝負。正面から大軍を率いて、堂々と攻め込んでくるはず。カイムさんは他の兵士達と一緒に戦場に立ち、敵軍を迎え撃っていただきたいと思っています」


「戦場か……そういえば、初めてだな」


 それなりに戦績を重ねて、修羅場もくぐってきたカイムであったが……多くの兵士が入り乱れてぶつかる戦場に立った経験はない。


(経験不足ではあるが……まあ、どうにかなるだろう)


 カイムには『毒の女王』から引き継いだ記憶がある。

 かつて、『毒の女王』は人間であった頃、とある国に所属している魔術師だった。

 彼女は国に命じられていくつもの戦場に立っている。その経験を応用させれば、右往左往することにはなるまい。


「カイムさんは誰かの指示に従って動くのは苦手だと思いますので、遊撃兵として自由に戦うことができるよう、お兄様に頼んでいます」


「それは助かるな。自分よりも弱い奴に従うのは性に合わない」


「私も中隊の指揮を任されることになった。カイム殿とは離れて戦うことになるだろうが、戦場に立つぞ」


 続いて、壁際に控えているレンカが言う。


「王都の騎士団にいた頃にも部隊を率いていたので、慣れた仕事だ」


「大丈夫かよ……いつもみたいに無様なところをさらすんじゃないぞ」


「心配せずとも、戦いの前に発情したりはしない! 私を何だと思っているんだ!」


「…………雌犬だろ」


 カイムが呆れたように肩をすくめた。

 凛とした女騎士に見えるレンカであったが、夜は尻を叩かれてキャンキャンと鳴いている犬になる。

 カイムにとってはそちらの姿の方が馴染みはあり、戦場で部下に指示を出している姿など想像できなかった。


「その間、姫様の護衛に就くことができないからな……すまないが、ティーに任せても構わないだろうか?」


「私ですの?」


「ああ、頼む。姫様は皇女であるために狙われるかもしれない。私の代わりに守ってあげて欲しい」


 レンカがティーに頭を下げた。

 ティーがチラリとカイムに視線を向けてきて、確認を取る。


「そうしてやれ」


「わかりましたわ。カイム様がそう仰るのなら……」


 ティーとしてはカイムと一緒に戦いたい気持ちがあるのだろう。

 しかし、カイムは一人の方が戦いやすい。

 好き勝手に暴れて、もしもの時には逃げてしまえば良いだけのこと。

 周りに人がいない方が遠慮なく毒を撒き散らすこともできるし、やりやすかった。


「私も勝手に動かせてもらうわね」


 同じく、壁際にいたロズベットが挙手をした。


「殺し屋の私が兵士として働くのはやりづらいし、適当に敵の首を落とさせてもらうわ」


「……わかりました。無理はしないでくださいね」


「ええ、危なくなったら逃げるから心配いらないわ」


「それでは、そのように。あとはリコスさんですけど…………いませんね」


 リコスは会議が始まる前から姿を消しており、戻ってきていなかった。

 好き勝手に町を出歩いているのだろう。腹が減ったら戻ってくるはず。


「まあ、リコスさんは町に置いていきます。戦いには連れて行きません」


 狼幼女のリコス。

 彼女がただの子供ではなく、何か得体の知れない力を秘めていることは、ガランク山での戦いでわかっている。

 それでも、任意に引き出せるかわからない力に頼るつもりはない。戦いには出さないのが無難だろう。


「それでは、そのようにお願いいたします……戦いが始まるのは一週間後。それまで、十分に準備を整えていてください」


 ミリーシアが胸元に手を当てて、静かに言う。

 平和を愛し、争いを好まないはずのミリーシアであったが……今の彼女は超然としており、落ち着き払っている。


(人間の本質は追い詰められた時、いざという時にこそ出るものだ)


 ならば……これがミリーシア・ガーネットという人間の本質なのだろう。

 大人しそうに見えても皇女。人の上に立つ存在として、気位と冷静さを持ち併せているようである。






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本作の4巻が発売いたしました!

応援してくださった皆様に最大級の感謝を申し上げます!


近況ノートに表紙イラストを貼っていますので、よければ見てください。

https://kakuyomu.jp/users/dontokoifuta0605/news/16818093083872521049

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