第16話 戦利品

 洞窟の奥には予想通り、盗賊の持ち物や戦利品が集められていた。

 武器や防具、金貨や宝石の詰まった袋、高価そうな置物、食料品などの生活用品などなど。多くの物品が洞窟の奥に所狭しと押し込まれている。


「……随分と羽振りがよさそうだな。ただの盗賊がどうしてこんな大金を持ってるのかね?」


 カイムは金貨の詰まった袋を持ち上げて怪訝につぶやく。

 これだけの金銀財宝があれば、盗賊から足を洗い、土地や家を買ってまともな生活だってできたはず。

 よほどの大仕事をこなしたばかりなのか。それとも、ただの盗賊ではなく何者かの後ろ盾でもあったのか。


「……まあ、どうでもいいか。服もあるようで何よりだ」


「ああ、良かった。私達が奪われた荷物もあるようですね」


 俺から少し遅れて、ミリーシアとレンカがやってきた。

 二人は洞窟の奥に並べられていた荷物を見て安堵の声を上げる。


「君達の持ち物はそのまま持ち帰るといい。それ以外のものは盗賊討伐の報酬として俺がもらうが……問題ないな?」


「もちろんでございます。それがカイム様の権利ですもの」


「それじゃあ……適当に仕舞っていくとしようか」


 ミリーシアから許可を得て、カイムは金目の物を中心にマジックバッグに押し込んでいく。

 どんどんバッグの中に消えていく戦利品にレンカがパチクリと瞬きを繰り返す。


「それほどの容量のマジックバッグを持っているとは……貴殿はひょっとして、高名な貴族か冒険者なのだろうか?」


「いや……これは友人からもらい受けたものだ。俺は貴族でもなければ冒険者でもない。というか、これってそんなに高価なものなのか?」


「ううむ……私もマジックアイテムについてさほど詳しいわけではないのだが、高位の空間魔法がかけられた袋が城と同じ値段で取引されたという話を聞いたことがある。オークションにかければ金貨一万枚は下るまい」


「……マジか。アイツ、そんな高いものをよこしてきたのか?」


 どうやら、相当に高価な品物をもらっていたらしい。

 そんなにも高いものを与えられたとなると、感謝以上に恐怖の感情が湧いてくるから不思議である。


(おかしな下心でもあるんじゃないよな? ファウストにかぎってそんなことは……無茶苦茶、ありえそうだけど)


「国宝にも匹敵しかねない品のようだが……本当に、そんなものをタダでくれる友人がいたのか?」


「レンカ、恩人であるカイム様に詮索は失礼ですよ。そんなことよりも……破れた服を着替えましょう」


 暗に盗品ではないかと疑いをかけてくるレンカを嗜め、ミリーシアが手招きをする。


 ミリーシアは木箱の中からドレスと下着を取り出した。ドレスといってもパーティーで着るような豪華なものではなく、貴族令嬢が普段着として着るような簡素なデザインのものである。

 レンカもまた自分の着替えを発見して取り出し、カイムの方をキッと睨みつけてきた。


「私とお嬢様はあちらで着替えてくる。わかっていると思うが……覗くなよ?」


「……もちろんだ。俺が婦女子の着替えを覗くような下種ゲスだったら、君達の貞操はとっくに存在しないと思うが?」


 カイムは肩をすくめて、「襲おうと思えばいつでもできる」と言外に主張した。

 レンカはわずかに表情を顰めたが、何も口にすることなくミリーシアを連れて洞窟を戻っていく。


「フン……信用ないな。まあ、盗賊に襲われかけたばかりだから仕方がないか」


 カイムは鼻を鳴らして去っていく二人を見送り、戦利品をアイテムバッグに入れる作業を再開させる。

 ミリーシアらの荷物を除いて、金目の物は一通り収めることができた。続いて食料品や武器、防具などを入れていく。

 食料品は干し肉や乾パンなどの保存食が多い。次いで小麦や野菜などで、これは商品を輸送していた商人から奪ったものだろう。

 気になるのは武器や防具である。使い古して劣化したものもあるが……妙に新しくてしっかりしたものが多い気がする。


(……やけに良い装備品が多いな。これも略奪したものか?)


 そういえば……盗賊の首領も魔剣などという高価なものを持っていた。

 旅に出たばかりで経験の浅いカイムにもわかる。この洞窟を根城にしていた盗賊団は不自然なほど装備が良すぎるのではないだろうか?


(何者かが盗賊に資金や武器を提供していた? 何のために?)


 カイムは悶々と考え込むが……やがて「ハア」と息をついて首を振った。


「……まあ、考えても仕方がないな。どうせ俺には関係のないことだ」


 盗賊はすでに壊滅した。死人に口なし。

 どうせ事情を確認することもできないのだ。答えの出ない問いに悩んでも意味はない。


 カイムは頭に浮かんだ疑問を捨て去り、目につく物を片っ端からアイテムバッグに放り込んでいくのであった。

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