No.12 次の国は激寒です!グレイシモンドさんの様子が何か変ですね

ティターノ主催で行われた宴を終えた翌日。


アギ―達は城門でティターノ達と出発前の話をしていた。


「ここからですと経済力の国がもっとも近いですかね。ですが大丈夫でしょうか。こちらの列車を使われた方が安全に向かえますが、最短距離で行こうとすると山を越える必要があります、当然道は険しく遭難のリスクも……」


「ああ、遭難に関してはこいつがいるからな」

アギ―の頭をポンポンする


「アギ―殿はこの周辺の生まれなのですかな?だとしても国の側は深雪地帯で、山は極寒の環境となっています。吹雪もあるでしょうし」


「寒さなんてどーってことねぇよ。私がいるからな、最短ルートで良いんだ」

フラマーラはそう言い切った。


「確かに、フラマーラ殿の力なら寒さなど関係ないですな。そうだ……」

納得したティターノは背負っていた弓を取る。


そしてフラマーラにそれを差し出す。

「ん、これは?」


「我が一族に代々より受け継がれし弓でございます」


「くれるのか?」

フラマーラがそれを受け取る。


「ええ、戦いの最後に見せた貴女様の戦いぶり、あれは正しく武の神のようでした。これからも闘いは激しいものとなるでしょう、そのお供にして頂ければ一族も喜びます」


弓は折りたたまれており、構えると展開される。

展開された弓はフラマーラの身長程もある大弓。4メートルほどの巨体であるティターノが持つ分には小型の弓に見えたが他の者と比べるとその大きさがよくわかる。


「ここで本当ならば恩人であるアギ―殿にこの弓を託すべきなのでしょうが。流石に大き過ぎますからね」


「引っ張ってみろ」

「んぐぐぐぐぐ!無理です!ビクともしません」

フラマーラに弓を持ってもらい全力で弦を引っ張るアギ―。


「はっはっは、ではアギ―殿にはこれを」

そう言ってティターノは鞘に納められた小振りな剣をアギ―に渡した。


「こちらはかつての国王たちが国同士の話し合いをする場に収められていた宝剣です。私の父が肌身離さず持っていたと聞いております、魔王が襲来する以前にも国があり、人々が懸命に生きていた証です」


「ええ!そんな大事なもの、剣で戦うとか出来ませんし……ど、どうせなら他の方に……」


「受け取っとけよ、お似合いだと思うぜ。ちっこい所とかな」

フラマーラがアギ―の背中を押す。


「わ、分かりました。必ずこの世界を今よりも良い場所に、昨晩の宴みたいに美味しい料理を食べれて、皆仲良く笑い合えるような、そんな世界にしてみせます!」

アギ―はそう宣言して剣を受け取った。


「流石は我らが新しい主!その意気ですぞ」



「それではどうか道中お気をつけて。そして何より次の統治者には特にご注意を、この世界の魔王から最も信頼を置かれているもので、魔人という種族の者です」


「ほお、魔人か……」

ティターノの話をきいて興味深そうに頷くグレイシモンド。


「そんじゃいくぜ!お前ら後ろから離れてなッ!」

テネバイサスの煙に乗ったアギ―達、フラマーラが両手を構える。


「ッ!!おい、分かってるだろうが加減するんだぞ、良いな!」

「アギ―ちゃん掴まっててねー♥」

グレイシモンドは両手を光らせるフラマーラに怒鳴り、アウレンデントは自分の胸元にアギ―を抱き寄せた。


「喋ってたら舌噛むぜッ!」

両腕から勢いよく焔を噴射するフラマーラ。


「ひええええええ!皆さんさようならぁぁぁぁぁ!!!」

アギ―は絶叫しながら煙に乗ってその場を去った。




街を去って数刻もしない間にアギ―達は次の街の付近へと来ていた。

「うっぷ、なんかフワフワします……そして激寒です」


出力が上がったフラマーラの焔加速に揺られアギ―はグロッキーになりアウレンデントの膝枕で横になっていた。


「あらあら、でも道案内ちゃんと出来て偉いわね」

「おい、あれじゃないか」

テネバイサスが指差すとその方向に高い壁により囲われた街が。


とりあえず一行は門を見つけその側まで進む。

壁の高さはその上から見下ろせば人が豆粒にしか見えないであろう程高かった。近づくとほのかに温かい。

門は細やかな装飾が彫られており、ティターノの場所でみた壁や門とは全く別の印象を受ける。


「これは……」

グレイシモンドがその装飾に見とれている間に他の者は門の前で立って話していた。


「また正面から入れば良いだろ。相手が向かってくるようなら返り討ちだ」

「この壁を超えることぐらい訳ないけど。どの道見つかりそうだし」

「ええ、戦う前提なんですか……」


そんな話をしていると門が開き始める。

そして中から兵士の格好をしたものが隊列を成して現れた。


彼らは隊列を変え、道を挟むように整列、そして敬礼をした。

兵士たちの後ろからコートを着た男性と女性が現れお辞儀をする。


「お待ちしておりました、我らが統治者へご案内いたします」


「え……」

アギ―達はその者たちに案内されるがまま街の中へと入って行く。


「また途中で囲まれて襲われるパターンか?」

「にしてはこの人たち武器をもってないわね」

「敵意も感じない。なんなんだ」


街中は人々が活気づいて商売をしていた。

「おお!お客様だね!あとでうちに寄っててよ!」

「いらっしゃい!」


「なんかここは皆さん元気ですね」

「こんな土地であれほどの食料はどうやって手に入れているんだ」

アギ―とテネバイサスが街の光景をみてそう言った。


街で販売されているものは野菜や肉、魚の食料をはじめ織物や装飾品なども扱っている店があった。


「この街は主に他国からの資源や品物を集約させまた他国に配布する役目を持っております。武力の国からは資源でいうと鉱石類、資源力の国からは主に食糧を、そして技術力の国からは生活に必要な製品を。それだけでなく最近は統治者様監視の元この国でも食糧の生産を行っております」


案内人がそう説明する。


「街中は外に比べてかなり温っけぇな」


「街の地面と街を守る外壁には温水が流れておるのです。各建物にも暖房設備がありますので室内だと薄着でも良いという者もいるくらいです」


「へぇ、そいつはいいや。なんなら暑いぐらいが良いんだがな」

フラマーラは案内人にそんな会話していた。



街中を進んで行くとこれまた立派な城が現れた。


周囲には氷の彫刻が並び、城そのものが美術品のような美しい城。


「こ、これは!?だれだ!一体誰がこの彫刻を作ったのだ!?」

城と彫刻に興奮するグレイシモンド。見る彫刻、見る彫刻に反応し近づいてはじっくりみていた。


「なんだこいつ」

そんなグレイシモンドを少し冷めた目でみるフラマーラ。


「こちらで少々お待ちくださいませ」


大広間に案内されたアギ―達は言われた通り待っていると、奥の扉が開き召使いと共に一人の男性が現れた。


「ッッ!!」

グレイシモンドは息を呑む。


「良くぞ来てくれた。わが愛しき君とそのお仲間の皆様。私がこの国を統治しているグラドと申します、以後お見知りおきを」


そう言ってアギ―達の前に出て来たグラドと名乗る男は深々とお辞儀をした。


グラドはスラッとした細身のスタイルで切れ長の目をしたグレイヘアのダンディな男だった。彼の額の右側からは氷で出来た角が生えていた。


「グ、グラド……!?」

「ああ、いつぶりだろうな、冰の魔王、いや”愛しき君”」


二人はそう言って駆け寄り抱き合う。


「え?」

「は??」

「あらまあ♡」

「……」


どうやら二人は非常に深い仲のようだ。

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