アイテール【ラスボス奥の間から始まる物語】

フィガレット

ノエル1章

プロローグー転生

 僕の名前は『九重ここのえ 流生るい』。


 小さい頃に両親を亡くし、祖父に引き取られた僕は平凡な人生を送っていた。

 特別な事と言えば友達が少ない(いない)事、そしてくらいだ。

 何を言っているのだと思われるだろう。

 実際妄想なのかも知れない・・・。


 18歳になった頃、それを待っていてくれたかのように優しかった祖父が亡くなった。

 僕の事を酷く心配してくれていたが、苦しみも少なくそっと息を引き取った。

 そして、高校を出て就職したブラック企業に今日も足取り重く向かう途中・・・


 暴走したトラックに轢かれ命を落とした。


 他人より未練は少ない方なのかも知れない。

 それでもまだ『もっと色々な経験をしたかったな』と

少し物足りなさを感じながらも諦めに似た感情の中、僕の意識は途切れた。


*****

***


 ーこの3時間後、

 

 僕は伝説の装備を身にまとい、ラスボスである神竜と対峙していた。

 体躯は3m程はあるだろうか。白銀はくぎんに輝く鱗、光を透過し光る翼。

 エメラルドグリーンの澄んだ瞳に流線型に洗練されたその形状フォルム


 その余りにも美しい姿に思わずつぶやいた。


「キレイだなぁ・・・」


 そして次の瞬間には、神竜のブレスで焼かれていた。


 ・・・


「おおノエル!死んでしまうとは何事だ!

 しかたのないやつだな。おまえにもう一度機会を与えよう!

 戦いでキズついた時は街に戻り宿屋に泊まってキズを回復させるのだぞ♪」


 真っ白な空間に戻って来た僕に、ドヤ顔で語るこの女性はセフィだ。


「勝てるわけないでしょ・・・街にも宿にも行けないから困ってるんですって」


 僕は呆れながら言う。


「そりゃそうよね♪」

 

 セフィはそれはもう楽しそうに笑っていた。

 何がそんなに楽しいんだか・・・。


 どうしてこんな事になってしまったのか・・・。

 話を一度トラックに轢かれた後に戻そうと思う。


****

*****


 気が付くと僕は10畳ほどの空間で、お洒落な丸テーブルを囲んだ椅子に座っていた。

 目の前には少しおっとりとした雰囲気の、綺麗な女性が座ってこちらを伺っている。


 女性は薄緑色の西洋風ドレスを着ており、その背中には淡く光る透明な蝶のような羽根が生えていた。


 夢だろうか・・・とても現実とは思えなかった。

 しかし、トラックに轢かれた記憶は鮮烈に残っている。


 僕は間違いなく・・・死んだ。


 混乱する僕とは裏腹に穏やかに、そして丁寧な口調でその女性は話し始めた。


「私はこの世界アイテールを支える7柱の神の一人、聖神ディーナと申します」


 自己紹介をしてくれる女性の前で、僕はまだ現状を整理出来ないでいた。

 それでもディーナと名乗る女性は続けて説明をする。


「貴方は前の人生を終え、この世界へやって来ました。

 使命等はありません、この世界を楽しんで頂けると嬉しいです」


 理解力はある方だと自負していたが、流石に思考が追いつかない。


「これから貴方はステータスとスキルのエディットを行い、

 このアイテールの世界へ旅立つことになります」


 ただ、終わったと思った人生がまだ続く・・・それを僕は素直に嬉しく思った。


「ご説明は以上になります。余り長い時間はお取り出来ませんが、

 ご質問があれば出来る範囲でお答えさせて頂きます」


 ここで一通り説明が終わったようだ。しかしこれは・・・


「まるで異世界転生もののテンプレートだなぁ・・・」


 思わず口出してしまっていた。

 すると意外にもその言葉に返事が返って来た。


「この世界には、同様に日本から来た人が何人もいらっしゃいます。

 日本でその事を知る人はいないはずですが不思議ですねぇ♪」


 彼女が穏やかに笑って返答してくれたお陰で、

少し緊張が解れたのか、僕は自然と質問をしていた。


「アイテールという世界はどんな世界なんですか?」


「アイテールの世界には妖精、エルフ、獣人、魔人、人族、竜人、ドワーフ、7つの種族が存在していて、それぞれの種族は各々の国を持ち暮らしています」


 どうやら本当によく聞く異世界ファンタジーの様な世界らしい。


「ステータスとスキルについては教えていただけますか?」


 僕は必死で必要な情報について考えて質問した。


「それにつきましては、エディットの際に説明文を表示出来ますので、そちらでご確認頂けたらと思います」


 なるほど、後で確認しよう。


「名残惜しいですが、残り時間もわずかになって来たようです。

 他に何かご質問はありますか?」


 よく見ると砂時計の様なものがある。これが残り時間だろう。

 僕は聞き忘れた事が無いかを考える・・・


 ダメだ思いつかない。


「ディーナさんとは、またお会い出来ますか?」


 丁寧に対応してくれた女性に名残惜しさからか、こんな質問をしていた。


「よほどのことがない限り会うことは無いと思います」


 彼女は少し寂しそうに言った。

 残り時間はもう数十秒だろうか?

 砂時計の砂は、残りわずかになっていた。

 何か聞き忘れた事はないかと必死で考えるが、やっぱり思いつかなかった。


「色々と本当にありがとうございます。またお会いできることを祈っています」


 僕は最後に出来る事として感謝の言葉を伝えた。


「貴方みたいな良い子の担当が出来て嬉しいわ。幸せな人生を送って下さいね」


 とても穏やかな声でディーナが告げる。

 優しく笑うその顔に見送られる様にして、僕の視界は真っ白になった。

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