Causò-18:波濤ゆえ(あるいは、毅然適/偽善的/スコンパルサ待った無し)
それからの記憶は、曖昧だ。身体中の孔という孔をかっぽじられた感覚。皮膚に、臓器に、脳に、思考に、精密に、乱雑に穴を開けられたような感覚。孔の位置を示す数字が、二種類だけの記号のようなものに置き換わりて、神経の端から端までを、自分の中の深淵に潜む何かを読み取ろうと駆け抜けるかのような、そんな輪郭の判然としない感じとしか、知覚は出来なかった……
「今度は私が上になりますゆえ」「え? や……えぇともう良いのでは」「うふふふ69をこんなに29させて……本当に兄者は仕様の無き22でございますなぁ」「ちょッ、何を」「知れたことです。私の71にて更なる高みへと誘うであろう組み合わせを探求する……それ以外に何か?」「え何怖い」「そ、その前にまずは71同士を82し合うことによりて色氣の流れを高めていく……そそそれが重要と思われ」「本当に何を言ってるか分から……むぐ」「ぅむ、ふぁ……色氣の流れは、んんッ心の流れ……もっと兄者もその自然なる流れに、ふぁっ、身を任せるのですよ?」「ぐっ、それはそうなのかも知れぬが、これはもう何がなんだか」「口ではそのような事をおっしゃられますが、うふふ今も76くり返った34な69が、私のしとどに42した69のとば口を優しく17されていますのよ……」「いや怖ろし過ぎるのだが……底の見えなさがより怖い」「もっと……ゆっくり……色氣の流れを己の内に留めつつ滞留させ、そうして瞬で解き放つのです……」「も、もっともらしき事を呟きながら、か、身体中の孔を舌でほじくり開けようとするのはやめよ」「私は兄者とふたりで新しき境地へと至らんと最大限の努力を施しているに過ぎませぬゆえ」「だからもっともらしき言の葉を放ちつつ、舌をも妖しく蠢かせることが出来るのはなにゆえなのだ?」「なるほど兄者分かり申しました。71と最大限に繋がる場所、それは69。しかして、ただそれだけに留まらぬところが奥深きでございまする。すなわちはふたり同時に相手の69を自らの71を以って繋がる……これこそが円環の理……ッ!!」「待った。それであると二人の間で対流し続けるだけのこととなってしまうぞッ」「それこそが『境地』であれば? 誰をも到達したることの無き場所へ、ささ、このユニシアと共に参りましょうぞ。この、死に腐りかけていた亡者の如きだった私と、はは、愉快ではありませぬか。兄者。私には今、兄者の心までも流れ込んでくるように感じているのです、兄者。どうせ互いに死んだ身なれば、ここよりは最早荒唐無稽なる道を堂々と闊歩しましょうぞ兄者。雁字搦めなる人生に、何がございましたでしょうか、兄者。恐れるものなど何も無きはず。色氣? さなるものなどは所詮上っ面。兄者、もっと自由に兄者、この糞の如き乱世を駆け抜けては兄者? 兄者……ッ、兄者……ッ」「なぜ泣く?」「泣いてなぞおりませぬ兄者。これなる飛沫は兄者の69よりの先84りし98」「誤魔化しかた……あと『兄者』とのたまうごとに攻めを強めるのをやめてはくれぬか? 脳が感情やら諸々を処理しきれぬのだが」「お放ちください、その荒れ狂う感情の全てを。至りましょうぞ、彼の彼方まで……ッ」「いや……何であろうもう何が何やら分からねェ……ぅうッ!! や、やめよユニシアッ!! もうどうなっても知らんぞッ!!」「2……3……5……7……11……13……何故か落ち着く数……これらの孔を順に兄者の孔に重ね合わせれば……きっと成る……ッ!!」「があああ……ッ!! 駄目だもう駄目だ俺はッ!! 俺は色氣の全てを捨てるぞぉぁぁぁぁ……ッ!!」「お捨てくださいませッ!! 兄者を捨てたる色氣などこちらより切り捨てくださいッ!! ある……ッ!! あるはずですそこに求めしものがきっとぉぉぉああああああんッ!! ああッ!! 兄者の75……あったか17リ……」「う、おおおおおおおおおァァァァッ……!!」「……」「……」「はあッ……はァ……あ……兄者? 達せられませたでしょうか……遥かなる地平へと……」「……分からぬ……分からぬが……何故か非常に凪いだ感覚だ……非常に……賢しき者が如くの境地というか……見える物がまっすぐに見え、感じる物が自然なるがままに感じるというか……」「兄者……遂に……至ったのでありますね……」「ああユニシア……お前のおかげだよ。礼を言う」「ふぇ? ……ちょ、何を」「ん? 感謝の意を表す抱擁だが? ふっ……考えてみればこんな簡単なことすら出来なかったな、兄妹でありながら。許せよこの血の繋がらなき愚兄を……」「ふぇぇ? そういうの駄目でございますよ? 多幸感を漂わせながら物理的に精神的に包み込むのはいけなき事ですよ?」「わかったんだ。わかったんだよユニシア……脳内に落ちた……乾坤一擲の霹靂が……ッ!! こんな、こんな簡単なことだったんだ……」「えちょっと待って言の葉が届いてない怖い」「単純なコトだったのだ……1と96、2と95……『足して97となる組み合わせで孔同士を合わせる』……そういうことだったんだ……」「わけの分からぬことをのたまいながら、わ、私の1を優しくぽふぽふされては困りまする……ッ!! そういうやり方は卑怯ゆえ……ッ!!」「卑怯も何も無い……そこにあるのはただ純粋なる『境地』……ッ!!」「あっるぇ~、ただ2に人差し指の背で触れられるだけでッ!! 得も言われぬ幸福感に降伏させられてしまいそうになるのは何故でありましょう……」「ユニシア……今の今までを許してくれ……ずっと思っていた……ずっと考えていた……お前に不憫な思いをさせ続けてきたこと……俺は……戦場に棄てられていたこの俺がッ!! 慈悲深き母上の手により人並み以上の扱いを受けられていたことを当然の如くに享受していたのだ……その傲慢さをお前は諫めようとしてくれていただけであるのに……俺は……俺はそんなお前を疎ましいとさえ思ってしまっていたんだ……ッ!! 許してくれユニシア……」「だからそうゆう包容力全開で抱擁しながら今更なことを耳元で囁くのが卑怯と申し上げておりますッ!! それにちょいちょい何ですか、名前呼びっ!! あ……精神の根っこのところがグラつかされておりまするぅぅ……ッ!! ちょ、もう本当に……」「そうだな……後は、言葉では無く、行動で示そうぞ……ッ!!」「あれぇ、冷静ではあるのだけれど、それだけに冷徹に的確に私のもう駄目になっている処を探られているのは何故ェ……」「すべてを繋ぐ。『97の和』の円環の彼方へ……ッ!!」「言っている意味はよく分かりませぬが、とにかく凄い奔流……ッ!!」「段々と……繋がっていくのが分かる……二人の身体が溶け合うように……色氣のひとつの塊になりしが如く……これがッ!! これこそが『境地』……今こそ行くぞ、最大級の高みへ、アザトラ……推して参る……ッ!!」「だ、駄目ですってば4を93、5を92、6を91ってそんなッ!! そんな箇所を同時になぞ無理でございまするッ!!」「無理を通した先に……あるのであれば?」「あ絶対聞いてないっていうかこれ言っても無駄な奴なんだぁもうェ……」「12を85……13を84……ユニシアお前の施錠されたる処を鍵を以って次々と開けていくような感覚だ……14を83……その度に増すは色氣の波濤……これが……こんなことが……ッ!!」「ひぁぁ……こんなのもう無理無理無理無理ィ……弾けちゃう、身体の芯のさらに中からぁ……」「委ねろ俺に……澱みし力を清浄なる流れへと変える、それだけを感じろッ!!」「あひぃぃぃ……こ、こんなことは許されませぬッ!! 脳が、脳が溶けていってしまいますぅ……」「許すも許さぬも無い……色氣に囚われることなく、色氣と共存する。それこそが『境地』……」「はぅぅぅ……と、止まらなくなっちゃう、止まらない怖いィ……!!」「境地……境地……ッ!!」「ひぎぃ、も、もう軽く境地には
――
「どしたん、鼻血出てるけどぉ?」
私としたことが。一秒の半分ほど、追憶に浸ってしまっていたようだ。
「まぁよく分からないけど、諦めたんならその左腕、ちょうだいなぁ~」
隙を見せてしまったか。だがそれにより肚は据わった。私は詰まってしまった鼻は諦め、大きく口を開きて呼吸を落とし込むと、外れていた左肩を色氣の力に依りて再び嵌め込む。そして、
「……」
執拗に狙ってくる鬱陶しい輩の鼻っ柱に、透き通るような白銀の色氣を込めた左拳を「見えない」ように撃ち込んでいく。驚愕の表情を呈する瞬の時間も与えずに、
「……」
忘れていた「あの時」のような、無尽蔵の奔流を思い出し、次々とふるっていく。1から48までの、あの無限にも思えた、あの力を。
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