鉄道員

味噌村 幸太郎

第1話 トンネルを抜けると


 僕の母方のおじいちゃんは、生前に国鉄、(今でいうJR)に勤めていた車掌さんです。

 詳しい業務などは、よくわからないのですが。


 鹿児島の田舎の方で、仕事をしていたそうです。

 ある時、人がひとりも通らないような山近くに配属されたそうで。

 トンネル近くの小さな建物に、一日立っていたそうです。

 ひょっとしたら、駅なのかもしれません。

 詳しく知らないので、申し訳ないですが……。


 とりあえず、じいちゃんとしては、トンネルの出口から出てきた列車の運転手と、電話か無線で連絡を取るのが仕事だったらしいです。


 ただ、待つだけの仕事だったようで、真夏で扇風機もなく、周りは田んぼだけ。

 暇だし、暑いし。

 その施設は、窓があるだけ。


 ベルが鳴ると、じいちゃんは電話に出ます。

「もしもし、おつかれさまです」

 そう言って、敬礼をします。

 相手がクスクス笑いながら、答えます。

「おつかれさま。ふふっ、今日もやってんの?」

「うん、やってるやってる」

「はははっは!」


 何が起きて、何が可笑しいのか。


 運転手の人からすると、じいちゃんは真面目な国鉄の制服を着た車掌にしか見えません。

 問題は、下半身です。

 窓から下が壁なのをいいことに……。

 じいちゃんは、ズボンを床に下ろしていたそうです。

 本人はふんどしとか言ってた気がしますが、多分、何も履いてない状態だと思います。


 

 すれ違う瞬間、お互いに敬礼こそしているものの、笑いを堪えるのに、必死だったそうで。

「はははっは、今、どうなってんの?」

「うん、脱いでる」

「本当に?」

「脱いでるよ。見えてるでしょ?」

「見えるけど、制服しか見えない」

「でしょ、完璧。涼しいよ」

「ははは! 今度、僕もするわ」

「うん、おつかれさま」


 このお仕事は、当時の車掌さんの間でかなり人気だったらしく、みんなでやりあって、真夏の業務を楽しめたそうです。


 じいちゃんが流行らせた行為のせいで、国鉄は後に民営化したのかもしれませんね……。


   了

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鉄道員 味噌村 幸太郎 @misomura-koutarou

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