一話 愛
・・・
「まゆちゃん、その痣どうしたの?」
近所のおじさん。名前は知らない。
いつも私に話しかけてくる少し汚いおじさん。
今日もまた話しかけられた。
「おじさん。これは私が階段から落ちてできた傷よ。」
「そんな傷には見えないけどねぇ。今度からは気をつけるんだよ。」
ひらひらと手を振って私を見送るおじさんに一礼してまた歩き出した。
油っぽい臭いが鼻に染み付いてなかなか取れない。
そんな不愉快極まりない朝に天使が舞い降りる。
少し癖っ毛な黒髪が揺れて柑橘系のいい匂いがした。
彼に会うのが私の至福。彼と手を繋ぐのが私の幸せ。
「おはよう。今日も機嫌が悪そうだね。」
「うん。また話しかけられたの。」
「あのおじさん?」
「そうよ。おじさんニートのくせして私に話しかけてくるの。汚いわ。」
「ははは。同感だなぁ。」
「でしょ?早く死ねばいいのにね。」
「ああいう奴に限って死なないものだよ。残酷だよね。自分の汚い体見せびらかして生きてくの。早く殺してあげればいいのに。」
「そうよね。日本にも安楽死制度が出来ればいいのにねぇ。」
「できてほしいよねぇ。」
それに合わせて笑う私。
自分でも美しいと自負するのはいけないことだろうか。
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