起動するは闘志

 私、明日あけび春華はるかは夢を見ている。想像でも再演でもない、純粋な無意識の暗黒を『私』はずっと見つめている。

 無辺の真空に浮かぶ自分だけが、ここにある物。それ以外は、無い。

 だが、その永遠の中に変化が生じた。

 火だ。

 無限の闇に対してちっぽけ過ぎる赤の揺らめきは、しかし確かにそこに在った。

 私は手では無い手を伸ばす。進まない歩みで近づく。

 火は大きくなる。闇を超えて熱が伝わってくる。それは大きいという形容では不相応な巨体となり、暗闇を飲み込むかの如く膨れ、数万キロを離れても全体が捉えられない程に莫大な存在となる。

 それは星。

 塵芥が重力の底に集積して自ら燃え上がり、荒々しく猛る焔の球となった赤色巨星。

 そして。

 それこそが、『私』の魂の――


           §


 ≪CALL:システムガラティアン -> パイロット:明日春華の意識を覚醒モードへ移行要請≫

 ≪クライアントレベル確認 -> 矢引やびき羽音はね特務少尉 -> 要請認可≫

 ≪パイロット:明日春華の意識が覚醒します≫

 明日春華は目を覚ました。

 ガラティアン内部、コックピットに詰め込まれている体の意識が呼び起こされる。だが、視覚や聴覚の信号は無い。箱の中にでも封じられたように目や耳が利かず、ただ自意識が眠りの側から現実に場所を移したことを認識した。

『――――』

 ノイズ。

 聴覚デバイスが、次いで視覚デバイスが立ち上がり、全感覚センサーが起動した。

 目にしたものは、白い屋内設備。全高5メートルに達するガラティアンの巨体を納める整備庫だ。

 その視覚野の中にモニターが浮かぶ。そこに映る人物は少女だった。亜麻色の緩く波がかった長髪を白衣の背に流す、愛らしい相貌の乙女。

 その名を呼ぶ。

『矢引、羽音』

『ええ、そうよ。わたしよ春華ちゃん』

 永久凍土も春に染まりそうな朗らかな笑顔と声がする。そして、その少女は告げた。

『春華ちゃん。戦闘おしごとの時間よ』

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