幕間の視線
戦闘終了後の基地から遥か離れた森の中、男と少年がいた。
男は双眼鏡で自軍が壊滅した戦場を観察している。デジタル式では無い、
男は隣の少年に手信号で合図した。
『あーあ、結局やられてやんの』
少年の呆れたような言葉が声ではない音で伝わる。
『
それは、歯を使うかちかちやぎりぎりという音、舌を小さく鳴らす微音を用いての暗号音信だ。
『緊急通信でも隠蔽経路を使用しろって命令していたのに。なんであの連中は勝つと思い込んでるときは驕慢で、ちょっとでも反撃されると直ぐ逃げようとするのかな。誇りがないのかな』
『言葉を慎め
『塹壕基地の兵達ならともかく、連中なんかに位置
男と
一族秘伝の潜伏技法だ。機械頼みの
『あーあ、同じ国民なのにあんな連中に支配されてるなんて、やだやだ』
男の手が、枝が揺らめく自然な動作で
この
『我ら一族の敗北と隷従は俺の
「
出してはならぬ、声を使って言った。
男、
「
炭を塗った唇を噛み切り、端整な目元を必死で皺めていた。筋肉と痛覚で涙腺を締めているのだ。涙は迷彩顔料を崩し、濡れた瞳は森の中でもよく目立ってしまう。
「済まんな。良くない言い方だった」
耳元にて最小音量の声で話す。
『帰還するぞ。充分だ』
『了解』
観測装備を収納し帰還態勢に移行する。不用意な動作で一瞬見えた二人の姿は、まだそこにいる筈なのにもう誰にも認識できない。
巨人の輝く影は離れていても目視で良く見えた。
(また会おう、守護戦士たる乙女)
背を向けて隠蔽状態を崩すことなく移動し始める。
(果たして彼女は守りきれるのだろうか)
男と少年は濃い森の影へと深く深く沈んで行った。
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