第26話 見ている
俺とミサキが思わず抱き合ってしまった後。ナオは不機嫌そうにしつつ、それでいて何処か楽しそうに何か考え込んでいる様子だった。
「先輩♪ 今日は、ありがとうございましたっ」
そう言いつつ、さようならのハグをしつつ、彼女は自分の唇を差し出して来た……振りほどこうと思えば振りほどけるけれど。意外と力が入っていて痛くしてしまいそうだったので、頬にキスをして誤魔化す様にした。
「もぅ。さっきは、口にしてくれたじゃないですか♪ マウストゥマウスで♡」
思わず、ミサキの方を見てしまうが、彼女には特に変わった様子はない。いつもの様に涼やかな笑顔でいる。まるで、さっきの事が無かったかのようだ。妹が、何を考えているのか分からないが、今抱き合って居る彼女が離してくれそうに無かったので、唇に軽くキスをした。
「それじゃ、今日はこれで帰るよ。もうすぐ夏休み入るから、デートは終業式後でいいかな?」
「えぇ。大丈夫ですよ♪ でも、毎日連絡してくださいね♡」
「あぁ、わかった。それじゃ」「それでは失礼します」
そう言いつつ、やっと南条家の玄関を出た俺たち。なんか、もう疲れたし。腹も減ってきた。だけれど、今日のナオはどこかおかしかったから、一緒に食事をと言う気持ちにはならなかった。もともと、お見舞い目的だったしな。
「兄さん、お腹減ってませんか?」
「ちょうど、そう思ってた。どうしようか?」
「それじゃ、私と食事行きます?」
そうスティーブさんが提案してくれた。今日も、俺たちを送ってくれるらしい……なんだか今日は少し贅沢したい気分だったので、家には、今日は遅くなると連絡する事にした。
「ミサキも良ければだけれど。お願いしたいです」
「わたしは、兄さんが居ればどこでも大丈夫ですよ」
「それじゃ、お二人とも乗ってください。そうですね。寿司でも行きます?」
「えぇっと。そんなに金が無いんですけど」
「行くのは、スシローですよ。まぁ、今日は私が奢りますよ。特別手当も頂きましたしね」
そう言いつつ、無駄に筋肉を盛り上げつつ、右手でお金のジェスチャーをするマッチョ。筋肉モリモリの男性がお金の話をしているのは、違和感しかない。
「あぁっ! もしかして意外だと思ってらっしゃいます? 昔、お金で苦労しましてね。それから勉強したんですよっ。ハハッ」
そう、言いつつ人差し指を頭に当てている筋肉の塊。それは、まるでどこかの漫画で見た様なポーズだった。
「それじゃ、行きましょうっ!!」
そう言いつつ俺たちを先導するスティーブさん。その背中はなんだかとっても頼もしかった。
----------------------------------------------------
そうして、いつものジープに乗ってスシローにやってきた俺たち。この店は、最近流行りのチェーン店で、来ると何故だか頼みたくなるラーメンが好きだったりする。
ただ、まずは寿司だ。注文の画面で頼んで行くことにする。
「ミサキはなにか食べたいものある?」
「兄さんと同じものがいいです。あ、でもウニは嫌いなのでそれは要らないです」
「了解。スティーブさんは?」
「お二人で、頼んでしまってください。私は私で注文しますので」
そう言われたので、俺は気になったものを適当に注文していった。ただ、高いものは選びづらいので、そこは避けてだが。
「それで、お二人はこれからどうしますか?」
「えっと? どうします? とは?」
「お嬢さんとの付き合いをですよ。今日、様子が変でしたでしょ?」
「えっと―――そうですね。今までとは違ってましたね。というか見てたんですか?」
「リビングは、防犯の為カメラあるのですよ。―――あ、さすがに部屋の中にはないです。まぁ、待機している間、様子みてたんですが、そこで気になりましてね」
み、見られてたのかっ。ミサキと抱き合ってた所をっ。思わず、妹の方を見るが、彼女は特に気にした様子はなかった。気にしてるのは俺だけなのか………。
「それで、聞きたい事としては………お二人って実の兄妹なんですか?」
「それは――――」「違います。元々は従兄妹です」
ミサキに答えられてしまった。まぁ、秘密ではないんだけれど。さすがに高校生ともなればそんな事で虐める様な奴はいないだろうし。それに何かあってもこの娘は俺が守る。そう思っている。
「そうなんですね。どうします? 私から尚文さんに伝えてお嬢さん止める様に伝える事も出来ますけれど?」
そういうスティーブさんからは、優しげだが少し威圧感を感じてしまった。
今日、晩御飯に誘って来たのはこういう意図があったのか。真面目でない交際は許さない。そういう事か? もしかして、今までの元カレもこういう圧迫面接を受けていたんだろうか………そりゃ、軽い気持ちの奴は、長続きしないわけだ。
つづく
----------------------------------------------------
あとがき
見られてた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます