探偵が異世界無双の邪魔すぎる
遠野 小路
一章:不可視邪竜の不在証明
第1話 異世界転移と言えば当然チート
「やっぱり異世界で無双するならとりあえず勇者的な能力は全部欲しいよね。攻撃魔法も回復魔法も剣技も使いたいし……あ、『無限成長』『限界突破』みたいなのも欲しいかな」
「うんうん、いいよぉ〜」
ある休日のこと。
特にやることもないので自分の部屋で寝転んでスマホをいじっていたところに突然現れたこの男は、神を名乗り、俺に異世界に行くよう頼み込んできた。
ごく普通の、なんの変哲もない高校生の俺がなんでまた、と思ったんだけど、男曰く、どうやらなんらかの才能があるとかで俺が選ばれたらしい。
トラックに轢かれなくていいのはラッキーだったね。
異世界転移と言えば当然チート。
チートくれるなら行ってもいいよ、と軽い気持ちで答えたら、神を名乗る男は二つ返事でいいよぉ、と了承。
こんなこともあろうかと、練りに練っていたチート獲得計画をいくつか挙げてみたんだけど、今のところいいねいいねとなんでも聞き入れてくれている。
「もちろん冒険者ギルドランクで言えばSクラス相当の実力で……」
「ん〜? Sクラスなんかでいいの? もっと上もいけるよ?」
あるんだ、冒険者ギルド。
お決まりのやつだからとりあえず挙げてみたけど、男はサラッと受け入れてきた。
Sの上……SSとか、SSSとかかね。EXみたいな『規格外』扱いってのもあるか。
「いや、『無限成長』があるならそんくらいでいいかな。はじめのうちはコツコツ下積みみたいなのからやってって、それで覚醒イベントが来たら更に強くなる、みたいな方が俺好みっつーか」
「いいねぇ〜覚醒イベント! それでいこう!」
神を名乗る男は満面の笑みで手を打った。
今のところ全肯定というか、俺を甘やかすようなことしか言っていない。
……なんか話がうますぎる気がする。
笑顔もどこかうさんくさく見えてきた。
「そんなことないよぉ〜。せっかく僕の世界に転移してもらうワケだし、ユートくんにはめいっぱい楽しんでもらいたいなって」
口にも出していない俺の思考を読んで、神様? は笑顔のまま答える。
こういうところは神様っぽいんだな。
あー、読心能力みたいなのもあった方がいいかな……
いや、心が読める系は笑顔の裏で酷い暴言をぶつけられてたら泣いちゃうからいらないな。
それはさておき、条件はしっかり確認しておいた方がよさそうだ。
腹黒神に騙されてハードモード、なんてのはよくある話だしね。
「一応聞くけど、その世界って入った瞬間即死するとか、化け物と不毛の荒野だけしかいない滅びの世界とか、転移先が超ヤバ魔物の巣窟だとかヤバい高難度ダンジョンの最下層からとか、そういうんじゃないよね?」
「エー、まさかあ。違うよぉ〜」
心外と言わんばかりに両手と首を振って否定する男。
疑心暗鬼になっているだけだろうか、なんかこの自称神様、あまりにユルすぎていまいち信用できないんだよな。
なんか、話が通じてないっつーか。
「あ、そうだ。さっき冒険者ギルドの話したけど、俺、剣と魔法の王道ファンタジーみたいな世界を前提みたいに話してるんだけど、あってる?」
「僕の世界はまさにそんな感じ! 剣と魔法とドラゴンの世界だよぉ」
「ドラゴンか……いいね」
竜殺しの勇者か。悪くない。
竜の血を浴びた赤いマントがトレードマーク……みたいなね! いいじゃない!
俺は自らの勇姿をぼんやり想像してみる。
ちょっと厨二っぽいかもしれないけど、そんくらいの方が気持ちいいってもんだよな。
でも、 顔が血で生臭いのは普通にイヤだから『浄化』みたいな能力も欲しいな。
風呂入んなくても洗濯しなくてもいいやつ。
そういや『鑑定』もマストだろ。
病気とか毒なんかで死ぬのもイヤだから各種耐性スキルもほしいし、精神操作とか痛覚耐性も欲しいよな。洗脳とか拷問とか困るし。
閉じ込められた時用にテレポートとかも欲しいとこだわな。
「うーん、いろいろあるねえ。いちいち付与するのはめんどくさいし、現地で欲しいスキルが目覚める『可能性の卵』っていう能力があるんだけどそれでどうかなぁ?」
「お、いいじゃない。それで頼むわ」
神のくせにめんどくさがるなよとか思ったところ、男はえへへとかいいながら頭をかいた。
オッサンがかわいい仕草をしてもなんの得もないからやめてくれよな……
「それじゃあ授けるねぇ」
あいかわらず軽いノリで男が指を振ると、キラキラとした光が天から差し込み、俺を包み込んだ。
俺の部屋なのに。
天上に穴が空いてるわけでもないのにどうなってんだ?
とか考えていたら、俺の中に力が宿ったらしい。
説明されなくてもわかる、魔力の奔流が身体を渦巻いている。
自分に宿る『力』とその使い方を俺は確信する。
これが勇者の力。可能性の卵!
半信半疑だったけど、こうして力を与えられたことで、今までのやりとりが全て本当だったということが実感できる。
うさんくさい男……もとい神様を、改めて尊敬の眼差しで見つめるも、神様は変わらぬ調子でにこにこと話を続ける。
「ご要望通り、ばっちり宿ったよぉ。それじゃあ、『向こう』に送るね」
「あ、待って。これって帰ってきたりとかでき」
一番重要なことを聞こうとしたその時、俺の身体は眩い光に包まれる。
耳が痛くなるほどの静寂と共に、視界がじわじわと歪んでいく。
「それじゃあ、楽しんでね〜」
どこまでもユルい神様の声。
まあ、いいか。
帰還用の魔法なんかも『可能性の卵』を使えば開発できるだろう。
そんなふうに楽観的なことを考えながら、俺の意識は暗転した。
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