ただしい人類誕生計画 出生主義をめぐる物語
「赤飯?」
「ありゃね、女の子が大人になった証じゃけん」
「あ、田中のお婆さんじゃなかろーもん。真莉、何で案内せんとね。お茶もってき」
「え?」
「アンタ、こないだアレだったけんね。田中さん持ってきてくれた」
「何で? いつ言ったの?」
「え?」
「いや、わからんがって言っても」
「は?」
中学の制服と一緒に思い出す。気持ちの悪い会話の記憶。
「B組の澤原、理解のヤバ先と付き合ってたんだって。それで子供孕んで退学アンド退職」
「えー、だから2人していなくなったんだ」
「澤原の兄がペラペラ喋ってんの。ヤバくない?」
「ほんとにヤバかったんだって。親父ブチ切れでタンス破壊しまくり、中のものぶち撒けてさー!」
気持ち悪い感覚。それが嫌で都会に出てきた。同級生が地元の工場とかで働いて、良いとこの子は何とかして地方公務員の職に就くことができているなか、私は勢い余ってこんなところまで来てしまった。
生活は楽しかった。都会には田舎にないものがあって、それが次々に目に写る衝撃は喜ばしいものがあった。でも……
「皆、やる気ないんですね。東京ってもんは皆一生懸命かと」
「それより、真莉。先輩の知り合いが飲み会を開くんだけど夜空いてない?」
私にもそういう大人っぽい出会いを求める気持ちがあった。それはどうしようも無い事実だ。認めよう。だけど、こんなことになるなんて全く想像できてなかったのだ。
「いや、いや、ほんとに、ね。あの時のスカウト?業者の人の契約? 騙されちゃうんだって。真莉、知らん? 騙されたらダメだよ」
「あ、車だっけ。そうじゃなければ飲みなよ、この美味い酒」
裏と表。結局のところ、田舎も都会もその本質は同じである。
「真莉、あれ飲んじゃダメ」
夜風が吹く道の中で彼女はこう言った。
「レイプ・ドラッグ。強い酒」
麻友は嗅覚が鋭いところがあった。それは単に実際的な嗅覚というところだけではなく、常識を変えた感覚というべきか、人の行動に聡いのだ。
「あー、ほんとに最悪だね。ああ言うのが嫌でこっちに来たのに、なんか意味がないなー」
「ああいうの?」
「そうだよ?」
「真莉、そっちなんだ。だから先輩の知り合い嫌そうにしてた?」
「え?」
麻友と寝た。私が嫌だったのは性別とか、妊娠とか、そういうのだった。それを踏まえて「ああいうの」と言ったのだが、それが伝わっていなかった。
酔っ払ってたこともあってか、あるいはお互いにその気質が元からあったのか、ことのほかそれはよかった。
「……よくよく考えてみたらこれは違うね、ごめんね」
「いや、気持ちよかったよ」
初めてこういうことをした。だが女同士では性別の違いも妊娠もない。案外そういうのがいいのかもしれない……。
「え?」
翌日、麻友が妊娠した。
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