雑な小説
carbon13
架空世界ゼミナール「睡眠ビジネス」
中世北ソ大諸島(ここでは大集団睡眠文化のあったナバ半島を主な舞台とする。例外的にモニ島などモニ内海の島々も"家族的集団睡眠"の代表例として取り上げることとし、それ以外の地域の集団睡眠文化は補記として述べるにとどめた)では、ソ人を中心とした生物学的民族(訳註: "生物学的民族"は日本語に該当する単語がない。北ソ語の"Qhinb"および"Khinb"の訳語としてこれを採用した)による"大集団睡眠文化が発展した。このことは、歴史学的に現代社会を語ることで外せないものである。
ナバ半島は北ソ大諸島の北部に位置し、ソ島の経済的な要地として知られてきた。これらの集団睡眠文化は、政治的な結束力を高めるためにも行われたとされている。現在の科学者の間でも調査が行われているが、いかんせん本邦では研究が少ないのも事実である。
ナバ半島ヌ沿岸域に建てられたQ'han塔は、中世集団睡眠文化様式の礼拝堂だ。当初、礼拝堂はソ人の多神教的神であるX'meを崇める礼拝堂として建てられた。元来、X'meはソ人に信仰されていたが、パーイ人の一神教的信仰がナバ半島に流入してからは有名無実化し、代わりにそこで礼拝が行われるようになった神は一神教的なパーイ信仰のそれである。この感覚はソ人以外に理解され難いと思うが、彼らにとって崇めるものと崇める場所は一致していなくてもいいものであるらしい。むしろ建物の建築様式の力点は、如何に大量の個体を収容できるかというところにある。
ここでQ'han塔を説明するために用語の整理をしておこう。
Han - 集団睡眠場。原義は"寝る場所"。そこから意味が発展して、礼拝堂やホテルを表すこともある。
Hin - 天井にかけられた棒。ソ人はこの棒に足を引っ掛け、ぶら下がるようにして眠る。Q'han塔はこの様式。三種睡眠具の1つ(残りはPinb、Se)。
Agu - 小さな窓。Hanにある採光用の特殊なもののみを指す。普通の邸宅にある窓、もしくは仕掛けのない窓はKande(パーイ語からの借用)を用いる。
Kef - "冷たい死"。ソ人は体温を維持するために寄せ集まって眠る必要がある。Hanから放逐され、集団睡眠場で眠ることができなくなった個体は、Kef'ghと呼ばれる。
Q'han塔は、中空の三角錐が3つ隣接した形を想像してもらえると文化圏外の人々にも分かりやすい。塔の内部には軽い通路が内壁にあるだけで、あとは全てHinが規則的に並べられている特殊な空間だ。ソ人が睡眠のために集まると蜂の巣を割って覗いたような不思議な気持ちに駆られる。Q'han塔の最上部は、最も身分の高いソ人の一族が眠る場所だったが、パーイ信仰の影響で後期中世文化から現代にかけてまではほとんど使われていない。伝説では、X'meを死ぬまで崇め続けた(すなわち、餓死に至るまで眠り続けた)偉大僧Ke・Fefededとその弟子たちが未だにQ'han塔の頂上で眠っているとされる。Q'han塔の利用者は、彼らのことをソ語で"暖かい死"を意味するFefからの造語で、Fef'soh"暖かく死んだ人"と呼ぶ。
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