第40話「それでも妹は『お兄ちゃんはわたしをすきになる』と言う(2)」

 璃亜は目端にうっすら涙を浮かべていた。

 縋るような、そんな表情で俺を見上げて、ゆっくりと立ち上がる。


「ど、どうしたんだ? こんなところで」


 どこから話を聞いていた?

 そんな問いは、彼女の顔を見れば無意味だと分かる。


「蓮くん…………」


 璃亜はゆっくりと立ち上がり、俺の袖を掴む。

 何かを言おうとして、何と言えばいいか分からず、璃亜は口をぱくぱくとさせている。


「璃亜、俺ちょっと用事あるから、さ」


「蓮くんは!!」


 両手で俺を掴み、叫ぶ。


「蓮くんは! やっぱり私のことが信じられませんか?」


「だから…………それは」


「…………嫌い」


「璃亜?」


「ずっと、ずぅううっと昔から!! 私のために我慢するお兄ちゃんのことが大っ嫌いだった!」


 首元を掴み、いつかのように詰め寄る。

 その時に、吐き出せなかったことを、今ぶつける。

 こんなことを言おうと思っていたわけじゃなかった、それでも、言わないままではいられない。そう言うように、苦しそうな表情を浮かべながらも、声を荒げる。


 涙を流しながら、訴えかけるように握る手の力を強める。


「誰もそんなこと望んでないだよ! 自惚れんな! 勝手に私の気持ち分かって気になって、そんなの嬉しくない!」


「なんで…………そんなこと…………」


「なんでは私のセリフです! なんで、蓮くんは何度言っても分かってくれないんですか?」


「俺だって…………わかんねえ、もう、どうすりゃいいかわかんねえよ!」


「れ、蓮くん!?」


 璃亜の手も振りほどいて、また逃げ出す。

 とにかく遠くへと走り出す。


 何だ、何なんだ。

 どうすればいい? 何が正しい?


 なんで、あいつらはそこまで俺に構うんだ。

 なんで、助けてくれようとするんだ。

 なんで、俺を気にかけてくれるんだ。


 自分で言うのもなんだが、俺はそこまでいいやつじゃない。

 今回のことだって、器用なやつならもっとうまくやったはずだ。

 璃亜にあんな顔させずに、小町先輩とも言い落としどころを見つけて。


 でも、俺にはそれができなかった。

 なぜだ…………どうすれば、どう動けば、何を頑張ればよかった。


 俺は何を間違えた?

 心配かけず、彼女たちを笑わせてあげられる方法があっただろう?


 俺は走って、走って、息が切れるその頃には、屋上に続く階段の前にいた。

 一段一段、逃避するように階段を上り、錆びれたドアノブに手をかける。

 そして、開けた先には――。


「あれ? どうしたんだ? 蓮」


 今度は、見知った親友がいた。

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