6頁~~あの日のトロイメライ~~
誰もいない公園のブランコが風に揺れてギィギィと鳴いている。昔は多くの子供で賑わっていたこの場所も、今では虚しさだけが居座っている。
あの日、共に公園を駆け回った友人たちとはすっかり疎遠になってしまった。風の噂で結婚やら海外移住やら、果てには亡くなったなど話を聞くが、それらはまるでテレビの画面に映る遠い世界の出来事のようで、自分とは無縁の他人事としか思えない。
夕日に照らされポッと橙色に浮かび上がる寂れた公園を眺めていると、いつかの亡霊たちが姿を現した。子供を乗せたブランコは前に後ろにまるで振り子のようで、順番待ちをする子供は今か今かと出番を待ちわびている。
たった一つのサッカーボールに群がる子供たちの中には、遥か遠くの思い出の中に朧げにこびりついていた見覚えのある顔がいくつかあった。あれは幼馴染。あれは近所の友人。あれは学友。その中に混じって無邪気にはしゃいでいるアレは私だろう。
あの頃はサッカー選手に憧れて、いつかはワールドカップで大活躍する事を夢想して日々駆け回っていた。それも今は遠い日の残照で、現実という空虚の中で弾けて消えてしまっている。
思えば、この公園はまるで自分自身のようだった。かつては多くの遊具があり、多くの子供が遊び、多くの夢が入り混じっていた。今の自分はどうだ? 遊びは知らず、かつての友人は去り、夢は消えた。
今の自分が不幸とは思わない。それなりの娯楽が存在する社会の中で、それなりの職に就き、それなりに人付き合いをして、それなりに生活を送っている。しかし、贅沢だと罵られるかもしれないが、それでも何かが欠けているように思えて仕方がなかった。
思い返してみれば、かつてサッカー選手になる事を諦めてからも私は様々な夢を見ていた。警察官に芸能人だったり、作家を目指したこともあればパティシエを志したこともあった。節操なしと言われても仕方がないが、それらの夢は確かに私の人生を鮮やかに彩っていた。
私が夢を見なくなったのはいつの頃だっただろうか。現実に打ちのめされたのか、理想に溺れたのか、どちらだったのかは思い出せない。とにかく夢を見ることに疲れてしまったのだろう。
亡霊たちが笑いながら私の傍を駆け抜けてどこかへ消えていく。きっと私は、過去を置いてきたのではなく、過去に置いて行かれてしまっていたのだろうか。
いつのまにか私の夢想は消え去り、公園はいつも通りの寂れた姿に戻っていた。公園を照らす夕日の明りはまるで荼毘のようだった。
私は今、生きている。呼吸をして心臓が鼓動している。
本当に私は生きているのか? 夢が消えた時、それが私の最後ではなかったのか? 今の私はかつての私の残照なのではないのか?
私は生きている証を探している。
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