第6話
杏子の職業がアナウンサーだからといって、何だか得体が知れないのだと直接的な表現をしてしまった広木は、言っておきながら少々迂闊だったと思う。確かにここだけを切り取ってみれば杏子が言うように単純そのものだ。
「たださ、職業って周囲の人間関係にも影響するじゃん?きっと僕みたいな平凡なサラリーマンでは想像できない交友関係なんだろうなって思う。一人ひとりは普通の人でもね」
「そういう話になると確かにそうかも。だけど広木くんが言うように皆接してみたら普通の人ばかりだよ」
「スポーツ選手とかさ、芸能人やアーティストなんかとも接触あるの?」
言っておいて改めて田舎者丸出しだと広木は想う。
「このあいだプロ野球チームの拠点に取材にいったよ。ここから日帰りで行けちゃう球団と言えば限られているし察しがつくかもだけど」
「そう、そういうのが当たり前な杏子さんだから、僕とかの話のスケールとかすんごい小さいんだろうなって思う。話していて先が読めるだとか、もの足りないであるとか」
「全然そんなことないよ。むしろ道端であんな風に声かけて来られてこういう風に仲良くなることないよ。それはある意味スキルだな。ついこのあいだ知り合ったようにも感じない」
「なるほど、そう思ってくれると嬉しいよ。一目置かれているように聞こえて悪いようには思わない」
「10年、20年と色々な経験を積んで何を得られているんだろう、これから楽しみだね」
「普通に給料もらいながら仕事しているだけでしょ」
話題が終息しそうになったところでふと思い出すように広木は話を戻す。
「占いがどうとか言っていなかったっけ?それがどうかしたの?」
「そうそう、今私の周りでちょっとホットな話題なの。友達が知人を伝って紹介で視てもらったようなんだけど、名前とか生年月日とかしか伝えないのにどんどん身の回りのことを言い当てて来るんだって。何か視えちゃう系の僧侶の方らしいんだけど」
「へぇー、何か視て欲しいとかあるの?そういうの行ったりする方?」
「全然そんなことはないんだけど、調度話題になったばかりだから少しは気になってて」
「なるほど」
「それでね、私の友達もつい先日視てもらいに行ったらしいの」
「ほう。どうだったって?」
「細かいことは端折るけど、イタリアのフィレンツェか鎌倉に縁がある、もしくはこれから深く関わりを持つようになるって言われたみたい」
「それは当たってそうなことなの?例えば、フィレンツェや鎌倉と言われて、そんなピンポイントで言ってくるけど確かに!みたいな縁が既にあるとか」
「いや、全然ないらしい(笑)」
「何だそれ(笑)」
「でもね、今その子が好きな人がイタリアンのシェフしている人らしくて、その人と上手くいって一緒にフィレンツェとか行っちゃうのかもねー、って話してた」
「そうこじ付けることは出来るかも知れないけれど、僕からしたら鎌倉に引っ越すとかの方が近場で信憑性があると思っちゃうな」
そもそもここは横浜で、現実的には同じ神奈川県内の鎌倉を意識し始めるほうが先だろうと思う。日本と海外を年に何度も行き来しているとかそういったスケールの生活をしているならまだしも、とも思う。
「確かにね。でね、そういう見られ方すると私はどんな風なことを言われるんだろうって少し興味があるわけ」
「それはそうかもな」
「その子の紹介って言えば視てもらえるよ」
「そうか人づてというのが必要なんだった。杏子さん先に行ってみてよ」
「一緒に行かない?」
「何で。自分が視てもらっているのを人に聞かれるの嫌でしょ(笑)」
「30分ずつとかで時間区切って」
「一時間とかそんな感じのシステムなのか」
「そうそう一時間一万円で、予約は2カ月先くらいまで埋まっているみたい」
「金額も強気だけど、そこまで言われると流石に何て言ってくれるんだろうって興味は湧いてくるな」
「そう、そういうのもあるから試しに一緒に行って、後であーだこーだって言い合える方が良いかなって思って」
「確かに。でも僕は行くなら一人だな。割とこの先のことで悩んでいたりもするから、マジな感じでその一万円に託したい」
「おお、いいねぇ!そう返してくるとは思わなかった。じゃぁその子紹介でって予約してみて。で、私にもどうだったかは教えてくれる?色んな人から感想を聞きたいし、一応仲介したということで(笑)」
「もちろん、それは当然全部共有するよ」
「こんどその子にも会わせるね」
確かにフィレンツェがどうだとか言われたその女性にも会ってみたくはあったし、このように杏子が自身の交友関係の中に迎えてくれるくらいが、広木にとっては杏子の実家に居候するよりも先ず手前のステップだと思った。
「ありがとう。その一時間一万円で視てくれる僧侶にも興味が有るけど、一番はやっぱ日頃から色んな人と交流がある杏子さんでも関心を惹かれているということがやっぱ大きいな」
「私のハードル上げないで。こうしている通り普通だから(笑)」
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