平凡以下の俺はバーチャル配信者
奈愛郎
プロローグ
第1話 10,000のその先へ
「あと10人!」
画面上のカウンターが1つづつ上がっていく。
「キタキタキタ!あと1人!!」
そしてカウンターの数字が
9,999から
10,000へ。
「いえーい!!!登録者数1万人突破しましたー!!!」
画面上のコメント欄には
『おめでとー!!』
『1万人突破ktkr』
『これからが本当の戦いだ!』
コメントの方向性はあれどみんな祝福してくれていた。
「みんなありがとなぁ!!」
俺は顔も名前も性別すら知らない、けど画面の向こうに確実にいるであろう人達にお礼をした。
バーチャル配信者
ここ数年では珍しくもなんともない。目算を携えビジネスとしてやる会社。同じ系統で集まりグループとしてやる団体。最近では手軽に始められる方法も出てきた個人。
動画投稿サイトは『
そんな俺、
「ほんとにありがとう!!あっ、『ママ』じゃん!!来てくれたんだ!!」
俺が目を向けたコメント欄には
カハル『1万人本当におめでとう!!』
このカハルというのは俺が『ママ』と呼ぶその人だ。
ママと言っても本当の母ではない。今画面上で俺の顔の動きに合わせてグリグリと動いているイラストを描いてくれた人だ。
バーチャル配信者は仮想での自分となるイラストを描いてくれた人などを『ママ』や『お母さん』と呼ぶ事が多い。
俺は本当の母親の事を『母さん』と呼ぶので、カハルさんに関しては現実と仮想を区別するという意味も込めて『ママ』と呼んでいる。ちなみに今でも『ママ』というのは少し恥ずかしい。
「ママもほんとにありがとね!!ママのお陰でここまでこれたよ。」
カハルさんは有名イラストレーターだ。数年前。俺は適当にSNSを徘徊してる時に、まだSNSでのフォロアー数が2桁しかいない頃のカハルさんのイラストに出会った。
その頃のイラストは『カッコイイ、カワイイけど人気が出るほどではない。』みたいな、所謂『普通』のイラストだった。
俺はカハルさんをフォローし『この絵師は俺が育てた。』という後方腕組師匠面したいがために、イラストが上がる度にありきたりではあるが応援コメントをするようになった。
そんな俺のくだらない考えと反するようにカハルさんのイラストは着実に評価されていき、今ではソーシャルゲームやカードゲームでも名前を見るようになり、有名イラストレーターの仲間入りをしたのだ。
カハル『私も鼻が高いよ、これからも頑張ってね!』
俺は少し目の奥がジーンと来てしまった。
カハルさんが段々有名になっていき、俺は本当にただ後ろで腕組んで見てるだけになってしまったと勝手な悲壮感に囚われていた。それでもカハルさんは応援コメントには毎回律儀に返事をしてくれていて、そんなカハルさんと何も無い平凡以下な自分を比べて嫌になる時もあった。
対等までとはいかないかもしれないけど、せめて少しでも何かで近づきたい。
そう思って色々考えた結果、俺はバーチャル配信者になり今この場で1つの節目を迎えている。
まだ全然隣に並べてはいない、でも少しは近づけたかな?
そんなことを思っていた矢先に俺は1つのコメントが目に留まり読み上げる。
『1万人を機になにか新しいことやらないの?』
これは兼ねてより俺も考えていた事だが妙案と呼べるものが思いつかなかった。
「いやぁ、俺も考えはしたんだけどさ『これだ!』ってのが思い浮かばなくてねぇ…。リスナーのみんなは何かやって欲しい事とかある?」
画面の向こうのみんなに案を出してもらうことにした。
『ASMR』
「需要がない!」
『お料理配信』
「カップ麺同時制作配信ならいいぞ。」
『ドラゴンファンタジー最新作やって』
「来週からやる予定だよ」
『雑談枠欲しい』
「いつも雑談枠みたいなもんじゃん。」
九頭リンの配信は基本的にというか9割5分くらいゲーム配信だ。人気のシリーズをやったり、インディーズのゲームを発掘したりやっているが、配信の内容自体はゲーム内の話から大体雑談に繋がってしまうことが多い。だが、このコメントを境に何故かリスナー達が謎の統率力を発揮する。
『それいいな』
『いつもゲーム関係の雑談になっちゃうけど他の事も聞いてみたい』
『クズリンの価値観好きだから雑談枠助かる』
『なんなら雑談枠と言わずにリスナーのお悩み相談とかにしたら?』
『ありだな』
『クズリンの悩み相談とか解決待ったナシじゃん』
『ドラファンの最新作はいいから俺の悩み聞いてくれ』
「ちょっと待って、なんかやる流れになってない?」
『あたりまえじゃん』
『むしろやらんの?』
「わかったわかったよ。近いうちに時間見つけて枠作るからみんな待っててくれ。」
その場のノリでみんな言ってるだけだし1回やれば落ち着くだろ。
そう思っていた時期が私にもありました。
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