ずぶりと10発目、冒険者稼業

 テントの窓に朝日が差し込んで来る。

 俺は目を覚まして伸びをした。


「【浣腸!】」

「うーん、うーん、うっ、出そう。出ちゃった」


 寝たままシュリンが卵を産み落とした。

 朝の日課だ。

 毎朝、シュリンは卵を産んでいる。


 収納袋には今まで溜めた卵が沢山ある。

 だが、大量に換金すると値段が下がる。

 何時かなんとかしたいものだ。


 シュリンが、がばりと飛び起きて、卵を見る。


「あんた、寝てる私にスキルを使ったわね」

「起こすのも可哀そうだと思ったんだ」

「もう、寝てる私にスキルを掛けるのは禁止。絶対よ」

「分かったよ。もうしない」


 マムも起きて来た。

 顔を洗って歯を磨く。

 ドラゴンに歯磨きの必要性なんてあるのか。

 聖剣もだ。


 そう言いたいが、清潔なのは良い事だ。

 止めないでおこう。


 朝飯も終わり、遺跡の内部に足を踏み入れる。

 遺跡は天井が落ちていて、半分ぐらいの壁と柱が立っているだけだ。

 進むとブーンと羽音が。


「来たぞ」


 大型犬ほどの大きさの蜂が飛んで来る。

 ビックビーだろう。

 まずは小手調べ。


「【浣腸!】」


 ビックビーが落ち、お尻から蜜を出す。

 養蜂の本を読んだ事があるから知ってるが、蜂は蜜を吸って体内に溜める。

 そして、口から吐き出して発酵させるのだ。

 お尻から出す訳ではない。


「勿体ない」


 シュリンがそう言ってビックビーを持ち上げて、瓶に蜂蜜を入れる。

 この蜂蜜を俺は食わん。

 食わんぞ。

 蜜を出し切ったビックビーの首をシュリンがもぎ取った。

 容赦がないな。

 モンスターに慈悲の心を掛けても仕方ないが。


 シュリンが瓶の外側に垂れた蜂蜜を舐める。


「汚いとは思わないのか?」

「あのね。ドラゴンはオークだって一飲みなんだから。とうぜん排泄物も一緒に食べてるわ」

「いやだって。俺は食わん。譲れない一線だ」


「【浄化】なの。これで汚くないの」


 マムが瓶に浄化スキルを掛ける。

 マムは浄化スキルが使えたのか。

 聖剣ではゴーストを斬って浄化してるし、驚きはないがな。


「いや、俺は食わん。絶対に食わん」


 そう言っているうちに俺達はビックビーの集団に囲まれた。


「【浣腸!】」


 俺はスキルを連発した。

 シュリンとマムが蜂蜜を集めて回る。

 俺は樽を出した。

 シュリンがビックビーを10匹ぐらいまとめて持ち上げで、樽の上で蜜を垂らす。


 後続が次々にやってくる。

 どうやら蜜の匂いに反応しているようだ。

 でもスキルで戦闘不能になるなら、チョロい依頼だ。


 樽が5つほど一杯になってビックビーは飛んでこなくなった。


 ドスドスと足音がして今度はオークが歩いてきた。


「【浣腸!】」


 小手調べに俺はスキルを掛けた。

 オークが垂れ流す。


「【浄化】なの。これで臭くないの」


 糞が土くれみたいな物になる。

 匂いもしない。


 シュリンが手刀でオークの首を刎ねる。


「糞を抜いたオークというのは美味いのかな」

「食ってみろよ。俺は肉以外食わんけど」


 収納袋にオークを入れて、後で肉屋に捌いてもらう事にした。


 ビックビーの零れた蜂蜜に釣られたか、一匹のスライムがやってきた。

 スライムの中には薬草が見えた。


「この薬草は貴重な奴だ。勿体ない」

「殺して抜き出せばいいと思う」

「もう半分以上が溶かされている。使い物にならないだろう」


「スキルを使うの。浄化するなの」

「スライムに溶けた薬草成分を排出させるのか。そんなに上手くいくかな」

「物は試しなの」


 俺はスライムを持ち上げて薬草が消化されるまで待った。

 そして。


「【浣腸!】」


 スライムが液体を排出する。

 瓶に入れて保管した。

 俺は舐めたりはしない。

 薬師の所に持ち込んでみよう。


 冒険者稼業というのは色々と発見がある。

 こういうのも楽しいな。

 俺は気づいた。

 一人じゃ楽しくない。

 仲間がいるから楽しいのだ。


 子供時代の俺は楽しくなかった。

 今が幸せなのだとすれば、あの時は不幸だったのだろう。

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