第4話 リアルの姿

 翌朝いつもより早く目覚めそしていつもより早く仕事へ向かった。


 早めに出社したのが功を制したのか周囲の協力もあり定時に上がり予定の1時間前には新宿に到着することができた。さてここからが問題だ。新宿区の一体どこに向かえばいいのか、建物の外なのか中なのかそれすら分からない。今までマキュアートとはリアルの話は一切してこなかったから全く検討もつかなかった。木を隠すなら森の中とは言うがこれはもはや無理ゲーではないだろうかと駅のホームで三光は頭を抱えた。豪はそれほどまでに自分を隠し知られたくないという現れなのだ。

 三光はとりあえず新宿のホーム内を一通り見ることにした。だがあまりに施設も多く人も多い。時間がきたとしても本当に見つけられないんじゃないか、そんな気さえしてきた。

「ここ…どこ…。」

 いつの間にか地下街に入り看板も見当たらず迷子なってしまった。豪との待ち合わせまであと10分もない。焦る気持ちで小走りするが自分の現在地すら分からずようやく見つけた看板に従って元居たホームへ急いだ。

「え…。」

 小走りしていた三光は慌てて足をとめた。


 その先には大画面のモニターを睨めつけるように見ている人、普通なら関わりたくないと無視するような光景だが不思議と引き寄せられるように三光はその人の裾を掴んだ。

「ま…。マキュアートさん。」

「は?」

 自分より高い身長で上から睨まれ三光は不安になるが不思議と自信があった。性別も外見も雰囲気もまるで違うし、どちらかというとマキュアートではなくバハムートよりの外見だったが不思議と分るのだ。


「私の勝ちですよ。」

「…。バハムートさん。」

 学生といってもいいくらいの若さで宇宙柄のパーカーに白いシャツ黒いスキニーのジーンズ、黒マスクまでつけてあまりに違う姿だが鞄についているキーホルダーは全力で自分がマキュアートだと伝えていた。

 服装に似合わず可愛らしい水風船とうちわに三光は笑った。マキュアートらしく無理難題だけでなくちゃんとヒントをくれていたのだ。

「さ、行きましょう!ルミネにお気に入りのお店があるんです。」

 大人しくついてくるのを確認しながら三光は何度か行ったことがある店に入った。個室のある落ち着いた雰囲気の店で店員からは不思議な組み合わせだという視線を投げかけられたが三光はそんなことは全く気にならなかった。

「まさか新宿だけで見つけられると思いませんでした。」

「見つかるとは思わなかった。」

「改めて先日のこと謝らせてください。強引すぎてごめんなさい。」

「別に。俺も急にパーティー解散してごめん。あと消えて。」

「なんのなんの、こうして会えたことですし私の念願かなって大満足です。」

「まさかバハムートがこんな美人だったとは。」

「それ、セクハラですよ?私だってマキュアートは女子高生かなにかかと思ってましたけどやっぱりリアルは違うもんですね。」

「後悔するでしょ。やっぱり会うと。」

「いいえ、マキュアートのことをもっと知れてうれしいです。それで隠していたことって何ですか?」

「俺にも心の準備とかあるんだけど…。まぁいいや、はいこれ。」

 そう出されたのは名刺だった。


 真白の名刺に鬼龍院豪と書かれた名刺だった。もちろん働いている会社名も記されているわけで見覚えのある会社名に三光は首をひねった。

「バーチャルネクスト代表って書いてあるんですけど、セカンドワールドの製作会社のあのバーチャルネクストですか?その代表の知り合いってことですか??」

「申し遅れました。バーチャルネクスト代表鬼龍院豪です。」

 沈黙が流れた。三光の頭でできる理解を超えていたのだ。セカンドワールドは実はマキュアートが作ったものということだろうかと、ようやく理解が追いついたのは豪が三光の名刺もよこせと手で合図したころだった。

「あ、私の名刺ですね!天王寺三光です。」

 ちょっとした見栄で肩書のところを手で隠しながら渡した。

「早く離して。あぁ東島商事の人だったんですね。じゃぁここまで一時間くらいかかったんじゃない?」

「よくご存じで。ってマキュアートは社長さんなんですか!?」

「うるさい、そしてリアルでは豪でいいから。そうだけど実際リモートで仕事してるから個人事業主みたいな感覚だけどね。」

「だからあんなにアバターにつぎ込めたのか…。」

「そこなんだ。」

「そこ重要です。私毎回豪さんのアバターがころころ変わるの見て豪さんは廃人クラスのゲーマーか金持ちかどちらかだって思ってたのでやっと納得出来ました。」

「まぁ両方だからね。廃人クラスのゲーマーだからこそ自分が楽しいと思えるゲームが作りたかったんだよ。」

「その割にはMT508に改名してからは全然来てなかったじゃないですか。」

「他にもアカウントあるからそっち使ってたからね。MT508はテストアカウントの一つなんだ。」

「なるほど。」

「だから久しぶりに確認したMT508にメッセージが来てて驚いた。」

「マキュアートのアカウントは消しちゃったんですか?」

「いや、凍結してるだけだよ。レベルあげきっちゃったからね。それに」

「私のせいですね。もうフレンドには戻れないんでしょうか?」

「リアルで会ってもまた戻りたいと思った?」

「思うに決まっています!私にとっても豪さんは憧れで師匠で一番好きな人なんですから」

 勢いよく答える三光を豪は唖然としながら見つめた。

 豪は今まで誰にもそんなことを言われたことはなかった。大抵の人は関わりたくなく離れていくか、反対に金目的で近寄ってくるから豪はすっかり人間不信になっていた。だが全くリアルを知らない三光が堂々と好きだと言う姿は自分の内面を見てもらえたようで、嬉しいような恥ずかしいようなくすぐったい気持ちになった。

「スマホだして。」

「え?」

「スマホでセカンドワールド開いて。」

「あ、はい!」

 スマホの待ち受けはバハムートとマキュアートのツーショットで、それをすっかり忘れて開いた三光は慌てて電源を落とし豪を見た。豪は顔を赤くしながらも早くアプリを立ち上げるように言い自分もアプリを立ち上げ手慣れた手つきで何か操作していた。


 そして三光のページに新しいフレンドが増えた。


 名前は【マキュアート】久しぶりに会うことが出来た友人の名前だった。


「宜しくバハムート。」

「よろしくお願いします。マキュアート」


 再び【Mirror】は結成した。


「あ、そういえば公式の掲示板を見つけました!」

「あぁ、あれか『バハムートを見守る会』。ようやく気付いたんだ。」

「本当知ってるなら教えてくださいよ。ビックリしたじゃないですか!!まさかあんな残念な成長記録がつけられてるなんて思いもしませんでした。」

 今はトップランカーという称号も恥ずかしくない程に成長したバハムートだがセカンドワールド配信当初【死にすぎる勇者】として有名だった。

 『バハムートを見守る会』にはその死にすぎる勇者がマキュアートとの出会いで成長していく課程が事細かに書き込まれていた。

「実は、俺がバハムートのことを知ったのもそこだった。」

「え!?もしかして掲示板を見て探したんですか?」

「あぁバグ対策に。」

「私はバグかい…。それほどまでに弱いってことですか。」

「あんなに弱いのに勇者職なんて選んだら予想外過ぎていつバグってもおかしくないからね。」


 バハムートの成長は伝説となり最弱からの最強なんていう前例をみたユーザーが自分もそうなろうと次々とセカンドワールドに挑み、今ではセカンドワールドは史上まれに見る人気商品となった。


『バハムート、結婚しませんか?』

「え!?どういうこと??」

 送られてきたメッセージに三光は慌てて目の前にいる豪を見た。

「答えは?」

「え!?今!?」

 考える時間も何の脈絡もない問いに慌てながら三光は画面を操作した。

『結婚します』


 画面の中が光で満ちてバハムートとマキュアートはその祝福の光に包まれた。

 そして光が消えていくと二人の薬指には今までなかったリングが光っていた。


「どう?」

「え?」

「こういう結婚ありだと思う?」

「え…。あ…うん思う。」

「じゃぁ、次のアップデートはこれで決定かな。」

「ん…結婚は?」

「あぁバハムートとマキュアートはこのまま結婚で良いんじゃない?フレンド登録みたいなものだし。」

「いや私と豪さん。」

 三光と豪の未来が分るのはもう少し先のことだが、バハムートとマキュアートの指輪がゲーム配信終了まで外されることはなかった。




『セカンドワールド』

それは現実で辛かった時悲しかった時そんな気持ちを忘れさせてくれる楽園

もう一人の自分がなににも縛られず何にも捕らわれずのびのびと生きることができる世界

自分らしくいられる世界

いつでも帰ってこれる場所がここにある

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セカンドワールド ~自分らしく生きられる場所 万珠沙華 @manjyusyage_

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