第22話 王太子視点3 聖女が現れたと知りました
今年の魔物討伐は大変だった。はっきり言ってこの地は昨年は騎士学校の生徒達が訓練で撫で斬りにしていてほとんど魔物がいないはずが、まずダンジョンに行くまでにたくさんの魔物を退治せねばならなかったのだ。
「昨年は騎士学校のやつらはいい加減にやったのか」
「今年騎士になった奴らに聞いたらそんなことはないと言っていたぞ。もっとも去年も騎士たちも苦戦したみたいだけど」
俺の側近で同じクラスのマイケル・ガム伯爵家令息が答えた。
「じゃあ、大変すぎてまだ大分残っていたということか」
「そうじゃないかな」
「この調子だと中も結構大変じゃないか。ちょっと気合い入れて行こうぜ」
「そうだな。まず、強い奴ら中心に中を探ってみるか」
まあでも、ダンジョンの中はそれほどでもなかった。
「おい、パーシヴァル、この足跡はサラマンダーじゃないか」
焦げ跡がついた足跡がある。
「げっ、あれを退治するのは結構骨だぞ」
「とりあえずは、一旦引くか」
「そうだな」
でも、そこで引き返したのが、失敗だった。
どういうルートを取ったのか知らないが、サラマンダーは翌日地上に現れて、1年生に襲いかかったのだ。
俺は翌日の夕方にその報告を受けた。
なんでも、サラマンダーは1年生が片付けたのだと言う。
今年の1年生は優秀なやつが多いらしい。
それよりも傷ついたミッキーを聖女には到底なれないだろうと思っていたモモンガが、治療魔法で治したと聞いて驚いた。
「本当なのか?」
俺は信じられなかった。
「どうやら事実らしいぞ。全身やけどで半死半生のミッキーをヒールで治したんだそうだ」
マイケルの答えになんかもう一つピンとこないのだが。
あの魔力量で治せたというのか?
「なんか火事場の馬鹿力みたいな感じでヒールできたそうだ」
「ふうん」
関係者から事情を聞くとそのような感じだった。
妹もその現場にいたそうなので、金曜日の夕方に状況を確認するために寄ると、あの眼鏡チャンと一緒にいた。
彼女は相変わらずに静かなのだが、俺に恥ずかしがっているそうだ。
昔助けた記憶にもなかった女の子で、俺はどうとも思わないのだが、俺に惚れているらしい。彼女の心の声を聞くと大変愉快そうな子だとは思うが、まあそれだけだ。
モモンガさんいや、モーガン嬢が、ヒールするのを見たのかと妹に聞くと
「見たわよね。エレ」
とその眼鏡っ娘に聞いた。
眼鏡っ娘はこくこく頷いていた。
やっぱり火事場の馬鹿力的なものなんだろうか。不思議がっている俺をメガネちゃんはぼうっと見ていた。
その食事の後妹と二人きりになった時に、メガネちゃんをこの屋敷につれてきてどうするつもりだと聞くと妹は
「側近にするに決まっているでしょ」
妹にあっさりと言われてしまった。
「でも、平民の女の子だぞ。何かと大変なんじゃないか」
俺があの物静かで人見知りのメガネちゃんが王宮で生きていけるとは思えなかった。妹の足を引っ張るだけなんじゃないかと心配して言うと。
「あの子の魔力量は絶大よ。サラマンダーの炎をあっさりと消してトカゲにしちゃったんだから」
「そらあそうだが、護衛の魔導師にするつもりか」
「まあ、下手な騎士よりは戦力になるし、それに王妃様に呼ばれたら連れて行くわ」
「えっ、母上にか」
あの子が到底母の前で無事にいられるとは思ってもいなかったが。
「お兄様も馬鹿ね。エレはあの魔法聖女エりの大ファンなのよ。王妃様も誰一人ファンがいない中で、あの子はただ一人のファンなのよ。絶対に大切にしてくれること間違いなしよ。それに側においておくだけで、絶対に退屈しないから」
「まあ、エリのファンなら、まだましだとは思うが、でもそんなの近づけたらまた続編作るんじゃないか」
「何言っているのよ。ファンがいなくても作っているんだから一緒よ。それならファンがいるほうがましでしょ」
マリアンが言うが、それはまだ母のことをよく知らないだけではないかと言う気がするが。
「そうかな、かえって暴走しそうな気がするけど・・・・」
「まあ、良いわ。でも、エレはお兄様が欲しいって言ってもあげないからね」
「いや、別に欲しいとは思わないぞ。面白いやつだとは思うけど、それだけかな」
「本当に興味ないのね。エレはお兄様のことが大好きなのに」
「俺の横に立つのはあの子では難しいだろう。あの眼鏡じゃな」
俺はあの子に手を出すつもりなんてこれっぽっちもなかった。俺の心の中は昔助けてくれたミニ聖女だけだった。こんな眼鏡っ娘がそこに入る余地なんて無い。
「その言葉、きちんと覚えておいてよ。後で何か言っても絶対に譲らないからね」
俺はほしいとも言っていないメガネちゃんのことを、やたら妹が絡んでくる意味が判らなかった。
「判った。後悔することはないと思うぞ」
俺は後でこの言葉を言ったことをとても後悔するのだ。本当に馬鹿だった。
「まあ良いわ。それよりも、モモンガさんでも聖魔術が使えるなら、エレも使えるかもしれないから、大魔術師のレイモンド様のところで練習させてもらっても良い?」
マリアンが頼んできた。
「まあ、それは、癒やしの魔術師は多いほうが良いからな。話は通しておくよ」
「ありがとうお兄様」
なんか妹の笑みに不吉なものを見たんだが。
俺は後でエレのことをもっと真面目に考えなかったことを嫌ほど後悔させられることになるなんて、この時は思ってもいなかったのだ。
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