第7話 魔力適性で私は聖魔術ではなくて、無理やり水魔術に誤魔化せました
その日の最後の授業は一年生が全員講堂に集められた。
魔力測定の時間だった。
ここで魔力適正と魔力量を測られるのだ。
私が一番恐れていた時間だった。
その学園に魔力測定があるなんて入学するまでは聞いていなかった。
魔王に見つかったら何をされるか判らない。ここは、なんとしても目立たないようにしないと。聖魔力適性なんて出た日にはあっという間に聖女に祭り上げられて、魔王退治に向かわされて、魔王に捕まっていびり殺されるのが落ちだ。
まあ、この眼鏡で阻害しているから、ばれないと思うけど。
それにこの学年には聖女候補の平民の子がいる。今は男爵家に養子にもらわれて男爵令嬢になっているのだが。確か名前はルイ・モモンガとか。
「ルイーズ・モーガンよ。そもそもモモンガって、動物じゃない」
またマリアンに注意された。
「えええ、また声に出ていた?」
私は真っ赤になった。
「本当にエレは最高だな」
笑ってピーターが言う。
そのモモンガ、いやモーガンさんは頭がピンクだ。いや髪の色が。まあ、頭の中身もピンクかもしれないけれど。だって今も遠目から見ると周りに数人の男の子を従えて?話していた。
ピンクだから目立つのか、まだ学園が始まってから1週間も経っていないのに男の子とよくつるんでいるのが見受けられた。
決して、自分が地味眼鏡で男共に相手にされないから、妬んでいるんじゃない・・・・
魔力測定の方法は中央に置かれている水晶に手をかざすのだ。
そうしたら水晶が光るのでその時の色と光の大きさで適正と魔力量を測るのだ。
火は赤、水は水色、土は茶色。風は青。聖魔力は金色だ。
治療系も一応聖魔力になる。私はせめて小さい聖魔力になればいいなと思っていた。
この眼鏡で阻害されて抑えられるはずだ。間違っても皆が驚くような金色になってほしくはない。
「気にしなくても、聖魔力なんて出ないわよ。何気にしているの。この子。聖女様じゃないんだから」
前のローズが言ってきた。
「そうよね」
慌てて私は頷いた。また、心の声が出ていたのだ。白い目のマリアンと笑っているピーターがいた。
ダメダメここは目立ってはいけないわ。
私は気を入れ直した。
Aクラスから皆順番に手を翳していく。お貴族様だって魔力が大きいとは限らないみたいだ。
「あっ、王太子殿下よ」
「本当だ」
声が上がる。私もそちらの方を見る。そこには麗しの王太子殿下がいらっしゃった。
やはり聖女候補が気になるのだろうか。結構上級生も見に来ているみたいだった。
私はぼうっと殿下を見ていた。何回見ても素敵な方だ。
「何でエレは王太子殿下押しなの? いつも貴族なんて目じゃないみたいな発言しているのに」
マリアンが聞いてきた。
「そんな事、お貴族様のあなたの前で言ってないでしょ」
私が否定するが、
「いやいや、いつも言ってるよ。今も侯爵令嬢が手を翳してちょっとしか光らなかったら貴族でも大したことないんだって言ってたし」
「えっ、嘘、また心の声が聞こえたの」
「違う。お前が話したんだ」
ピーターに否定される。
「で」
マリアンが促す。
「うーん、昔、王太子殿下に男に絡まれているところを助けていただいたの。そのお姿が凛々しくて」
私が夢見るように言った。
「えっ、まじで」
「凄いわね。どこで」
「祖母が死んだ時に、少し借金が残っていて、私そのかたに売られそうになったの」
「えっ、王国では人身売買は禁止よ」
きっとした顔でマリアンが言った。
「そうなのよ。たまたま傍を通りかかった殿下が男たちを捕まえていただいたの」
「本当に! あなた凄いじゃない。殿下にお助けいただくなんて」
今まで馬鹿にしていたローズたちも思わず私を見た。
「そうでしょ。その時の殿下がとても格好良かったのよ」
私は今もその姿をたまに夢で見るのだ。本当にあの時は人生終わったと思った。
私の家に男たちが押し入って私をホロのついた荷馬車に放り込もうとしたのだ。
その時だ。
「待て、お前ら何をしている」
凛々しい男の人が止めに入ってくれたのだ。
「何だと。お前には関係ないだろう」
そう言って抵抗する男たちを次々に男の人はやっつけてくれたのだ。
後で聞いたのだが、それが王太子殿下だった。
今までは王子、あっそとほとんど興味のなかった私だが、絶体絶命のピンチに颯爽と現れて助けてもらって、考えが180度変わったのだ。ついでに吊り橋効果があったのかもしれないが、胸がキュンとしてしまって、それ以来私の心のなかには王太子殿下がいた。学園で王太子殿下をお見かけする度に遠くから熱い視線を送るしかできないが・・・・。
「じゃあ殿下と言葉を交わせたの?」
「ううん、おつきの方が『大丈夫か?』とか声かけてくれて、後は騎士の方々が来て色々聞かれたけど、殿下とは言葉は交わせなかったわ」
「そうなんだ」
残念そうにローズが言った。
後で調べてもらったらおばあちゃんは借金なんかしていなくて、完全な冤罪と言うか言いがかりだった。
メガネっ娘で冴えない私なんて娼館に売ってもどうしよもなかったと思うのだけど。男共としては私の家の権利が欲しかったらしい。あんな下町の家何故欲しかったんだろう。未だに良く判らない事件だった。
「そこ、少し静かにして」
騒いでいる私達を見てクラス担任のツルピカが注意してきた。この先生は歴史の先生で頭が完全ハゲなのだ。私が自覚しない間に心の声が漏れたみたいで、いつの間にかツルピカ先生と皆に陰で呼ばれることになるなんて私は思いもしなかった。
私達は肩をすくめた。
その間も次々に生徒たちが水晶に手を翳していく。
たまに光が大きくなって皆がどよめくがそれだけだ。
学園に来たからもっと凄いやつがいるかと思ったのに、みんなそんなに大したことない。期待はずれだ。
私がそう思ったときだ。呆れた顔のマリアンと他の面々の白い目があった。
「えっ、また心の声が漏れていた?」
「あんたわざとやっていない?」
マリアンが白い目で言ってくる。私は首を振った。そんな訳ないじゃない。本当に気をつけないと自分の正体がバレてしまう。
私は口にチャックをした。
「あっ、あの子よ」
「聖女候補の」
モモンガさんの番だ。
かわいそうにこの子は私がきちんと名前覚えていないおかげで聖女候補のモモンガと我がクラスでは有名になった。ごめんなさい・・・・
男たちに囲まれていたモモンガさんは、男たちから離れてゆっくりと水晶に近づく。そして、恐る恐る手を翳した。私はメチャクチャ水晶が光るのを期待した。そうなれば私も目立たない。
でも、水晶は少し光っただけだった。
なにこれ、めっちゃちゃち。
私はがっかりした。
「おおおお」
「金だ。やっぱり聖女だったんだ」
「ルイーズ、凄いじゃないか」
「やったなルイーズ」
「ありがとう皆」
モモンガさんは皆に囲まれて喜んでいた。
まあ、皆は水晶が金色に光ったので騒いでいたが・・・・・
「エレ」
「えっ、心の声また漏れていた?」
変だ。今度は口にチャックしていたのに。
「あんたの態度見ていたら、馬鹿にしたのすぐに判ったわよ」
「馬鹿にはしていないわよ。聖女にしては少し小さいなと思っただけよ」
「ほら思っているじゃない」
私はそんなにわかりやすい表情をしたんだろうか。周りが私の声を聞いて白い目で見てくるやつがちらほらいた。でも、こんなだったら私が少しでも聖魔術属性したら凄いことになるではないか。普通にやったらこんな光じゃないはずだし、このメガネで阻害してももっと光る気がする。
モモンガさんのことは大半の生徒は歓迎ムードだった。
聖魔法適正はめったに出ないのだ。
癒やしの力だけでもとても重宝さるのだ。
でも、こんなんじゃ、私のほうが聖魔法適正が大きかったらどうしてくれるのよ。
私はショックのあまり唖然としていた。
やっと我がクラスの番が来た。
王太子殿下はもう帰っただろうかと顔を上げて見ると、まだ熱心に見ていらっしゃった。
さすがあの王太子殿下。下々のことをよく気にしていらっしゃる。
私は嬉しくなった。
いやいやだめだ。絶対に殿下の前でいい格好つけようとしてはいけない。
そんな事したら今までの努力が水の泡だ。
本来ならば学園にも来たくなかったのだが、将来の手に職をつけるために止むを得ず来たのだ。まあ、ここはなんとしても誤魔化さねば。
マリアンが手をかざす。水色の結構大きな光が光った。
「凄いマリアン。めちゃくちゃ大きな水色じゃない」
私は喜んで言った。
「ありがとう」
でも、マリアンはそんなに喜んではいないようだ。
男爵家の中ではピカイチ、学園でも10指に入ると思われたのに。
なにかもっと別な期待があったのだろうか。
ついに私の番になった。
もうやけだ。
私はベッキーみたいに水適性が出て欲しいと祈ることにした。
「水色」
大きな声で言ってしまったのだ。
そうしたら水晶は水色にに光ってくれた。
良かった誤魔化せた。
でも、大きさがベッキーとおんなじだった。
「おおおお」
という声が響いた。
もっと小さい大きさにしたかったけど、仕方がない。
これで誤魔化せただろう。
王太子殿下のいらっしゃったところを見たらもう王太子殿下はいらっしゃらなかった。
なんだ・・・・せっかくだったら見てほしかった・・・・
まあ、私が聖魔法適正ではなくてよかったけど・・・・
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