第18話 決着は
剣を構え直し、目を閉じて軽く息を吸い、息を吐き出す。
そして、軽くニヤリと口を動かし……アイオンは目を開けた。
アイオンはまだまだ余裕がありそうだ。
こっちはリーフは魔力が枯渇気味だが、まだダメージを受けておらず、俺はまだ魔力も残ってるし、体力もリーフと同様で満タンだ。
だが、アイオンが手加減しており、油断していた際に放った魔法の連打でも3分の1しか削れなかった。
今のアイオンはやる気満々といった感じで、もうさっきのように油断しておらず、魔法を当てるのも難しいだろう。
(どうするか……。)
アイオンに魔法を当てる方法をほんの数秒だけ考えていると……
「消えたっ!?」
隣にいたリーフが驚きの声をあげた。
俺もリーフがなぜ声をあげたのか、その理由に気づく。
目の前にいたアイオンが一瞬で消えたのだ。
「ッ!?」
アイオンがどこにいったか探そうと、周りを見ようとした直前に、アイオンが剣を振り被りながら目の前に現れ、
「『フルスイング』!」
俺に魔力を纏った剣の腹が直撃し、15m以上吹っ飛ばされる。
「うわっ!」
この空間のお陰で痛みはないが、急に衝撃が走ったのと、ぐるぐると回る視界に驚き、思わず声をあげる。
俺の目の前に体力ゲージが映り、今の一撃だけで、俺の体力が半分近く削られているのが、確認できた。
アイオンが消えた時から俺がアイオンを探すために周りを見るのに、2秒もかかってないのに一瞬で距離を詰めてきた。
「ユウキさん!?」
リーフが、こっちに駆け寄ろうとするが、リーフの目の前にはアイオンがいる。
「よそ見はダメだぞ。
よっと、これは避けられるか?『ダッシュストライク』!」
アイオンが笑いながらリーフに語りかけ、一瞬でまたさっきまでいた場所へと戻り、剣の先を前に突き出し、加速しながら20mほど離れているリーフへと突っ込んでくる。
2人の距離と、アイオンの加速具合からしてリーフでは、詠唱省略(小)がないため、防御魔法は間に合わない。
俺がリーフに防御魔法を使おうとしても、リーフとの距離が15m以上あり、今俺の使える防御魔法ではそんなに射程の長い距離を使える魔法はない。
元々初級の防御魔法は自分を守るためにある魔法だ。自分の目の前や自分の周りに放つのが普通。
故に、射程が短く、最大でも10m程先までしか発動することが出来ない。
中級魔法以上ならリーフの元まで届くと思うが、ないものねだりをしても仕方がない。
「なら、〈痺れの荒縄よ〉!」
咄嗟に『エレキバインド』を放つ。
「捕まるかっ!『ボディエンハンス』!」
しかし、いち早く『エレキバインド』に気づいたアイオンは、恐らく『パワーライズ』のような肉体を強化する戦技を使用し、走りながら右足のつま先で地面を強く蹴り、空中でくるりと一回転しながら後ろへとバックし、華麗に『エレキバインド』を回避する。
「なっ……、っ!〈小さな火球よ〉!」
予想外の回避方法にあっけに取られ、着地したところを狙おうとするも、一瞬判断が遅れ、俺が放った『ファイア』もワンテンポ遅れてアイオンの元に飛来する。
アイオンはニヤリと笑い、回避の動作に移行する……その直前に、
「〈……眩ませよ〉!」
「ぐっ!?」
リーフが光を放つ初級光属性魔法魔法、『フラッシュアウト』を放ったのか、後ろが急に光に包まれる。俺は後ろを見ていなかったからなんともないが、アイオンは俺を見ていた。つまり、光をまともに見てしまい、目を抑えている。
そして、回避が出来ずに『ファイア』がまともに直撃し、僅かにアイオンの体力が削られる。
「チャンスです、ユウキさん!」
光でまだ状況を把握出来ておらず、『ファイア』を受けて体制を崩している今なら、回避もされずに魔法を撃ち込めそうだ。
「〈小さな火球よ〉!」
今度はデュアルアクションも使用し、『ファイア』をアイオンに向かって放つ。その直後に体に倦怠感が重くのしかかる。
「くそっ!」
倦怠感に耐えながら、アイオンの方を見る。
アイオンは、目を抑えながらも、『ファイア』の飛来する音が聞こえたのか、大剣を片手で振って、1発目の『ファイア』を弾き飛ばす。
しかし、片手で大剣を振っているため、大剣の重さで、1発目の『ファイア』の後、デュアルアクションによる、もう1発の『ファイア』までは弾くことは叶わなかったようで左肩に被弾する。……が、衝撃に備えていたのか、踏ん張っていたため、吹き飛ばない。
「やるなっ!『ダッシュストライク』!」
視力が回復したのか、『ファイア』が直撃した左肩の動きを確かめながら、被弾を抑えるために体を前に傾け、剣を槍のように持ち、加速しながら距離をつめてくる。
『ダッシュストライク』の……いや、さっきアイオンが使った『フルスイング』という戦技も、事前情報がなく、効果が分からない。
しかし、この練習試合を通して大体どんな効果か予想はできる。『フルスイング』は、攻撃してきた時に気づいた。多分、剣に魔力を武器に纏わせる戦技、『ダッシュストライク』という戦技はまだ食らっていないが、ダッシュと名前がついてるから走っている時になにかしらの効果がある戦技なのだろう。
「危なっ!」
アイオンが加速して突進してくるのを、重い体を必死によじって、なんとか躱す。
後ろにいたリーフも同じように躱し、『マジックショット』を発動させるが、アイオンはくるりと大剣を振りながら振り向いて容易く『マジックショット』を切り伏せた。
「うっ、もう魔力が……。」
魔力が完全にきれたようで、リーフはその場に膝をついた。
俺もさっきから魔法を連発したせいで、ほとんど魔力が残っていない。デュアルアクションで手数を増やしたはいいものの、そのせいで魔力を使いすぎた。
「……終わりですね、2人とももう魔力がありません。」
ずっと、この試合を見ていたキャサリンが俺とリーフの様子を見て口を開いた。
「そのようだな。2人とも降参するか?」
アイオンは構えを解きながら、俺たちを見る。
「……ユウキさん、今回はここまでにしましょう。
もう私は魔力がもうからっぽで、そしてあなたも魔力がつきかけています。これ以上は戦えません。」
どこか申し訳なさそうに……そして僅かに悔しさを含ませた口調でリーフはそう言った。
「分かった、降参だ。」
悔しいが、こんな状態ではまともに戦えない。攻撃を回避するのもやっとという状態でさらに魔力を使うとなるとなおさら勝機は低くなる。ここは、素直に降参すべきだ。
『ユウキ・ツカモト、リーフ・クレインの降伏宣言により、アイオン・ラグナの勝利となります。』
俺が降参と言うと、さきほどの機械音的な音声がアイオンの勝利を宣言し、部屋全体が一瞬明るく光る。
「お、おお?」
思わず目を閉じ、光が収まったあとに目を開くと、さっきまで魔法や戦技によってボロボロになっていた床や壁がきれいに元通りになっていた。
それに、
「体が軽い。魔力が戻ってる?」
リーフが、自身の体を軽く動かしながら首を捻った。
俺も同じく、さっきまでの倦怠感はきれいさっぱりなくなっていた。
「こうやって、練習試合が終わると、この練習試合で壊れた部分や、消費した体力や魔力が回復するようになっているんだ。それにしてもお前達やっぱり強いな。2人のコンビネーションもかなりよかったぞ。」
「手加減しているとはいえ、アイオンをここまで追い込むとは……これなら、ヒューデット相手でもなんとかなるでしょう。」
ベンチに腰かけていたキャサリンが拍手しながらこちらに来る。
「本当ですか!」
キャサリンの言葉にリーフは目を輝かせる。
「えぇ……ですが、今の試合を見て、冒険者の先輩としてアドバイスできるところもいくつか見つけました。
それの改善と、あとはいくつか中級魔法を教えましょう。
そこまでやったら今回は解散とします。」
「やっぱり改善点はあるよな。」
試合をしているときに、俺もいくつか気になることがいくつかあった。
頼れる先輩に色々と教えてもらうことにしよう。
今回使用した戦技
ボディエンハンス 初級戦技
戦技制御力 F-
消費魔力量 E-
戦技発動速度 D
効果時間 E-
体に魔力を纏わせて身体能力を向上させる戦技。
ウェポンズブーストの肉体強化版。
フルスイング 中級戦技
戦技攻撃力 D-
戦技制御力 E+
消費魔力量 E
戦技発動速度 D
説明
武器に魔力を纏わせながら、殴り付ける戦技。
ウェポンズブーストと似ているが、相手を軽くノックバックさせる効果を持つ。
ダッシュストライク 中級戦技
戦技攻撃力 D
戦技制御力 D-
消費魔力量 D--
戦技発動速度 D-
説明
ダッシュ時に、徐々に加速する戦技。
ダッシュする距離が長いほど、加速していき、対象に体当たりすると、ノックバックさせ、加速するほどノックバックする距離が長くなる。
また、剣や、槍の先を前に突きだし、『ダッシュストライク』を発動させることで、相手を突き刺しながら、ノックバックさせ、後ろに吹き飛ばすこともできる。
フラッシュアウト 初級光属性魔法
魔法制御力 G
消費魔力量 G+
魔法発動速度 F−
詠唱
眩しき光よ・その視界・眩ませよ
説明
魔力を光へと変換させ、一気に光を放つ魔法。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます