第10話 装備と宿屋
「ここが道具屋?」
冒険者ギルドから約10分。剣と盾が交差したイラストがデカデカと描いてある建物に着いた。
「道具屋というか、装備屋さんですね。装備を主に売っているので。まぁ、冒険者ギルドよりも道具もたくさんの種類売ってますけどね。」
リーフと一緒に店内へと入っていく。
「らっしゃーい。」
新聞を見ながらカウンターに座っている50を超えたくらいのムキムキのおっちゃんが気だるげそうに言う。
「どうも。」
一応声をかけるがあまり俺達に興味ないようでこちらを見向きもしない。まあいいや、と思いつつ当たりを見渡す。
剣や盾はもちろん、槍や弓、小さな短剣に身を守るための防具など、冒険者に必要な様々な装備が壁に飾られたり、立て掛けられたりしていた。主に鉄製の装備が目立つ。
しかし、一際目立つ剣がカウンターの奥の壁に掛けてあった。
「なにあの剣……。あれだけなんかオーラが違う気がするんだけど。」
俺の呟きを聞いた店主のおっさんの目がキラリと光る。
「おめぇ、オリハルコン知らねえのか!?
最高の魔力伝導度を持つ最強の鉱石だぞ!?滅多にお目にかかれねぇ貴重なもんでオリハルコンのために冒険者どもが必死に金貯めて狙ってるんだぜ!
はぁ、これだから初心者は……。」
とんでもなく、早口でまくしたてられ唖然とする。
「……なんか怒られたんだけど。」
小声で隣にいるリーフに愚痴る。
「あはは、このお店の店主はやたら装備に詳しくて、生半可な知識で行くとこんな風になるとか。
ちなみにあのオリハルコンの剣は500万ギルくらいするんだとか。」
先に行って欲しかった、と呟くがまぁ別に悪い人ではないんだろうし、初心者におすすめの装備を聞いてみることにする。
それにしてもオリハルコンってやっぱり高いんだな。俺の中でのオリハルコンのイメージもめっちゃ強いけど、高価って感じのイメージだ。
「なぁ、冒険者になったばかりなんだが、おすすめの装備とか聞いてもいいか?」
「……まぁいい。
んで、あんたは戦士か?魔法使いか?」
「魔法使いだ。」
「んじゃ、メインは魔法だろ?魔力が無くなった時のサブ武器として小さくて邪魔にならないこういう短剣がおすすめだな。」
壁から刃渡り20cmほどの短剣を外し、俺に渡してくる。
「鉄製で、強度はそこそこある。どうせ、魔力を使い切った後に使うんだろうから低い魔力伝導度も気にならんだろうよ。」
「さっきから言っている魔力伝導度って言うのはなんだ?」
「ぇ」
「……ビギナーにも限度があるだろ。」
隣にいたリーフから微かにだが驚きの声、そしておっさんは頭を抱えていた。
「魔力伝導度って言うのは、鉄やオリハルコンなどの鉱石で作られた武器に魔力を通した際、どのくらい魔力を込められるかを10段階評価したものです。
例えば一般的な鉄だと2〜3、中級者、上級者の冒険者がたまに使われているミスリルだと6〜8、そしてあの剣に使われているオリハルコンだと9〜10、つまり込めた魔力全てをほぼ無駄なく武器に込めることが出来るんです。ただたんに斬るだけなのと、魔力を込めて斬るのだとかなり切れ味に差が出るので、この魔力伝導度って言うのはかなり大事な項目です。」
「嬢ちゃんの言う通りだ。
んで、この鉄の短剣の魔力伝導度は2だ。でも、さっきも言った通り魔法使いは基本的に魔法を使って戦うだろ?こいつを使う時は魔力がほとんど無くなった時か、魔力を節約したい時だ。だから、魔力伝導度はあまり必要じゃない。
どっちかというと耐久性が重要だな。いざって時に頼れる武器が壊れましたーってんじゃシャレになんねぇだろ。」
確かに言われてみればそうだな、と納得する。
「あと、防具も欲しいんだが何かないか?」
「魔法使いだから、鎧とかだとすぐバテるだろ……?これとかどうだ。」
おっさんが取り出したのは灰色の毛皮で作られたような薄い上着っぽいなにかだった。
「Cランクのグレイトウルフの毛皮で作られた防具だ。こいつなら、軽いし動きやすい。それに物理的な衝撃を軽減してくれる。値段はちょっと高いがな。16万ギルだ。」
高いがあまり効果のない防具を買うよりも、ちゃんと効果のある防具を買った方がいいと思い、購入を決意する。
「色はどうする?染色しているやつもあるから好きに選べ。」
ばーっと、たくさんの色で染色されたグレイトウルフの防具を並べる。
「ん、じゃあ紫で。」
「はいよー、あとなんか欲しいもんとかあるか?」
「ユウキさん、道具見たいって言ってましたよね。」
「そうだったな、なんか便利な道具とかあるか?」
「そうだな、まずポーションと、魔石は鉄板だな。初級ポーションは軽い怪我なら治せる。中級だと、もっと回復量が増える。魔石は人によって回復量が違うな。まぁ、魔力量が多ければ多いほど初級魔石は不要になる。Dを越えていれば中級魔石のほうがおすすめだな。
初級と中級があるがどうする?
両方とも初級は3000ギル、中級は8000ギルだ。」
「初級ポーションを2本、中級ポーションを1本くれ。魔石は初級魔石を2個と中級魔石を4個だ。」
魔力量はDを越えているが、少ししか魔力が減ってなくて魔力を回復したい時用に、一応買っておく。
「太っ腹だなぁ、あとこいつはどうだ?」
たくさん購入する俺を見て上機嫌になったおっさんが右と左に5個づつ小さな小物を入れることが出来そうなポケットのあるベルトのようなものを取り出す。
「このポケットの中にポーションと魔石を入れることができるんだ。結構便利だと思うぞ。」
「じゃあ、それも貰おうかな。」
「よし分かった、短剣が3万ギル、グレイトウルフの防具が16万ギル、ポーションで1万4000ギルに、魔石で3万8000ギル、最後にベルトで2万ギル……合計26万2000ギルだな。懐事情は大丈夫か?」
心配そうにこちらを見るおっさんだが、心配はない。
これを払っても、べシールに貰ったお金がまだ残る。
「大丈夫だ。ほい、お金。」
麻袋から紫硬貨を3枚取り出す。
「30万ギルのお預かりでお釣りの3万8000ギルをどうぞっと。短剣に鞘をつけとくぜ。ベルトにつけれるから、後でつけときなよ。」
まとめて袋に入れて手渡ししてくる。
「あぁ、ありがとなおっさん。欲しいものがあったらまた来るよ。」
「そいつは嬉しいね、どうぞご贔屓にってな。待ってるぜ。」
わざとらしく手を振るおっさん。それを見てなんだからおかしくなって笑ってしまった。
「リーフ、こいつを返すよ。ついでに感謝の気持ちとして初級ポーションも。」
店から出た俺は袋の中身を漁り、中級魔石とついでに初級ポーションを渡す。
「え、別に返さなくても大丈夫ですよ?」
「いやいや、俺の気が晴れないから貰ってくれ。」
「う、わ、わかりました。ありがとうございます。初級ポーションもどうも。」
魔石とポーションをどこか嬉しそうにポケットに入れるリーフ。
ちなみにポーションは親指程度の大きさの円柱型のガラスに入っている。初級が黄色で、中級は紫色だ。
「あと、どこか寄りたいところはありますか?」
外はもう夕日が出ており日没までもうすぐという所だ。
「服を買おうと思ってるんだけど、もう時間が遅いからなぁ。」
「そこの服屋さんならもう少し空いてますよ。そこの服屋さんの服はシンプルなものが多いですけど、着心地いいんですよね。」
「じゃあ、そこの服屋に行ったあとに宿に向かうか。」
向かいにあった服屋をおすすめするリーフに連れられ、入店した。
「あんまり、色のバリエーションはなかったけど確かに着心地いいな。」
10分もしないうちに服屋から出る。
服はリーフの言っていた通り、シンプルな服が多く、灰色と黒のシャツとズボンを2着ずつ買った。1着上と下セットで2000ギルとかなり安かったため少し買いすぎてしまった気もするが、まあいいだろう。灰色はパジャマ、黒は外用と使い分けることにしよう。
今日で35万5000ギルも使って、宿代もこれから飛んでいく訳だが、必要出費だ。仕方ない。
「宿屋はここから5分ほどで着きますよ。
1日朝と夜の食事付きで5000ギルですけどお金足りますか?
さっきからたくさんお金使ってますけど……。」
「まだ大丈夫だ。そのくらいならあと数日は持つ。」
明日からクエストを受けるから金銭面はまだ少し余裕があるだろう。クエストをクリア出来ればだが。
「ユウキさんってお金持ちなんですね。さっきからたくさんお金使っているのに、それでもまだ余裕があるなんて。」
「いや、別にお金持ちって訳じゃないぞ?俺を送り出してくれた人が、最初はお金をたくさん使うからって結構な額をくれただけだ。だから、明日からクエストで稼ぐつもりだ。」
「そうですね、私も明日明後日は同行できるので頑張りましょう。
あ、宿に着きましたよ。」
リーフの視線の先を見ると、ちょっと古めかしい木で出来た宿が見えた。
「森の休み所っていう宿です。
私はもう村の皆と昼に一旦荷物を置くために、部屋をとったので内装を見たんですけど、宿のほとんどが木で出来ていて、中はまるで森の中にいるような自然溢れる落ち着きのある宿ですよ。
それにご飯も美味しいですね。バイキング形式になっていて、時間形式なんですけど、時間の最初の方が暖かくて美味しいご飯が食べられますよ。」
「へぇ……それは楽しみだな。」
俺はどちらかと言えば、静かなところが好きだ。
しかも、宿という体を休めることが出来る施設で静かな環境なのはかなり嬉しい。
あと、この世界に来てからまだ何も食べていないため、夕食も待ち遠しい。
「さぁ、入りましょう。」
木でできている森の休み所という看板の横の出入口の扉を開け、リーフの後について行った。
「……まるで森の中に迷い込んだみたいだな。しかも、自然の香りがして落ち着く。」
宿のなかは外よりもほんの少し暗い。まるで日の当たらない森の中のように。おまけに花や小さな木も自然に見え、飾り付けるように宿に置かれていた。
さすがにそれだと辺りが見にくいからだろうか、ところどころに元の世界でいう蛍光灯のような光であたりを照らす魔法灯がついていた。
魔法灯とは魔石をはめ、その魔力で光るこの世界では一般的に普及している物だ。
「ね?言った通りでしょう?」
「おや、リーフちゃんおかえりなさい。」
宿の店員と思われる70代ほどの小柄なおばあさんがリーフを見ると、声をかけてきた。
「ただいまです、おばあさん。夕食まではまだ時間がありますよね?」
「そうだねぇ、あと30分もしたら夕食になるよ。
ところで隣のお兄さんはお知り合いかい?」
おばあさんの興味がこっちに移ったようだ。
「夕食はまだみたいですね、ユウキさん。
お知り合いというか、今日会ったばかりなんですよね。もうお友達みたいな感じですけど。
ユウキ・ツキモトさんっていう人で、泊まる宿屋を探しているみたいだったので、ここに連れてきたんですよ。」
「始めまして、ユウキ・ツキモトだ。
この宿、とても落ち着いていい感じだな。森の中にいるみたいだ。」
自己紹介をし、宿の感想を素直に言ってみる。
「おやおや、嬉しいことを言ってくれるねぇ。
この宿は50になる前にじいさんと一緒に建てたんだよ。疲れた人達が落ち着いて休めるようにってね。落ち着けるにはなにが必要かと、二人で悩んだ結果、森とかいいんじゃないかって思ってね……この宿屋ができたんだよ。」
褒められたのがよほど嬉しかったのか、聞いてもいないのにこの宿を開いた当時のことを話してくるおばあさん。その時に落ち着く=森の中というイメージが浮かんできて、こんな感じの内装にしたのか。
正直いって大正解だと俺は思った。
「おっと、こんなばばあの昔話をされても困だろう?
本題に移ろうか。お兄さんは何泊するんだい?ここは1泊朝夜2食つきで5000ギルだよ。」
とりあえず、しばらくはビギシティを離れるつもりは無いため、10泊くらいにしておこうと思う。
まだビギシティにいたければ、後からまた言えばいいしな。
「とりあえず10日頼む。」
手持ちに黄色硬貨が4枚しかないため、紫色硬貨を出す。
「はい、じゃあ5万ギルのお釣りね。これが鍵だよ。もし外に行く時はあたしに預けてね。
あと、リーフちゃんも預かってた鍵だよ。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「あと、ご飯はバイキング形式になってるから好きなだけ食べな。朝は7時から9時まで、夜は6時から9時までだからね。」
「楽しみにしているよ。」
お腹が空き始めたため、夕食を楽しみにニヤリと笑いながら、俺はリーフとともに自分の部屋へと向かっていった。
「えーと、ユウキさんはここの部屋みたいですね。私はもう少し奥の部屋なので少しの間お別れですね。あとで、夕食時に呼びに来ます。」
ぺこりとお辞儀をして、リーフは奥の部屋へと向かっていった。
それを見届けて俺は自分の部屋に入る。
「おぉ、いいね。まるで元の世界のホテルみたいだ。」
ベットはもちろん、木製の小さな机と椅子。そして、もうひとつ部屋がありそこは体を洗い流すための桶と水が出るであろう蛇口に数枚のタオル、それに服を洗うための洗濯板もあった。
「洗濯板って……昭和ですかねぇ。」
洗濯板なんて使ったことないが、まぁなんとかなるだろう。
とりあえず、夕食まであと20分近くあるだろうし、俺は体を洗うことにした。
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