第2話 それは優しさか十把一絡げか

だいたいこんな形でロメリアを国外へ連れ出す予定ではなかったのだ。

いや、そもそも『大聖女』というダーウィネット・ダーウィン属王国の中でも唯一の席に鎮座する者が、そうおいそれとその座を離れるべきではない。

ヴィヴィニーアが以前次々と繰り出していた『我儘』は、まだ国内だから許されたのだ。

むろん『大聖女ロメリア』として、各地巡礼の決まりはあるが、それには巡った地を観光するオプションはついていない。

むしろ数日間の滞在のうち、一日の八割を訪れる者たちへの祈祷とその神殿にいる第一聖女からいる限りの聖女候補までの能力アップの祈祷、そしてその土地自体の安全を祈祷するなど、おそらく王都の大神殿にいる時よりも己の時間は無いに等しくなる。

それもこれも何かといえばロメリアの元に飛んで行ってしまう第二王子が同行していないことをいいことに、本来ならば現地の聖女に担わせている役目を、「せっかく大聖女様がいらしたのだから」とやらせているからだ。

だいたい聖女たちの能力を底上げするような祈祷は大聖女でなければ務まらないが、その他のことを肩代わりさせられる謂れはない。

それを文句と毒舌を小さく呟きながらもロメリアが承諾してしまうのは、各地域の第一聖女のほとんどが近親血縁者であるためだ。

例えばロメリアの故郷、フェディアン領中央神殿の第一聖女及び第二聖女はそれぞれ長姉ラディアと、三姉のレナである。

一番血が近いのはこの二人だが、他にも南のガンダレス領中央神殿のミーニャは母の従妹で、西のウェブーラ中央神殿の第一聖女ティジャスと第三聖女のクォールンは母同士が姉妹であり、ロメリア自身のはとこでもあった。

他の地域の神殿にも大なり小なりフェディアンの血が流れているものだから、姉妹だけ大聖女の力を発揮することを限定してしまえば要らぬ反発を呼ぶと思われると予想されるから、なかなか無碍にはできない。

「しかし、だからといって……こ、こんな形で婚前旅行など………」

「何か言いまして?」

ブツブツと呟くヴィヴィニーアは、自分が口に出している今の現状をようやく自覚し、その声をだんだん小さくしてしまった。

真っ赤になって俯く婚約者の金色の頭頂部を見ながらロメリアはサラリと聞き返したが、実のところ何を言っていたのかははっきり聞こえている。

おそらく馬車の中で向かい合わせで座るふたりの足元に寝そべる大きな白犬──ヴィヴィニーアの聖獣であるデュークも、めんどくさそうに「わふっ」と溜息のような鳴き声をひとつあげて頭を沈めた。



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