26話「し」
お化け屋敷内
翔太郎視点
お化け屋敷に入場すると、映像で順路などの説明を受け、その後は薄暗い精神病院の中を徘徊することになった。
順路通り進んでいくと、途中で置物の携帯電話が鳴り出すなどの仕掛けがあって、シンプルに驚いた。
「翔太郎、今なんか居なかった?」
捜索していた部屋の隅の方を、志渡が指さした。
「え?何も見えなかったけど」
「ぜったい居たって……早めに進もう。この際前の二人と合流してもいいや」
俺と志渡が歩くスピードは徐々に速くなっていった。
(せっかく志渡と二人きりになったし、どこかでカッコイイとこ見せたいな……)
俺は恐怖の傍らでそう思っていた。
ナースステーション、病室、研究室(?)階段、病室。物音がするなどの仕掛けに驚きつつも、”それ”が直接出てくることは無かった。
順路通りに進んできた俺たちは、一つの大きめの部屋に辿り着いた。
「霊安室……」
俺は扉の上にある看板の文字をそのまま読んだ。
「霊安室って、あれだよね……。亡くなった方を置いておく部屋……」
志渡は今まで以上に怖がりながらそう言う。
「行くしかない」
「……うん」
俺はドアノブに手を掛けた。
もう片方のドアを、志渡がゆっくりと開ける。それに合わせて、俺もドアを開けた。
部屋にはベッド(?)のようなものが沢山並べられており、シーツは不自然に盛り上がっていた。シーツの下に潜んでいる物が何なのか、考えたくもないが、察してしまった。
「出口見えるよ、意外と短いね」
志渡はそう言いながら、壁に掛かれた矢印を指さした。
ガッ!!
伸ばされた志渡の手首が、どこからともなく現れた”何か”の白い手に捕まれた。
「うわああああ!!」
「きゃああああああああああ!」
俺は志渡に触れたその手を振り払い、志渡のペースに合わせて走り出した。
走ったら俺の方が早いだろうけど、志渡を置いて行けない。
振り返ると、その手の主はまだ俺達を追いかけている。
無造作に暴れる髪の毛が邪魔をして、”何か”の顔はハッキリ見えない。
「大丈夫!」
俺は志渡の手首を掴み、少しスピードを上げる。
視界の奥に自然光が見えた。
「もうすぐ!」
絶叫し続ける志渡と共に、俺は精神病院から屋外へと飛び出した。
出口の少し先で、二人そろって地面に倒れ込んで四つん這いになる。
「……」
「……」
呆然とする俺と志渡。振り返っても、”何か”の姿は無かった。
俺はお化け屋敷の全貌を見上げる。
「ゴールだ……」
俺は志渡の手を離した。
「おかえり~」
前方から声が聞こえたので視線を向けると、ベンチに座って手を振っている怜雄と奈良坂の姿があった。
「ならしゃか!!!!!」
志渡は立ち上がると、泣きそうになりながら奈良坂の下へ急行し、思いっきり抱き着いた。
「ああ~よしよし」
奈良坂は志渡を抱きとめて、なでなでした。
俺も立ち上がって怜雄の下へ向かう。
「どうだった?」
と怜雄が尋ねる。
「霊安室で出てきて、そっからずっと追いかけられた……」
俺は身振り手振り必死で怜雄に状況を伝える。
「霊安室とか通ったんだ。俺らはくそ長い廊下で追いかけられたよ」
「じゃあルートが違ったみたいだね」
「出て来た後さ、建物の窓に人影あったの、気づいた?」
怜雄はニコニコしながら建物を指さした。
「人影……?」
建物から飛び出てきて、俺は確かに建物の全貌を見上げた。
その時に、人影なんて見なかった。
「見てないけど……」
「え?」
「え?」
俺と怜雄の間に、凍てついた沈黙が流れた。
「怜雄、翔太郎、ゆっくり出来るところに行こう」
依然として志渡に抱き着かれている奈良坂の提案で、フードコートに向かった。
ドリンクを飲んで休憩し、各々フードコード内のご飯を選んで食べ終わった。
その後は、このテーマパークを代表するとされるジェットコースター二つに乗った。
怜雄と志渡の三半規管が限界を迎えたので、乗り物に乗るのを止めて、お土産を選ぶことになった。
愛唯とばあちゃんからの熱い要望があった信玄餅と、ブドウ狩りに行ったツユへのお土産として、お化け屋敷のロゴが印刷されたクッキーを買った。
集合時間前にはバスに戻り、陽が落ち始める頃にはコテージに戻って来ていた。
夜ご飯はコテージの敷地内で食べられるバイキングだ。
5組男子は集合して座り、食事中の盛り上がりは凄まじかった。
多分、他のクラスの子からした迷惑だったろうほどに。
お腹がは破裂寸前まで食べ物を詰め込み、なんとか坂を登ってコテージに戻った。
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二日目夜
奈良坂視点
私のコテージのメンバーは、志渡ちゃん、水早、瀬菜ちゃん。
4人で2つの布団に潜りこみ、やっていたのはもちろん恋バナ。
「ツユってさ、普段はクールだけど、怜雄たちと絡むときは子供っぽいよね」
と志渡ちゃんが言う。
「私と2人の時はクールだよ~。本人曰く、彼氏っぽい雰囲気出したいんだってさ」
水早は信玄餅を頬張りながら言った。
「でもね、テニスしてる時は真剣な顔になるの」
「そこは怜雄とか燐斗もそうじゃない?」
と私はブドウのグミを一つ食べた。
「燐斗は裏表無いからね。家でもあのテンション感だから」
と瀬菜は少し呆れながら言った。
「瀬菜ちゃんさ、後輩と付き合い始めたんでしょ?」
と志渡ちゃんが話を振る。
「うん。少し前からね」
今度の瀬菜は、照れた表情をして、頬が赤く染まった。
「年下ってどんな感じ?」
私は尋ねる。
「ん~なんか、普段は守ってあげたくなる。でも、その分カッコいい時の圧は尋常じゃない」
『ああ~』
瀬菜の言葉に、他のメンバーは共感した。
「怜雄、燐斗……今の翔太郎もか。そこ3人は割と後輩属性ない?」
と水早が言い出す。
「怜雄……確かに」
私は今日のお化け屋敷のことを思い出す。
同時に、怜雄の生暖かい温もりも。
「おやおや、ならしゃか。顔に出やすいようで」
と志渡ちゃんが弄ってくる。
「そうそう、どんな感じなの?奈良坂と怜雄は」
と瀬菜が尋ねた。
「今日さ、お化け屋敷二人で回ったんだけど……」
『ほうほう』
私の話に、みんなは同時頷いた。
「お化け屋敷にいる間、ずっと怜雄と手つないでた」
私は顔と心と体が熱くなって、思わず両手で顔を隠した。
『えええええ!?』
「手つないだの?おてて?おてて繋いだのか!?」
「これが攻めたね奈良坂も」
「怜雄はどう思ってるんだろ」
3人は興奮して、各々コメントをしている。
「でも、お化け屋敷出た後も普通の感じだったよ」
私はお化け屋敷ごの怜雄の雰囲気を思い出すが、いつもと変わらなかった。
「こんなに攻めてるのに、良くも悪くも気づかない怜雄もどうかと思うな!」
と瀬菜ちゃんがぷんすか怒った。
「本当は気づいてて、構って欲しいから鈍感なふりしてるとか?」
と水早が言う。
「ん~。幼馴染の私には分かる。シンプルに気づいてない」
私はそう断言した。
「もう受験とかで忙しくなるし、行事も少なくなるからね……」
と志渡ちゃんは私のグミを1つ食べた。
「自分のタイミングで、早いうちに告白したいと思ってる」
私はまた両手で顔を隠した。
『まじか!』
「応援するよ、奈良坂」
「ならしゃかも青春するんだ!」
「私、ツユ、奈良坂、怜雄でダブルデート行こうよ~」
その後、ペチャクチャと会話を続けたが、2日分の疲労も相まってすぐに寝落ちしてしまった。
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修学旅行3日目(最終日)
翔太郎視点
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