13-02 魔女が信じた世界

 アリシアはお城でフィリスとアレクに別れを告げ、イデアルへと戻った。

「ふう⋯⋯疲れた」

「まったくです」

「本当⋯⋯ここに帰るのが待ち遠しいと思うなんて⋯⋯」

 アリシア、ミルファ、リオン三者共に、気持ちは一緒だった。

 時間はもう昼をだいぶ過ぎており、もうじき夕暮れといったところだった。

 とりあえずアリシア達はギルドを目指した。


 そしてそこは酷い有様だった。

 沢山の冒険者達が倒れていた。

 製薬会社の職員たちも倒れていた。

「これは一体⋯⋯」

「お酒臭いですね⋯⋯」

「ずっと飲んでいたのかな?」

 そして一人元気な者がいた。

「あっ! リオンお帰り!」

 ナロンだった。

「ただいまナロン⋯⋯みんなは?」

 そう聞かなくてもわかる事をリオンは聞く。

「みんな潰れちゃった、まあこの二日間飲みっぱなしだったし」

「ナロンは平気なの?」

「うん、だってあたしはドワーフだし!」

「⋯⋯そう」

 そんな二人のやり取りをアリシア達は見つめていた。

「魔女様たちもお帰りなさい、そして明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとう、ナロン」

「おめでとうございます、ナロンさん」

 ナロンは帝国臣民だ、その独特の新年のあいさつでアリシア達も返した。

「ところでセレナさん⋯⋯どこ?」

「セレナさんですか? たぶん今は自室で寝ているかと⋯⋯」

 そしてそんなアリシア達にゆっくりと辛そうに近づくセレナがやって来た。

「これは⋯⋯よく戻ったリオン、そしてアリシア殿⋯⋯」

「大丈夫ですか? セレナさん」

「⋯⋯さすがに飲みすぎた」

 そんなセレナにアリシアは軽く魔法をかける⋯⋯

 セレナの体調はそれでだいぶマシになった、アリシアは自業自得だと思っているので完全には治さなかったが、それでも話くらいは出来るくらいには回復した。

「お⋯⋯おお、ありがとうアリシア殿」

「別にいいです⋯⋯少し話があるので」

「わかった」

 こうしてアリシア達四人はセレナのギルド長室へと向かった。


 そしてアリシア達はお城での二年祭のあらましを報告した。

 基本的にアリシアとミルファとリオンは話す内容が全く違う、それはそこで過ごした内容の差だった。

 そんな三人の話を少しづつ聞きながらセレナは頭の中でその二年祭で起こった出来事を組み立てていく、そして――

「では特に問題はなかったんだな」

「たぶん⋯⋯私たちが感じる範囲内では」

 そうアリシアが締めくくった。

「そうか⋯⋯アレクはリオンとネージュ両方を娶る事にしたか⋯⋯それでいいのかリオン?」

「はいセレナさん。 相手はネージュだし、むしろ嬉しいです」

「そうか⋯⋯」

 セレナはリオンがアレクに惚れている事は知っていたが、ここまで独占欲がないとは知らなかった。

 そして幸運だったと考える。

 リオン一人だけがアレクの妻としてやっていく未来はかなり辛いものになると想像していたからだ。

 アレクを愛しているだけではいずれやって行けなくなるかもしれない⋯⋯そんな風に考えていた。

 そうなる未来に備えてどれだけ今から仕込んでいけるかと考えてもいたのだ。

 しかしリオンとネージュが信頼関係を築き互いの得意分野でアレクを支えていけるなら、わりと安心できる。

 そうセレナは思った。

 そして何となくセレナはアリシアの目を見る。

 アリシアもまたセレナの目を見る、そしてお互い思惑とは違ったが上手くいったという安心を共有するのだった。

 そして話は変わる⋯⋯

「セレナさん、アレク様に計画の事話しました、おそらく実行する事になるでしょう」

「ここと王都を転移門で繋ぐか⋯⋯一大事業だな」

 セレナは数日前に、ここイデアルを中心とした世界と繋げる魔法転移門ルーンゲート構想を聞いたばかりだった。

「まずはここと王都だけ繋いで、しばらく様子見になると思います」

「慎重だな⋯⋯だがアレクなら上手く纏めるだろう」

 セレナはアレクのそういった能力を信頼していた。

「おそらく沢山問題が出てくると思いますが、よろしくお願いします」

「任せろ⋯⋯それにこの街にはまだ娯楽が全くないからな⋯⋯気軽に王都と行き来出来るようになるのはありがたい」

「ホントに作るんですね⋯⋯凄いな魔女様は」

 この話をあらためて聞くリオンはただ驚いていた。

「これからは私が送り迎えしなくてもネージュがここへ来やすくなるから、会う時間は増えるんじゃないかな?」

「そっか⋯⋯」

 リオンにとっては魔法転移門ルーンゲートそのものの凄さはイマイチ理解できないが、その結果で大切な人と会える時間が増えるというのはわかりやすいものだった。

「そしていずれは世界中とも繋がる予定⋯⋯かな?」

 セレナは始めこの計画を聞いた時とんでもない事になったと思った。

 しかし反対はしなかった。

 たとえどれだけ問題が起きようともそれを上回るメリットがあるからだ。

 そしてそれを作った事をアリシアに後悔させない事が、これからのセレナ達の新しい仕事だ。

「話をそう急ぐな、まずは王都とここから⋯⋯だからな」

「そうですね」

 一歩ずつゆっくり進もうとアリシアは思った。

 そして話を終えたアリシアはミルファと共に魔の森へと戻ったのだった。


 魔の森へ戻ったアリシアとミルファはやっと重たい装飾過多な儀礼用の服から普段着に着替えて、やっと寛いだ。

「ふう⋯⋯ここに戻るとやっと安心する」

「そうですね」

 最近になってミルファもここ魔の森が安心できる場所だと思うように毒されてきていた。

「転移門⋯⋯上手くいくかな?」

「⋯⋯どんなに便利なものでも必ず悪用方法がありますから」

 ミルファに言われるまでもなくアリシアは知っている。

 アリシアは何かを創って誰かに渡す際はそれを悪用されることを前提に考えている。

 そう師である森の魔女に教育されてきたからだ。

「あっ、あの⋯⋯お料理の支度しますね」

「うん⋯⋯ありがとうミルファ」

 こうして用意されたミルファの素朴な料理が、パーティーの料理よりも美味しいと感じるアリシアだった。


 その日の夜アリシアは目を覚ました、そして何となく外へ出る。

 そこには蔵があった、その中へアリシアは入っていく。

 厳重に魔法で封をされた扉を開けて、その中にある物をアリシアは見つめる。

 鈍く輝く巨大な魔石だった。

 その数は十二個ある。

 アリシアが師から受け継いだ遺産だった。

 かつて師が倒した巨大な竜などの魔石だ、それを師はずっと保管していたのだった。

 きっと使い道が無かったのだろう⋯⋯

 そうアリシアは思っている。

 そんな大切な遺産をアリシアはこのまま使ってしまっていいのかと悩む。

 アリシアにはやりたい事、創りたい物はいっぱいある。

 正直もったいないと思っている。

 このクラスの魔石は今後そう簡単には手に入らないだろう、たとえアリシアでも。

 アリシアはこの世界が好きだ。

 今の自分を生み出して認めてくれた、この世界が⋯⋯

 たとえアリシアが何かを創っても、それを認めてくれるこの世界そのものが無ければ意味が無い。

 もしこの魔石の数が十一だったり十三だったら、アリシアはもっと迷っただろう。

 でも十二個だった。

 六つの国を繋ぐのにぴったりの数だった。

「⋯⋯師よ、これが正しい使い道ですよね、私は間違っていないよね」

 アリシアはこれからする事が自分の信じた〝やさしい世界〟へと繋がっているのだと⋯⋯

 だってその決断はアリシアだけの決断ではない、仲間たちと考えて出した答えなのだから。

 そしてアリシアは蔵から出てベットへ戻る。

 その夜はなかなか寝付けない夜になった。

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