11-11 誕生祭一日目 その二 魔女の教え子
アリシア達は城の裏手にあるというミハエルの動物園に来ていた。
そこはドーム状の大きな建物になっており、入り口は二重扉になっている。
おそらく中の生き物が逃げ出さない為の構造なのだろう。
「変わった建物だね」
「ほんとはこんなのなくても大人しいんだけど、みんなが怖がるからね」
どうやらこの建物の目的は外の人間への配慮らしい。
「そうなのルミナス?」
ここへ来ることはフィリスも初めてらしい。
「まあそうね、私もよく来るけどみんな大人しい子ばかりね」
そうこうする内に、内側の扉をミハエルが開いた。
「さあ皆さんようこそ」
こうしてアリシア達は未知の世界へと足を踏み入れたのだった。
「ここが動物園?」
そこには檻とか柵といったものはなく、様々な種類の動物たちが寝転がっていた。
「姉様ちょっとこれ持ってて」
そう言ってミハエルは卵をルミナスに渡した後、その動物たちへと近づく。
犬や猫、鹿やリスなど様々な生物が、とくにケンカする訳でもなく共存し、ミハエルにじゃれついていた。
「もしかしてミハエル殿下にはテイマーの資質があるのかな?」
「やっぱりそう思いますか、アリシアさま」
卵を持ったルミナスはそう答える、どうやら長年一緒にいたルミナスにはアリシアが思うような事はとっくに察しがついていたらしい。
「アリシア様、テイマーとは何ですか?」
どうやらミルファはテイマーが何か知らないらしい。
「テイマーっていうのは動物と心を通わせて、操る事が出来る特別な人の事だよ」
「ねえアリシア、それって魔術なの?」
フィリスから見てもミハエルのこの懐かれようは不自然なものらしかった。
「魔術じゃ無理かな? 魔法っぽいけど生まれながらの資質なら精霊術の方が近いかも?」
「精霊術ってエルフや人魚が生まれながらに持っている魔法みたいな力ですよね?」
「そう、彼らは選ぶことが出来ないけど、精霊の祝福を受けて生まれながらに魔法を持っている、それが精霊術」
「じゃあミハエルのアレは精霊術だと? 確かに凄く小さな頃から動物には懐かれやすかったけど」
「正直立証は無理かな? 今の様子を私が
アリシア達がそんな話をしているうちに、ミハエルはいったん動物たちを下がらせていた。
「アリシア様こっちです、座って話せるところがあるので!」
そういってミハエルが案内した場所はテーブルと椅子がある、休憩所といった場所だった。
「普段はここで本とか読んでるんです」
「そうなんだ」
そうミハエルに説明されたが、アリシアはこんなにぎやかな所で本を読む気にはならなかった。
五人が椅子に座り落ち着いたのを見計らってアリシアは話し始める、使い魔との契約について。
「そもそも使い魔がどういうものか、ミハエル殿下は知っていますか?」
「知ってますけど一応説明してください」
慎重なミハエルの態度はアリシアにとって好ましいものであった。
「使い魔とは術者と契約し使役できるようにした存在、魔物だったり魔獣だったり時にはゴーレムやオートマタなんかの時もある」
「アリシアさまの
「あれは半自立型だからゴーレムとオートマタの中間かな?」
アリシアは少し考えてルミナスの質問に答えた。
ちなみにゴーレムは命令しないと全く動かずオートマタはある程度勝手にパターンで決められた動きを選んで行動する、その為ゴーレムとオートマタは形状ではなく命令方式で区分されている。
「少し話がそれたね、まあほとんどの場合使い魔ってのは生物だね、そして契約した術者の命令を聞くようになる⋯⋯でもあんまり無茶をさせ続けると反乱する可能性がないわけじゃない」
「そうですよね」
「見たところミハエル殿下なら大丈夫だと思うけど、もし手に負えないと思うなら持って帰るけど?」
「いえ大丈夫です!」
ミハエルは自信たっぷりにそう答えた。
「わかった、じゃあまずは契約の仕方から⋯⋯ミハエル殿下は魔女じゃないからより強い契約でないと不安がある、なので生まれる所を見る事が最初の条件」
「刷り込みですね?」
「そう、そして最初に飲ませるのは親のミルクじゃない、ミハエル殿下の血」
一瞬ミハエルの表情が歪む。
「ミハエル、後で切っても痛くないナイフを貸してあげるから」
「⋯⋯ありがと、姉様」
「血を飲ませるのは最初のその時だけだから我慢して欲しい、その後名前をつけて完了」
「名前か⋯⋯何がいいかな?」
「私達の武器の時みたいね」
「そうだよフィリス、みんなの武器は無機物と契約した使い魔と同じだから」
「あれ使い魔なの?」
「まあ区分で言えばゴーレムかな? 自立はしてないしね」
「なるほど⋯⋯でもアリシア、いつ生まれるかわからないのに張り付きっぱなしなのはちょっと大変じゃない?」
「そう思ってその孵卵器には時間を止める機能を付けておいた、大体一時間ぐらいまで孵る寸前で止めておけるから間に合うはずだよ」
「またとんでもないものを⋯⋯」
「そう? 魔法の袋やみんなの通魔鏡にも時間停止の魔法は組み込まれているけど、この場合卵にあまり負荷をかけたくないから一時間ぐらい止めるのが精いっぱいだったんだけど」
そう言いながらアリシアはペンダントを一つミハエルに渡す。
「アリシア様これは?」
「これは今の卵の状態を伝えてくれる道具、今そのペンダントの魔石は青いけどだんだん赤くなってくる、そして光りだしたら時間が止まった、つまり孵る寸前って事」
「それは便利です、ありがとうアリシア様」
そして説明は卵が孵った後の事に移る。
「卵から孵った雛は大きくなるまで出来るだけミハエル殿下自身が餌を与えること⋯⋯まあよほど空腹にならない限りマスター以外からは食べないと思うけど」
「大きくなるまでとはどのくらいですか?」
「飛べるようになるくらいかな?」
「だいたい一月くらいですね」
そういう答えがサラッと返ってくるミハエルは、本当に動物に詳しいのだとアリシアは思った。
「与える餌には注意が必要、生きている餌だと攻撃的に逆に死んでいるというより処理した肉の切り身なんか与えると大人しく育つから」
「なるほど⋯⋯」
ミハエルは考えこんでいる、きっとどうするか決めかねているのだろう。
「結局飛べるようになると勝手に生きた餌を取るようになるけど、それまでに大人しく育ってるとそう暴れん坊にはならないから」
ミハエルは卵を見つめて、その未来に夢を馳せている。
「飛べるようになって一月くらいで育成が成功したかだいたい決まるから、それまでは信頼関係構築に専念する事」
「わかりました」
「上手くいけば今から三ヶ月後には色々出来るようになってるかな、視覚共有や召喚なんかを」
「視覚共有ってこの子が見ている景色を僕が見られるの?」
「そうだよ」
「では召喚って普段は放し飼いでも、呼べばすぐに来てくれるって事?」
「その通り、ミハエル殿下が召喚魔術を覚えるかその機能の魔法具を使えば可能」
「あはは! 凄いや!」
ミハエルは無邪気に喜んでいる、そういう所は年相応の少年だった。
「よかったわね、ミハエル」
「うん姉様!」
その嬉しそうな表情でルミナスは、アリシアに使い魔を提案して良かったと思った。
その後もアリシアは様々な事を出来るだけミハエルに伝えていく。
そしてそれをミハエルは真剣に聞き、傍に居るルミナスも一応聞いていた。
そんな様子を見ていたフィリスは何となく思った。
アリシアは弟子を取り次世代の魔女を育てる気はないと言っていたが、もしかするとミハエルがアリシアの始めての弟子なのかもしれないな、と。
そしてその間、動物園の動物たちはフィリスやミルファにはミハエルのようによく近づき懐いたが、アリシアやルミナスにはあまり近づかないのだった。
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