11-10 誕生祭一日目 その一 変わった贈り物

 帝国に着いたアリシア達の前に現れ出迎えたのはルミナスだった。

「皆さまようこそ帝国へ、我が弟ミハエルの祝福の為に遠路はるばる、ありがとうございます」

 そう言って一礼する。

 先月のルミナスの誕生祭の時はこの役目を弟のミハエルが行っていたのだが、たぶん代わりばんこなのだろう。

「歓迎ありがとう、ルミナス殿下」

 エルフィード王国を代表して話すのは国王のラバンだった。

「では皆さま、ゲストハウスへご案内します」

 こうしてルミナスの案内で、いつものゲストハウスへと案内されたのだった。

 そしてここまでルミナスは、アリシアが違和感を覚えるくらいしっかりとしたお姫様だった。


 ゲストハウスへ到着した一同はそれぞれ別の部屋でくつろぐ。

 アリシア達が案内された部屋はやや大きめの四人部屋であり、案内したのはルミナスだ。

「あんたたちはここよ、一緒の部屋の方がいいでしょ?」

「そうね、ありがとルミナス」

 そうフィリスが答えるがアリシアはベッドが四つなのに気付く、それを見たルミナスは、

「私もここに泊るけど、いいでしょ?」

 この四人はしょっちゅう一緒に話し合ってはいるが、一緒に寝る事はほとんどなかった。

 そもそも魔の森にフィリスとルミナスが泊まる事はないからだ。

 ⋯⋯一部の例外を除いて。

「楽しくなりそうだね」

 喜んでいるアリシアを見てミルファも嬉しくなったのだった。

「そうだルミナス、相談というか頼みがあるんだけど」

「あら何かしら?」

 アリシアは持って来た孵卵器の中の卵をみんなに見せた。

「少々予想が外れた、三日後のミハエル君の誕生日までに孵る可能性がある」

「そうなの?」

「うんそう⋯⋯で、使い魔契約には刷り込みも利用するからミハエル君は孵る所を見てなきゃいけない、だから先に渡しておきたいんだけど、いいのかな?」

「刷り込みって最初に見たものを親だと思うやつよね⋯⋯別にいいんじゃない、そもそも誕生日の贈り物をその日に持って来ないなんて珍しくないし」

 そうルミナスは答えた。

「当日に持って来ない?」

「それはねアリシア、私達王族や貴族なんかへの贈り物はそもそも持ってくる事が出来ないようなものもあるからよ」

「なんですかそれは?」

 どうやら好奇心に勝てずミルファが思わず訊ねる。

「畑だったり船とかの時もあったわね⋯⋯ルミナスは?」

「船は私もあったわね、現物を見たのは二年後だったわ」

「⋯⋯畑って何? それに二年後って?」

 アリシアの価値観にはない誕生日の贈り物だった。

「畑って言うのはブドウ畑よ、王国ではワインの製造が盛んでその銘柄は畑の名前になるから」

「てことは、フィリスの名前のワインがあるの?」

「ええまあ」

「では船が二年後とは?」

 今度はミルファの問いにルミナスが答えた。

「共和国、東の都ポルトンは広大な森林地帯でそれを使った船の製造が盛んな国なのよ、それで私やフィリスがそれぞれ産まれた時に私達の名前の船が建造されたんだけど、老朽化で十歳の時に二号艦を建造したわけ」

「それの完成に二年かかったの?」

「⋯⋯完成自体は一年くらいだったはずだけど、実物を見たのが二年後だっただけね」

「私もそんな感じかな」

「ふーん、ちょっと見てみたいな」

「まあそれはまたいずれ、私の名前のルミエール号は戦艦だから主に北の海での哨戒任務に就いているわ」

「ルミエール? ルミナス号じゃなくて?」

「船だからね、沈むこともあり得るし名前がそのまんまだとその時縁起が悪いから少し変えるのよ、ちなみに私の方はフィリシエル号よ」

「そっちも戦艦なの?」

「戦艦というよりは漁船かな? いつもは沖の方で漁業に使っているそうよ、別に戦えない訳じゃないけど」

「お二人の船なのにちっとも乗ってらっしゃらないのですか?」

「まあそうね」

「私達の名前の船が民たちの生活や安全を支えている、それが巡り巡って私達の名誉になる⋯⋯そういう贈り物なのよ」

「そういえば師の名前の客船もあったな⋯⋯でも名前が一緒だけど?」

「森の魔女様の一号艦の建造当時には、名前を変えるような風習がなかったんじゃないかしら?」

「確かここニ十年くらいよね、名前をいじるようになったのって」

「そのうちアリシアの船も作るんじゃないかな、あの国は」

「そうね、来年はアリシアさま十五歳ですしね」

「そっか、そうなるかもしれないのか、楽しみだ」

「⋯⋯私は遠慮したいです」

 一方ミルファは自分の名前の船が作られるなど、考えただけで嫌だった。

「じゃあ卵は帝城でのあいさつの後にでも渡す?」

「それでよろしいのではないかと」

 こうしてアリシアの贈りものは、ミハエルの誕生日の前の今日のうちに渡す事になった。


 いつもの様にエルフィード王国の一同が帝城にて皇帝のアナスタシアに面会し挨拶する。

 アナスタシアは一瞬目が合ったアリシアに対して気まずそうだったが、アリシアは特に気にしていなかった。

 いつも通りの挨拶の後、アナスタシアはリオンに話しかける。

「リオン殿こうして会うのは初めてだな、我が帝国はその昔エルフ族には酷い事をしたが許されるよう、これからも力を尽くす」

「⋯⋯はい、こちらこそよろしくお願いします」

 かつての帝国は大戦争で多くの森を焼き払った、その結果現在帝国にはエルフ族の集落はなくなってしまったのだ。

 その時逃げ延びたエルフの多くが、南のゾアマン大樹海や東のポルトン大森林へと移住したのである。

 一応ゾアマンの族長の娘であるリオンだが当事者ではない為、当時の知識はあっても今の自分に言われても困るというのが本音だった。

 そんなやり取りの後アリシアはミハエルに話しかける。

「ミハエル殿下、この度はおめでとうございます」

「ありがとうアリシア様」

 ある意味子供らしくない、しっかりした対応のミハエルにアリシアはそのまま話し続けた。

「少し早いんだけど今渡しておく、これが十歳の誕生日の贈り物です」

「⋯⋯卵?」

 そばで見ていたアナスタシアとアルバートが覗き込む。

「アリシア殿、なんの卵だそれは?」

「これは死の烏デッド・レイブンの卵だよ、母様」

 あっさりとそう看破したミハエルに、アリシアは少し驚く。

「よくわかりましたねミハエル殿下、見極めるのは難しいのに」

 アリシアは魔力を用いた鑑定などで中を透視したりして判断できるが、ミハエルがそういった事をしていないのは明白である。

「前に図鑑で見ました、でも実物は初めてで当たっててよかったです」

 アリシアはその図鑑に興味があったが、ひとまず置いておく。

「そうこれは死の烏デッド・レイブンの卵、これより数日のうちに孵る⋯⋯その後あなたの使い魔になる」

「僕の使い魔だって!」

「それは本当に大丈夫なのか、アリシア殿?」

 喜ぶミハエルとやや警戒するアナスタシアに、アリシアは説明する。

「雛が孵る所からする契約だから主人に攻撃する事はないですよ、でも心配なら別のものを用意するけど⋯⋯」

「いやいい! これがいい! ねえ、いいでしょ母様!」

「仕方ないな⋯⋯アリシア殿、何かあったさいは頼るかもしれんが構わんな?」

「もちろん、それを含めての贈り物です⋯⋯まあそんな心配はないと思うけど」

 どうやらミハエルはさっそく卵に夢中のようだった。

 そんなミハエルを見ながらアリシアはアナスタシアに聞く。

「この後色々説明したいのでミハエル殿下をお借りしてもいいですか? なるべく早く卵が孵るまでに伝えておきたいので」

「ああ構わんぞ、ルミナスお前も同席してよく聞いておいてくれ」

「はっ! お任せあれ母上!」

 ルミナスはふざけた返事をする。

「本当に頼んだぞ」

「アリシア様、お話でしたらあそこでしましょう、案内します僕の動物園に」

「動物園?」

「ミハエルが飼っている沢山の動物を飼育しているところよ、城の裏手にあるわ」

 こうしてアリシア達はミハエルの案内の元、彼の動物園へと行く事になったのだった。

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